エピソード0~とある転生者視点~
とある転生者の『バッド・エンド』。
「もう転生者はいらない」と「バッド・エンドが嫌い」というような方は、読まないでください。
私は、エリザベート・ヴァルテッリーナ・カゼーラ。
実は、私には前世の記憶がありますの。
ちょっと、そこ。目を逸らさないでくださいまし。
本当に、本当なんですのよ。
ここが、前世でしていた大好きな乙女ゲーム『きみは僕のライトニング・スター』。略して、『きみラタ』の世界だと、娘を生んで数日後に気づきましたの。
娘の名前をお義父様が名づけることになっていましたから、お義父様が名づけた娘の名前を聞いた瞬間、驚きと恐怖で気絶してしまいましたわ。
私が、この公爵家を破滅させる『悪魔の子』を生んでしまったなんて。
なんてことでしょう!?
私はどうしたらよいのでしょう!?
夫は私を気遣ってくれましたが、お義父様とお義母様は私を心配して『悪魔の子』の面倒を見るために屋敷に滞在してくれることを約束してくれました。
その後、私は『悪魔の子』を見るたびに悲鳴を上げるのを必死に抑えるようになりましたわ。
そして、『悪魔の子』を避けるようになりましたわ。
いつか、必ず殺しましょう。
私の未来のために!
夫には、美しい専属執事セバスチャン・チェダーがいますわ。
社交界では、数々の令嬢の憧れの的でしたの。
その中の、数多の縁談の中から前世で言う『肉食系』のラクレット男爵令嬢と結婚して、この屋敷に住んでいますの。
どういう手練手管でセバスチャンを落としたのか気になりますわね。
私と同時期に、ラクレット元男爵令嬢はそれはそれは美しい女の子を授かりましたわ。
『きみラタ』の主人公になるリズを。今は、チェダーだけど後にリズ・ラクレットになる子ですの。
私たちを『悪魔の子』から、救ってくれる子。
数年後、私は男の子を生みました。
スヴァリウスと名付けられた子は、本当に私が産んだと分かる愛しい子ですの。
この子を大切に育て、『悪魔の子』から守る。この子を抱いたその瞬間から、決意を固めました。
スヴァリウスを生んだ数日後、人外だと分かる美しすぎる青年が私の前にあらわれました。
その美しすぎる青年は、『ケルファリアス』と名乗りました。
そして私に一つの提案を持ちかけたのです。
「その悪意の塊である『腐りすぎた魂』を自分に渡すなら、魅了の魔物『ファシナール』の魔石を渡そう」と。
魂を渡す!?私の!?
私が驚いていると、ケルファリアスは
「今じゃない。死後だ」
と言いましたわ。
死後、死んだ後、今でなければ構わない。
私は破滅を免れるため、この美しい青年と『死後、魂を渡す契約』をしましたわ。
それからは、ケルファリアスからもらった魔石で屋敷の者たちに魅了の魔法をかていきましたわ。
リズがこの屋敷を出ていくまでに必要ですもの。
ですが、ごくほんのわずかな一部の者には魅了の魔法がかかりませんでしたの。
このことをケルファリアスに文句を言いますと、「全員が魅了の魔法がかかるわけではない」とそっけなく当り前のように呆れられて言われましたわ。
もうすぐ、リズがこの屋敷を出ていくことになる。
乙女ゲームの悪役令嬢過去編の初日がもうすぐ始まりますわ。
私は、ウキウキ気分で『悪魔の子』に「もうすぐ、リズはここを出ていきますのよ!」と会うたびに何度も言い聞かせました。
『悪魔の子』は今にも泣きそうです。その顔を見て、ますます嬉しくなりましたわ!
生まれて初めて、テンションがこんなに高くなる日が来るなんて!!
私は、スキップをしスヴァリウスの部屋まで行くと私の持つ魔石を分け与えました。
前日、私が「スヴァリウスを守るために、魔石を分け与えたい」というと、あっさりケルファリアスが「構わない」と言いましたの。ただし、私と同じ条件で。
スヴァリウスを守るためなら構わないですわよね?
スヴァリウスには、「『悪魔の子』から、身を守るためよ」とお願いしたら、「大好きなお母様のためですから」と納得してくれましたの。
なんて、可愛い子!
素直な子でお母様、とっても嬉しいわ。
そうして、リズがこの屋敷を出て行く前にスヴァリウスもこの屋敷の者たちを魅了の魔法で魅了していきましたの。
不思議と、魅了の魔法にかからない者もいましたわ。
リズがこの屋敷を出て行く当日は、私はとっても上機嫌♪
だけど、予想外のことが起きましたの。
リズが、この屋敷を去らずラクレット男爵について行くことはなかったのです。
夫は喜んでいましたが、私は泣きそうになるのを必死に耐えましたわ。
きっと、『悪魔の子』が何かしたのね!!
スヴァリウスは、『悪魔の子』の隣にいるリズを欲しがりましたの。
『悪魔の子』が持っていて、自分が持たないのは許せないと言って。
私もそう思いましたわ。
なので、私とスヴァリウスの魅了の魔法にかかっている夫に「リズをスヴァリウスの専属侍女」にしてとお願いしましたの。
その時に、お義父様とその専属侍女がちょうど夫と談笑していましたわ。
お義父様は少し驚いた後、「チェダー家は、自分で主人を選び専属執事・侍女になる一族だ。こちらで決めることはできない。どうしてもというなら、リズにレイチェルかスヴァリウスかを選んでもらいなさい」と優しく諭されましたの。
お義父様には、実家の父母よりもお世話になっているのですから印象を悪くしたくありませんわ。
その夜、夫に「リズがスヴァリウスを選んでくれるか不安」だと話しますと、「スヴァリウスはいい子だから、リズが選んでくれるよ。安心しなさい」そう言われると、安心して眠れましたわ。
翌日、夫はリズに「『悪魔の子』かスヴァリウスのどちらの専属侍女になるか選べ」と言いましたわ。
リズは、迷わず『悪魔の子』を選びましたの。
それでも、夫は可愛いスヴァリウスを選ぶよう仕向けてくれましたの。
ですが、リズは一向に折れる様子がなく夫は諦めてしまわれましたわ。
その時のリズは恐ろしく、『悪魔の子』を背に庇いながら全く目が笑っていませんでしたの。
私を射抜くその視線がものすごく怖かったですわ。
それからというもの、『悪魔の子』はリズの傍を離れることもなく、リズは私たちから、『悪魔の子』を庇ってそばに近寄らせない雰囲気を出し、『悪魔の子』を守っているようでしたわ。
『悪魔の子』なんて、守る必要がないですのに...
『悪魔の子』が、マスケークリス学園に入ってからは『悪魔の子』に様々な悪意をしのばせて贈り物をしましたわ。
時には、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家に逆らえない年頃の子息や令嬢たちがいる家を使って。
それにしても、鈍感なのか『悪魔の子』はそれらに一向に気がつくことがないのですわ。
文句の一つでもいいに、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家に逆らえない家に行ったところ、ものすごく顔を青褪めさせて「お前たちとは二度と関わらない」とガタガタ震えて言われましたわ。中には、奇声をあげて絶叫した者もいましたの。その家の令嬢にも会わせて欲しいと言いましたところ、令嬢は引き籠って一歩も部屋から出ることができないと言われましたわ。
他の家にも行ったところ、同様なことが起こり、中には廃人同然になった人もいましたの。
『悪魔の子』と同じ学園に通っている男の子は、「あんた、魔王様の恐怖を知らないだろ!二度と家に来るな!」と物凄い怒鳴り声で追い出されましたわ。
魔王様?『悪魔の子』は魔王様なんて呼ばれてるのかしら?
『悪魔の子』が学園の卒業が近づいた頃、私がしたことが間違いだと気が付きましたわ。
その時には、もうすでに手遅れでした。
私の可愛い可愛いスヴァリウスは家から追い出され、私と夫はお義父様の預かりになり、なにもない辺境の屋敷に軟禁されることになりたしたの。
私が軟禁されている屋敷に一度ケルファリアスが来て、「だからお前のことを俺が、悪意の塊である『腐りすぎた魂』だと言っただろう」と嘲笑って去りました。
私は、なにを間違えたのでしょう?
私のなにが、いけなかったのでしょう?
私の『なにが』...............




