13.電波少女がやって来ました
乙女ゲーム設定では、ヒロインのサポートキャラだったカリーナ・ピエール・ロベールが、四年遅れて入学してくるそうです。転入の方が正しいのでしょうか?この辺りのことはよく分かりません。
四年遅れた理由は、貴族としての礼儀ができていない。これにつきます。
礼儀ができていないと判断したのは、彼女の父親。これは、赤の他人が判断することができません。
それでも、まだ礼儀ができているのか心配なのですがこれ以上、学校に通う期間を減らせないとのことです。
この世界の学校は年齢別に学年が決まっていて、飛び級や留年などの制度がありません。
卒業するのも、年齢が決まっています。
カリーナ・ピエール・ロベールとやらは、レイチェル様の社交界デビューの時にアホなことをしたあの時の子娘。
あの社交界以降、カリーナ・ピエール・ロベールを不思議と見なかったのはこれでなぜだか分りました。
今日、カリーナ・ピエール・ロベールが学園に来ます。
ゲーム本編だと、ヒロインが学園に来るその初日です。
電波少女だと思うので、近づきたくはないですね。
憂鬱です。
憂鬱だ。
憂鬱かもしれない。
なんて思いながら、食堂に着くと先に食堂に来ているはずのレイチェル様とクリス様とメリッサ様を探しました。
すると、すぐに見つかりました。
カリーナ・ピエール・ロベールが大声を出して、レイチェル様に喧嘩を売っていました。
謂れ無いことを言われて、レイチェル様が戸惑っています。
「リズ!」
レイチェル様が、私を見つけて駆け寄って来ました。
なので、私はレイチェル様を背に庇いました。
これ以上、電波少女の暴言にさらせるわけにはいけません。
「今日から来た、噂のカリーナ・ピエール・ロベール様ですね。我が主レイチェル様に対する数々の暴言、ピエール・ロベール男爵家に抗議させていただきます」
声がどことなく、冷たくなってしまうのは仕方ないでしょう。
ですが、それに気づかずにカリーナ・ピエール・ロベールは私の手を握り、馴れ馴れしく話しかけてきます。
「リズ・ラクレット!あなた、レイチェル・ヴァルテッリーナ・カゼーラにイジメられているでしょ。私が来たからには、もう大丈夫よ!安心して!私が解決してあげるから」
人の話を聞かないのでしょうか?この女。
私は、頭の悪い電波少女の手を振りほどき、
「私は、リズ・ラクレットではありません。チェダーです。どこから、ラクレットが出てきたのですか?」
「ウソッ!?ゲームでは、ラクレット男爵令嬢だったわよ!」
「ラクレット男爵?ああ、元・母のことですね。あの人と私は、関係ありませんよ」
「そうね!あなた、レイチェル・ヴァルテッリーナ・カゼーラに脅迫されて、大人しくしたがっているんでしょ!私には、分かるわ!」
人の話を聞けや。このクソガキと思い笑顔でキレる私。
「そうではありません。カリーナ・ピエール・ロベール様、先ほどから喚き散らして、皆様にご迷惑をかけているのが分かりませんか?」
感情を出さずに、棒読みで言ってしまうのはしかたのないことです。
「えぇっ!?ウソっ!」
「本当です。自覚がないとは救いようがありませんね」
「イジワル言わないで!お父様に言いつけるわよ!」
「では、私はこのことをレイチェル様のおじい様ジムディクト様にご報告しますね」
『身分を振りかざしてはいけない』という校則を初日から破るなんて、馬鹿ですか。
「もうっ!せっかく味方がいないあなたに私が味方になってあげようと思ってたのに。失礼しちゃうわ。『乙女ゲームのヒロイン』だからって、調子に乗るのは今のうちだけなんだからね!」
と言って、食堂を出て行きました。
電波少女がいなくなったことで、みんなが安心したというのは言うまでもありません。
貴族社会では、情報収集が常識なのにそれができないとは先が思いやられますね。ゲームでのサポートキャラの情報網は、転生電波少女には扱い切れなかったようです。
私は、ほどんどの生徒や先生方から「魔王様」と呼ばれていることを知らないなんで、よっぽどの馬鹿なのでしょう。
それに、あんなのが味方だとか友人になったら品格が疑われます。
レイチェル様の専属侍女としては、それだけは避けねば。
「リズ、あの子とは知り合いですの?」
「初対面です。さすがに、あんな知り合いはいませんよ」
「それもそうね。でも、本当だったんだ。貴族社会では、要注意人物リストに入ってるのよ」
「ぼくも、ビックリだよ。本当に、礼儀知らずだったんだ」
「スヴァリウス様といい勝負ですね。今度、『どちらが礼儀知らずか勝負』をさせてみましょうか?」
「リズ、それだけは止めて欲しいですわ」
「それより、ご飯を食べましょ。あの子のせいで、時間が食ってしまったわ」
私は、転生少女の電波ぶりにテンションが上がりました。
これで、念願叶ってスヴァリウス様を今の立場から引きずり降ろせるかもしれません。
その前に、私がうっかり電波少女を殺らなければいいのですが...




