16.電波少女は今日も叫ぶ
土砂降りの雨が降っている朝の食堂で、
「なんでなんで、どうしてどうして、クリス・パルメザンがいないのよ――」
と叫んで癇癪を起す電波少女を見ました。
朝からキーキー声を出して、叫ぶのは止めてもらえません?
私、寝起きは機嫌が悪いんですよ。
ああ、このままじゃ『電波少女・暗殺計画』を立ててしまいそう...
それに、電波少女の後ろの席にクリス様はいますよ。
真っ赤に顔を染めて俯く姿も美しく可愛らしい。
この世界の神はとても罪作りなことをしましたね。
なんていう、芸術品を創りだしたてしまったのでしょう。
私が男なら、襲ってしまいそう...
危ない、危ない、危険な思考に陥りそうになりました。
危険になりそうな思考を中断し、たった今目が覚めたように思考がクリアになる。
目の前を見ると、私を心配そうに見るレイチェル様がいました。
「リズ、大丈夫ですの?」
「大丈夫ですよ。あの、癇癪を起こす子を見ていたら現実逃避したくなりまして」
と、いまやだ喚き散らす電波少女を指差しました。
「確かに、そうかもしれませんわね...」
弟であるスヴァリウス様を見て納得したように頷くレイチェル様。
スヴァリウス様をはじめとしたおバカな仲間たちが、電波少女が喚き散らすのも気にしないでかいがいしく?尽くしています。
しかも、おバカな仲間たちで愛を囁いているようで見た私は砂を吐きそう。
その内の一人は、腰に手を回しながら耳元で。
うわー、気持ち悪すぎ。
恋は盲目というのは、きっとこのことを言うのでしょう。
「リズ、食堂を出ませんこと?」
「そうですね」
レイチェル様は先ほどのスヴァリウス様のご様子に溜め息をつき、
私は食堂を出る前に、クロワッサンとパックジュースを購入して出ました。
なぜ、この世界にパックジュースがあるのかは気にしないのがお約束です。
レイチェル様と教室に入ると、クリス様に先ほどのクロワッサンとジュースを渡しました。
「ありがとう、リズ。それにしても、あの子のせいで朝食がのどを通らなかったよ」
「ほんと、失礼しちゃうわね。何考えてるのよ、あの子」
「お腹がすいていたから、助かったよ。でも、あの子誰なんだろ?」
「そうですわね。何か知ってる、リズ?」
「キチガイなので関わらない方がいいですよ。アレは、カリーナ・ピエール・ロベールです。最近は、学園内の顔だけが取り柄の人たちを侍らせて、反感を買っているキチガイですよ」
「キチガイ?」
「関わるとめんどくさい人種です」
「そう」
クリス様が教室で朝食の続きをとっていると、電波少女が教室に来て、
「ここに、クリス・パルメザンがいるって聞いたんだけど!」
と大声で喚きました。
後には、新たに仲間を加えた『おバカな仲間たち』も一緒です。
クリス様は、教室にいるみんなを気遣って
「ぼくだけど」
と、電波少女のところまで行きました。
「なにか用かな?」
首を傾げて尋ねる様子は、超絶美少女です。
教室にいる男子たちは、悶絶しています。
「ウソでしょ!?クリス・パルメザンって、男の子でしょ!?」
「えっと...」
私は、仕方なく電波少女のところまで行き、
「違います。男の娘です。キチガイさん?」
「元ヒロイン!私のどこがキチガイって言うのよ?」
「人の迷惑返り見ず、思い込みだけで喚き散らす姿がですよ」
「ふざけないでよ!」
「大声で喚き散らしているから、他の顔がいい男の人たちにもこの声が筒抜けですね?」
私が笑顔で言い切ると、顔を青褪めさせる電波少女。
そこに、チェダー家の出来そこないが入って来ました。
「カリーナさんになんてことを言うんだ!」
「おはようございます。お久しぶりです、『出来そこない』さん」
「俺のどこが出来そこないだ!」
「いまやだギルドで、Sランクに甘んじているからですよ」
「そう言うお前はどうなんだ!」
威圧的に叫ぶしか能がないのでしょうか?イヤですね、こういう人。
「もちろん、SSSランクです。先日、お兄さんとお姉さんが愚痴りに来ましたよ。『俺の弟はいつまでも出来そこないだ』と。ものすっっっっごく、落胆していました。ご実家に行って、言い訳の一つや二つしたほうがよろしいかと」
「クッ」
悔しそうに、チェダー家の出来そこないは顔を歪めました。
「それと、キチガイもといカリーナ・ピエール・ロベールさんと仲間たちに素敵なお知らせがあります♪」
言うと同時に、私は電波少女とおバカな仲間たちを一緒くたに簀巻きにしました。
その簀巻きの上から、『縄なわ軽量化君』で縛ります。
電波少女とおバカな仲間たちは、呆然として言葉が出ないようです。
私は教室を出るとき振り返り、
「みなさーん、お騒がせしましたー。これから、生ゴミを捨ててきまーす」
と言って、教室を出ました。
私が何かを引き摺っているのを見た廊下に出ている生徒たちは、道を開けてくれました。
私は、モーゼか何かですか?
保健室に行くまで、階段の上や廊下で引き摺ってもなぜか文句の一つも言われませんでした。
不思議に思い、保健室の扉を開ける前に彼らを上から踏みつけてみたのですが、なにも言われませんでした。多分、きっと気絶しているのでしょう。
今保健室の中には、『不在プレート』が掛けていないので未知の物体Mがいるはず。
私は迷わず、『縄なわ軽量化君』を外して保健室の中に彼らを放り込みました。
そこに、合法ロリ先生がきました。
「アイツらはどうした?」
「中です」
「そうか、仕方ないな。後で引き取りに来るわ」
合法ロリ先生は諦めて、どこかに行きました。
電波少女とおバカな仲間たちは、保健室を出た後精気を無くして大人しくその日を過ごしたそうです。
それを見た合法ロリ先生は、この日行うはずだった罰則を翌日に延期しました。
翌日、合法ロリ先生は校門で電波少女とおバカな仲間たちを待ち構えて『お仕置き部屋』に連れて行きました。
お仕置きは、朝から授業終了まで続いたそうです。
そして電波少女は、「絶対、クリス・パルメザンを攻略してやるんだから――」と校舎の屋上から大声で叫ぶ。
それを聞いて、静かにキレるメリッサ様がいました。
カリーナ・ピエール・ロベールの取巻きたちの代表として、グッリェルモ・チェダーが主人公に怒鳴ったのは、取巻きたちが主人公を恐れているからです。
主人公を怒鳴りつける役を押し付け合った結果、一番立場の弱いグッリェルモ・チェダーがすることになりました。




