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第8話 阻止



コブラを使用していいかという自衛隊の打診を官邸が受けたのは、午後2時15分のことだった。



「現在即時に展開できる火力では、それほど怪獣の足止めになるとは思えません。コブラの攻撃によって、相手をより確実に封じます」


官邸危機管理センターの幹部会議室には、練馬の第1師団司令部とカメラでつながっており、柿崎師団長をはじめとする第1師団の複数の幕僚と作戦地図が映っている。


「しかし、コブラが撃墜されるリスクを考慮しなくてはならない。それはどうするんだ?」


豊田大臣が言った。


「コブラを編隊にわけ、普通科と協同しながら、各編隊はそれぞれ別方向から接近し、攻撃を行います。つまり、コブラが攻撃して、離脱している間に普通科が怪獣の頭部を攻撃し、相手の動きを封じます。

今度は普通科に攻撃の目が向けば別の編隊が先ほどとは別方向から攻撃を行い、相手の攻撃を封じる――これを可能な限り繰り返し行います」


福島総理は考えた。そして決断した。


「わかった。その作戦を実行する許可を出す。ただし、被害は最小限度に食い止めろ」





午後2時18分、木更津の第1対戦車ヘリコプター隊に全機出撃命令が下った。


隊長の砧二佐はミーティングルームで作戦を説明した後、こう述べた。


「全員、慎重に攻撃に当たれ。撃墜されることは許されない」


全隊員ははい、と返事した。


隊員達は滑走路を飛び出し、コブラに乗った。


砧二佐は操縦席に乗った後、死亡が確認された三木原一尉以下、10名の隊員達を思い、コブラのエンジンを起動させた。








第32普通科連隊は埼玉県さいたま市にある大宮駐屯地から出発、JR大宮駅にて鉄道輸送され、東京都国分寺市のJR西国分寺駅まで進出した。

隊員たちは西国分寺駅の武蔵野線のホームから、駅の南の、黒煙を上げる破壊された街を見ながら、ホームを降り、駅の改札へと向かった。


第32普通科連隊本部は、西国分寺駅とその周辺に拠点を置いた。


連隊長の霧島一佐以下連隊幕僚と中隊本部は駅前のマンションの屋上にテントをかまえ、そのなかに国分寺市から三鷹市までの地図が広げていた。

幕僚たちがそれを囲んでいる。


「我が連隊は怪獣の後方にて展開するように命令が出た。第1、2、3中隊は武蔵境駅まで進出。第4、5中隊は西国分寺駅にて待機だ」


霧島連隊長は地図を指し棒で押しながら、命令を下す。


「連隊の指揮下には、現在、三鷹から西に向けて進出している第1空挺団の第1普通科大隊と木更津より進出する第1対戦車ヘリコプター隊も入る。

師団長の立案された作戦によって、各部隊が連携して各自攻撃を行うため、我が連隊が指揮をとり、各隊に命令をくだす」


霧島連隊長は指し棒をたたみながら、話した。


「怪獣が接近してきたら退避だ。なお、一部連隊幕僚はいざという時のため、国分寺駅のロータリーにて待機。以上」







「はい、習志野01了解。配置につきました。送れ」


第1空挺団第1普通科大隊の中村二佐は、第32普通科連隊本部と、携帯用II型通信機の骨伝導スピーカーで話していた。


彼らはJR三鷹駅で降りた後、隣の武蔵境駅まで徒歩で展開していた。


怪獣は東小金井駅の南を破壊し、それから東にある自動車学校のあたりにいた。

武蔵境駅から西に1.2キロほどの距離にある。



中村二佐は武蔵境駅の南西にある武蔵野赤十字病院の屋上に展開していた。


病院に人はおらず、今はがらんとしている。

怪獣の予想進攻上におらず、なおかつこの付近で高い建物の屋上で指揮をとることにした中村二佐は、双眼鏡で武蔵境駅付近を眺めた。


怪獣は、歩きが遅いとはいえ、自転車並からそれより少し早い速度で歩いている。


このままでは武蔵境駅にも到着するぞ……そう思った時だった。


「大隊長、コブラ隊見参!」


横で同じように双眼鏡を見ていた陸士長が興奮して言った。


「見参じゃないだろ、ちゃんと報告しろ」


「はっ、北よりコブラ4機とOH11機を目視。目測で15キロの距離から南、武蔵境駅へ向かっています」


中村二佐も双眼鏡で確認した。

あれが編隊の一つというわけか。


『こちら大宮01.各隊へ。作戦を開始する。習志野は怪獣の頭部に向けて攻撃を開始。サイコガンは怪獣に徐々に接近し、攻撃に備えよ』


「習志野01了解。第1中隊、怪獣頭部に対戦車攻撃を実施。射撃は中隊長の判断に任せる」










武蔵境駅南西、つまり怪獣の正面に展開していた第1普通科大隊第1中隊の隊員達が行動を開始した。


01式軽対戦車誘導弾、通称軽MATをもった隊員達は、各所から軽MATの発射筒を怪獣の頭部に向けた。


隊員達は骨伝動スピーカーで中隊長の命令を聞きながら、小型無線機照準器をのぞき、目標の頭部に照準を合わせる。


中隊長が発射の号令をかけた。

隊員達が引き金を引き、数発の誘導弾が一斉に発射された。


怪獣の頭部は爆炎で覆われ、怪獣は一時的に視界を失った。







『こちら大宮01.サイコガンはただちに侵入し、攻撃開始』


『サイコガン01了解。第1小隊、怪獣上空に進入せよ。怪獣頭部に向け、TOWミサイル準備』



サイコガン01こと砧二佐のコブラ以下4機編隊は、速度をあげ、怪獣に向かった。

怪獣は黒煙で周囲が見えないようだが、前を向いていたままだ。


『TOWミサイル発射』




4機のコブラから4発のTOWミサイルが発射された。白煙がまっすぐ怪獣に向かっていく。数秒後、怪獣の頭部に着弾。怪獣は頭を左右に振っている。


『こちらサイコガン01、第1小隊、ただちに離脱せよ』





「怪獣頭部にTOWミサイル着弾。効果は不明なるも、怪獣は頭部を左右に振っています」


西国分寺駅近くのマンションの屋上にいた第32普通科連隊、その本部管理中隊の三等陸曹が双眼鏡で目標を見ながら報告した。

霧島連隊長も同じように双眼鏡で目標を見ながら、戦況を確認している。


連隊長は無線機の受話器を片手に、命令を下す。



『こちら大宮01、習志野01へ、再度攻撃を開始。送れ』


『こちら習志野01、了解、送れ』


続いて怪獣の右正面から数発の誘導弾が当たる。

怪獣はまだ首を振っている。また、動きも鈍ってきた。


上からの報告通りだ。霧島連隊長はそう思いながら、命令を下す。


『こちら大宮01.サイコガンは再度進入し、攻撃開始』


『サイコガン01了解。サイコガン04へ、第2小隊、ただちに進入せよ』


『サイコガン04了解。第2小隊、怪獣上空に進入せよ。怪獣の頭部に向け、TOWミサイル準備』



怪獣の頭部に向け、TOWミサイルが再度発射された。


怪獣は進攻を停止し、その場に立ち止まった。


怪獣は武蔵境駅から南へ伸びる西武多摩川線の線路上にとどまったのである。




「怪獣、進攻を停止しました」


第1師団司令部にそう報告が入った。


と、同時に別の隊員が報告を入れる。


「三沢の第3飛行隊8機が、まもなく都内に入ります。到着予定時刻、1438(14時38分)」


柿崎は時計を見た。あと5分か。


「三沢の飛行隊は現地に到着次第、爆撃を開始だ。第3次攻撃をもってコブラは現空域をすみやかに離脱。地上部隊は爆風等に備えろ」




コブラ第3小隊がTOWミサイルを放った後、師団長の命令に従い、全ヘリがその場所を離れた。


地上部隊も距離をとり、各員が遮蔽物に隠れた。





三沢基地より発進した第3飛行隊のF2支援戦闘機8機、コールサイン『スカイキッド』は東京上空に進入しようとしていた。


『こちらスカイキッド01、全機へ、これよりJDAMによる攻撃を行う。4機編隊ごとにJDAMを投下。各機、怪獣の光線には最大限注意せよ』


各機から了解の返信あり。


まずスカイキッド01をはじめとする4機が怪獣に向けて機首を向けた。


4機が高高度から東京上空に進入後、武蔵野市上空に到着した。


『スカイキッド01、各機、投下』





4機のF2支援戦闘機に搭載されたJDAM 500ポンド通常爆弾が一斉に投下された。

1機ごとに4発のJDAMが搭載されていたため、16発のJDAMが投下されたことになる。


JDAMとは無誘導爆弾に精密誘導能力を付加させる装置のことだが、それを備え付けられた爆弾そのものを言うことがある。

500ポンド通常爆弾に括りつけられたJDAMは、GPSと慣性航行装置によって制御され、後部の尾翼によって調整しながら、目標へ向かっていく。


16発のJDAMは目標に命中し、一斉に爆発した。



爆発は怪獣を覆い、あたりに爆風を引き起こしていた。



西国分寺駅近くのマンション屋上から様子を見ていた霧島連隊長以下、第32普通科連隊の幕僚たちは爆風に身を屈めた。


続いて第2派がやってきた。再度爆発。

周囲に爆風が流れる。



大きな黒煙が武蔵境駅の近くで立ち上った。


そのなかで何が起きているのかわかるまでに時間がかかった。



「怪獣、健在!」


双眼鏡で怪獣を目視した第32普通科連隊の隊員が言った。


やがて黒煙が消え、ゆっくりと怪獣が姿を現す。


怪獣はその場に立ち止まったままだったが、かすかに顔を動かしており、生存していることがわかった。

怪獣の胴体からは黒煙に交じって、白煙がかすかに上がっている。


怪獣は行動を停止している。

作戦は成功したと言えた。


「しかし、なんてやつだ、あの爆撃でもまだ立っていられるのか」


霧島連隊長は思わずつぶやいた。


確かに動きは鈍っているが、普通科の対戦車攻撃を相当数受け、コブラのミサイル攻撃やF2の爆撃を受けても、まだ生存していられる生物がいるのか。


……あの怪獣を本当に倒すことはできるのだろうか。

霧島連隊長の中にふとそんな思いがよぎった。




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