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東方楽々記  作者: COPPE
第八章 妖怪の山を登ってみた
208/223

食欲の秋の誘惑

現在午前3時。起きるのは午前6時。

大丈夫か?


いや、大丈夫じゃないな。居眠り運転警報。



「そうかそうか。それはよかった。秋の神様に褒めてもらえるなんてな」



少し笑いながら言う楽冶に、私の顔は恥ずかしくて少し赤くなる。うう……言わないと言ってたのにすぐ言っちゃった。本当に情けないなあ。

だけど赤くなっても焼き芋を頬張るのはやめない。だって美味しいんだもの。モグモグ。



「穣子……あんた何してんの?」

「……えっ!何が?」



顔が赤くなってるのバレてないかなー。何て思ってたから、姉さんの質問に答えるのが遅れてしまった。これもすべて、楽冶の作った焼き芋のせいだ。もう!



「何が?じゃないわよ。何顔を赤くしたまま頬張ってるのよ」

「うっ!」



バレてた!?さすが姉さん。私との付き合いが長いだけあるわね。生まれてからずっと一緒だけど。

……まあこうなったら仕方ないわ。焼き芋が美味しすぎるからって言えばいいのよ。



「や、焼き芋が美味しいのが悪いのよ……」

「あ、そ。じゃあ次のはいらないわね」

「えっ?」



どういうこと?そう思った時、少し匂えば分かる焼き芋の甘くていい匂いが、私の鼻孔をくすぐった。その甘い匂いのほうを見ると……楽冶がサツマイモを焼いていた。いつの間に!?



「楽冶ー。穣子はいらないって」

「そうかそうか。じゃあ俺と静葉だけで分けるか」

「ちょ、ちょっと待ってー!」



姉さんの言葉を聞いて、私は必死に待ったをかける。何でそんなことになったのかは分からないけど、焼き芋が食べられなくなる事態だけは避けないと。



「あら?どうしたの?」

「わ、私も欲しいなーって……」

「だって焼き芋が美味しいのが悪いって言っただろ?悪いものは食べさせられないしな」



げっ。楽冶も聞いてたの?それはそういう意味じゃなくて、自分が言わないと言ったことを、すぐに言ってしまった自分が恥ずかしかったから赤くなってたわけで。それを言ってしまった理由は焼き芋が悪……



「……私が悪いです」

「(クスッ)もう。穣子が考えてることなんてすぐ分かるんだから。人から貰ったものにケチつけようなんて思ったらダメよ?それに一応神なんだから、人間の前では見本になるようにしないと」

「うう。ごめんなさい」



姉さんからこう言われては、ちゃんと謝るしかない。昔から姉さんには敵わないのよね……

やっぱり妹だからかなあ。

楽冶は私と姉さんに焼き芋をもう一つずつ配ってくれた。持つ部分を紙で包んではいるが、それでも少し熱かった。だけどそれが、できたてという証拠でもあるのだ。

一口食べると一瞬「熱い!」と思ってしまうが、その後のホクホクとした感触や、焼き芋ならではの匂いが口いっぱいに広がる。何故毎年食べている焼き芋と比べて甘いのだろうか。

ただ単に今年のが甘いだけ?



「やっぱり美味しいわね……甘いわ」

「それにはコツがあってだな。まあさっきも言ったように教えないけど」

「何でよー!」



あ。やっぱり何かあるんだ。んー。それよりも、やっぱり美味しいって言ったほうがいいよね。ありがとうのほうがいいかな?うーん。姉さんが先にお礼を言っちゃったから、出遅れている感じがして言いづらいわ。

でも言わないと何か悪いし。空気っぽいし!



「その……美味しいわ。ありがとう」



よし!言えた!ちゃんとお礼が言えたよ!

姉さんはこっちを向いて微笑んでいる。だけど楽冶は何故か驚いたような顔で……



「何よ」

「いや、ちゃんと正面から言えるんだな。と思って」

「失礼な!私だってお礼くらいは言えるわよ!」

「うーん。さっきは意地張ってたような気がしたんだが」

「そうね。張ってたわね」

「姉さん!分かってても言わないで!」



きゃー!また恥ずかしいことになってるじゃない!楽冶が失礼なのもそうだけど、姉さんがバラしちゃダメでしょう?さっき意地張ってたことがバレてたってことは、今回は頑張って言ったってこともバレてるわよね。うわぁ……これはちょっとショックね。



「あ。すまん。気に障ったなら謝る」

「……いいわよ」

「静葉。これって大丈夫なのか?

「そうねえ。穣子って結構意地っ張りだから」

「大丈夫じゃねえじゃん」



そんなことないわよ。大丈夫よ。こんなことぐらいで意地張ってちゃ神が務まるわけないもの。

だけど姉さんに言われたから、意地張ってるフリしておこうかな。もちろん赤くなっている

であろう顔を見られたくないという事実もあるけれど、そこはあまり言わないで欲しい。



「うーん……じゃあこれいるか?」



楽冶に声を掛けられたので振り向くと、半分くらいまで食べられた焼き芋。つまり楽冶の食べかけのものだ。

そんなものに釣られるものか……と思っていたのは一瞬で、あの美味しさを思い出すと、どうしても食べたくなってしまう。結局私は楽冶の手から焼き芋を奪い取り、モグモグと楽冶と姉さんから顔を逸らして頬張った。あー!私のバカバカ!



「楽冶。穣子に甘くしすぎよ」

「それはお前も食べたいだけじゃないのか?」

「バレた?でも今日はいいわ。太りたくないし」



うっ!今、私の心を揺さぶる強烈な言葉を聞いた気がする。いや、気にしちゃいけない。姉さんの言うことに、いちいち耳を傾けていてはダメよ。今日だけで何回恥ずかしい目に合わされたと思ってるのよ穣子!



「いやいや、そんな簡単に太らないだろ」

「食欲の秋よ?今日だけならまだしも、連日こんなことを続けてたら太っちゃうわ」



やめて楽冶!その言葉を口に出さないで!

残り少なくなった焼き芋を指先で摘む。「太る」この言葉で最後の一口が食べられ……(パクッ)ないなんてことはなかった。だって誘惑に弱いんだもん私。これで太っちゃうのかな。あ。何か悲しくなってきたような気がする。



「あら?少しは残すと思ったのに食べたのね」

「もう!そんなこと言って妹を苛めないでよ!」

「静葉はその食べなかった焼き芋を食べたかっただけだろ?」

「あら?そこまで分かってるの?じゃあ焼いてくれればいいのに」

「ばっかお前……本当に太っちまグフッ!」

「女性に太るなんていうのはマナー違反よ?」

「いや、お前が……何でもないっす」



姉さん怖いよ……確かにマナー違反だけど、言った瞬間に膝蹴りをお腹に打ち込むのはダメと思うんだけど。それにネタ振ったの姉さんだし。

だけどそれを言ったら私は飛び膝蹴りされそうだからやめておこう。己の身が一番大事。



「そうそう。穣子初めてじゃないの?」



また少しだけ姉さんにやられた楽冶を尻目に、姉さんは急な質問をぶつけてきた。あまりにも急で、さらによく分からない質問内容だったので私は「何が?」と言うしかできなかった。



「何が?って……生まれてから異性と間接キスなんてしたことあった?私もしたことないけど」

「間接……キス?」



そんなものいつしたっけ?今日は焼き芋しか食べてない。というより異性とは楽冶しか会ってない。そして楽冶から貰ったのが焼き芋で、一個。二個……と半分。半分?半分って確か楽冶から最後に貰った分で。それは確か食べかけ……あ。



「あああああ!」

「あら。やっぱり初めてだったの?ファーストキス?」

「ち、違うわよ!これはノーカウントよノーカウント!」



そうよ!ファーストキスが間接だなんて認めないわ!これはもっと……そう。好きな人とする時に私のファーストキスをあげるのよ!それを気付かない内に、しかも間接何かで失って堪るもんですか!



「まあ自分でそう思うのは自由だけど、そんな簡単に割り切れるの?」

「当たり前じゃない。だって実際にしたわけじゃないんだし……」



そこまで言ったけれど、改めて思いだすととても恥ずかしかった。あーもー!焼き芋半分なんて食べるんじゃなかったわ!


何とか休みの間に書き終わりました。

ら、来週は月曜に戻します……多分


多分←すべてが破綻する素晴らしい(悪い意味で)言葉

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