17.そして、電波少女は完全なる逆ハーレムを諦めた
電波少女は、日々クリス様にゲーム知識を生かして言い寄っているのですが、全く効果はありません。
それどころか、メリッサ様が確実に電波少女の邪魔に入り、温厚なクリス様でさえ電波少女を邪険に扱います。
これには、電波少女が焦りました。
ゲームの攻略情報通りにしているのに、クリス様が自分に全く靡かないのです。
「私が本当のヒロインじゃないから!?」とか「ヒロイン補正ってないの!?」とか血迷ったことを言っています。
それにしても、自分で答えを言っているのに気付かないのでしょうか?
自分に都合のいい解釈しかできないその頭に、それを求めるのは無理かもしれませんね。
電波少女は、『ヒロイン』ではないのですよ。
ヒロインの座を奪って自分の物にしても、『本当のヒロイン』にはなれないんですよ。
だからこそ、『本当のヒロイン』じゃないのにヒロイン補正が発動するはずないじゃないですか。
そういえば、私もヒロイン補正があまり発動されないですね。なぜでしょうか?
どうでもいいことですが。
電波少女は私に保健室に問答無用で放り込まれてから、未知の物体Mがトラウマになったようです。
電波少女は保健室の前を通るたび、奇声を上げながら全速力で必死な形相をして走り去るそうです。この時の電波少女の顔は見れたものではないというのが見た人たちの感想です。
「あの時のあの顔は、『百年の恋も冷める』」と言っていた人もいました。どんな顔なのでしょう?
こう言っては何ですが、攻略対象者の中で一番のイケメンは元の姿に戻ること限定で未知の物体Mです。
未知の物体Mを攻略する気がないのなら、電波少女の愛してやまない完全なる逆ハーレムを諦めたということになります。
ですが、無神経の塊である彼女が早々と念願の逆ハーレムを諦めるとは思えません。
疑り深いと言われたらそれまでですが、電波少女の性格を考えるからこそそう思えるのです。
電波少女はクリス様をなかなか攻略できなくて、それでも逆ハーレムを完成させたくて保健室に行こうとするのですがその度に足がすくんでおバカな仲間たちに心配されています。
他の男に言い寄ろうとしているのに、心配するなんてなんて憐れな男たちなのでしょう。
電波少女を観察していて思うのですが、未知の物体Mはゲームでのヒロインの剛鉄の心でしか攻略できないのではないかと思うのです。
モザイクが必要な攻略対象者って、実際どうかとは思いますよね?
自身の恐怖心や植えつけられたトラウマを無視してでも、逆ハーレムを完成させようという根性はある意味尊敬します。もちろん、同じようなことをしようとは思いませんが。
しかし、自分の思いとは真逆に心は素直というもの。
彼女はついに、心の底から焼きついた恐怖から未知の物体Mを攻略するのを諦めたのです。
その後、彼女は一週間恐怖心と体調の悪さからベットから起き上がれなかったらしいです。
クリス様を物にしようと、電波少女が動き出しました。
メリッサ様はその度に電波少女を注意をするのですが、クリス様にいたっては電波少女をガン無視です。
電波少女の取巻きたちはクリス様に文句を言いたいのですが、私を見ると何も言うことができません。
以前、私が叩きのめして気絶させた上級生(男)たちによると『クロヴィス・パルメザンを魔王様が潰した事件』の時に、スヴァリウス様以外の取巻きたちがその場にいて、私に叩き潰されたそうです。
ストレス発散も兼ねてむやみやたら叩き潰していたので、その場に誰がいたのか分からないのですよ。仕方ないですよね。
「クリス、今日こそ男の子の姿に戻ってもらうわよ!」
学園では身分が関係ないと言っても、ここまで清々しく無視するのは一種の才能でしょうか?
「そこのキチガイ、いくらなんでも生意気よ!」
メリッサ様は、ここ最近の出来事から電波少女をキチガイと認識したようです。
「キチガイじゃないわよ!ちょっと、みんなも何か言って!」
電波少女の取巻きたちを笑顔で威圧しているので、私を恐れている取巻きたちは何も言えないようです。笑顔で威圧しただけで、顔を色を悪くするなんてなんてだらしがないのでしょう。根性を鍛え直す必要がありますね。
スヴァリウス様にいたっては、ここ最近なぜか私を恐れるようになりました。
数日前、スヴァリウス様がレイチェル様に暴言を吐いたのでつい喧嘩を売ってしまったのです。
ワガママ王子がワガママ特権を生かし、数日前得たワガママ王子の専属侍女たち(美女と美少女)と屈強そうな専属執事をけし掛け私を倒そうとしたのですが、残念なことに私は一分もたたずに彼らを叩き潰して沈めたのです。
その一部始終を見たワガママ王子は腰を抜かし、失禁してしまったのです。
この程度で、失禁するなんてかっこ悪いですね。
それにしても、乙女ゲームキャラなのに失禁て。現実だから、新感覚になってしまったのでしょうか?謎です。
クリス様は我慢できずに、とうとう『男の娘』になった経緯を話しました。
「ぼくは、メリッサが好きだからこの格好になったんだよ!」
マジでか。
電波少女は、信じられないものを見るような目でクリス様を見ます。
「だって、メリッサは小さい頃男の人に誘拐されそうになって男の人が苦手になったんだ。仲良く一緒に遊んでいたぼくにだって、近づかなくなったんだよ!お母様に相談したら、女の子の格好にすれば大丈夫だと言われてこの格好をすることにしたんだ」
「甘いわね。私なら、クリスに真実の愛を教えてあげるわよ!」
思わず、私は「『真実の愛』てなやねん」とツッコミそうになりました。
男を侍らすことが真実の愛を教えることになるのでしょうか?私には、分かりません。
何気にプライバシーを勝手に話したクリス様ですが、メリッサ様はクリス様の言い分に感動したようです。
「クリス、本当?」
「そうだよ。だって、そうでもしないとメリッサの傍に入れないじゃない」
「クリス、今までごめんね。愛してる」
「ぼくもだよ、メリッサ!」
二人の世界に入ってしまったクリス様とメリッサ様。
激怒する、電波少女。
「ちょっと、ふざけないでよ!クリスは、私の物になるのよ!」
空気を読んでください、電波少女。いや、空気を読まないからこそ電波少女ですね。
私はとりあえず、クラスメイトが持ってきてくれた黒板消しを電波少女に投げつけて気絶させました。
電波少女を心配して、側による取巻きたち。
私はそこを逃さず、彼らを再び一緒くたに簀巻きにしました。
そして、『縄なわ軽量化君』を簀巻きに巻きつけ保健室まで運び、放り込みました。
クラスメイト達によれば、その間もクリス様とメリッサ様は二人の世界を継続してたとのことです。その様子を見てオロオロするレイチェル様は天使だったとも。
私としたことが、重要なところを見逃したなんて!!
「ところで、リズ。クリスの『男の娘』は止めることになりますの?」
レイチェル様が私にそう聞いたことで、絶望する男子生徒。
逆に期待いっぱいに私を見るメリッサ様。
「このままで。もし、男の子の姿になればキチガイが勘違いしてクリス様に迫って来ますよ」
「そうだよね」
落胆するクリス様とメリッサ様。男子生徒は、歓喜にうち震えました。
「仕方ないわよ。また、クリスに手を出そうとされたくないし」
納得するように言うメリッサ様。
「リズ、なんでスヴァリウスはリズを怖がっているの?」
上目使いで見るという反則技を使うレイチェル様。
天使がそんなことをするなんて、なんて恐ろしい子...!
「大したことはしてないです。なぜでしょうね?」
教室をたまたま通りがかった上級生(男)たちは、
「魔王様、また新たな伝説を!?」
「魔王様、万歳!!」
「魔王様恐怖伝説!」
「くわばら。くわばら」
「俺、魔王様に二度と逆らわない!」
などと言って、去って行きました。
それにしても、なぜ『伝説』?
私程度では、伝説を作れません。
だって、まだまだお祖母様には追いつけないのですから。
あの強さを手に入れるには、私程度ではまだまだ力不足です。
一層精進しないと。
この後から、電波少女はクリス様の周りをうろつかなくなりました。
今、侍らせている男たちを維持することに力を入れたようです。
ヒロイン補正「私は、自己中の成り変わり転生ヒロインの味方にならないよ。そんな子、応援したくないもん。それと、ヒロイン。あなたは、努力の方向性が違うからヒロイン補正力が発動できないの」




