11.帰省
学校の長期休暇期間に入ったので、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家のお屋敷にレイチェル様と帰省することになりました。
帰ってきてまずすることは、持って帰ってきた荷物の荷ほどきです。
翌日には、レイチェル様のお祖父様ジムディクト様から預かった『学園内でのレイチェル様とスヴァリウス様の寮を別にする同意書』にサインをしてもらいます。
「リズ、これは必要なことなのか?」
と旦那様が言われました。
スヴァリウス様が、レイチェル様と同じ寮になればすることが分かっているのでその対策ですよ。
私は思っていることを顔に出さずに、
「必要です。いずれ、スヴァリウス様はこの領を継ぐと旦那様が決めましたよね?ならば、レイチェル様と同じ寮ではなく別の寮を学園に用意してもらい、そこから何かを学ぶというのが必要だと思われます」
「それもそうだな。レイチェルがいると、スヴァリウスが我慢することになるから好都合だ。わざわざ、すまないな」
頭でも湧いたのですかね、旦那様は。スヴァリウス様がいれば、レイチェル様が我慢しないといけなくなるんですよ。
専属侍女としては、避けるべきとこは事前に手を打つものです。
ここは、ジムディクト様のせいにしてしまいましょう。
「いえ、この提案をしたのは私ではございません。ジムディクト様です」
「そうか。親父はやっと、スヴァリウスを認めたのだな」
感動をして言っている、旦那様。スヴァリウス様を認めているわけではありません。
旦那様や奥様が、スヴァリウス様を我儘が通るように育てているから見限っているのです。
レイチェル様のお祖父様としては、孫娘にできるだけ身近な危険を遠ざけておきたいというのが本音でしょうね。
私は、表情を隠した仮面をしたまま旦那様が書類にサインするのを見届けました。
ワガママ王子の馬鹿親で助かったと、内心ほくそ笑みました。
今回の帰省の重大任務の結果を渡すと『学園内でのレイチェル様とスヴァリウス様の寮を別にする同意書』をジムディクト様は、その時の旦那様の様子を聞いて呆れかえりました。
領地経営は問題ないので、「めんどうだから、このままほっとけ」と言われました。
城内の次期ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵当主スヴァリウス様の評判は最悪です。
ジムディクト様が、私がスヴァリウス様よりレイチェル様の専属侍女になった経緯を面白おかしく話されたからだと言っておられました。
その結果、ある程度実力のある家ではスヴァリウス様に娘との婚約話を持っていかないどころか、警戒対象にされたようです。
「まだ幼い、専属執事・侍女家系の娘が、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家の息子を見限った」と。
普通に、専属執事・侍女が見限ったならこのような話にならないです。
『チェダー家』の者がしたからなったんです。
王城内でも、チェダー家の専属執事・侍女を持つ者は、実力者として認められているのです。
私ですか?個人的な感情で、レイチェル様の専属侍女になったわけではありませんよ。
専属侍女に成るに値する方だと認めてなっただけです。それだけのことです。
スヴァリウス様を見限ったのは、普段の態度を観察した当然の結果です。
だって私は、お子様の面倒をみるための乳母やベビーシッターではないのですから。
長期休暇期間は、レイチェル様のお世話をしたり、一緒に勉強したり、ギルドのSSSランクの依頼を受けたりしました。
そして、レイチェル様と一緒にスヴァリウス様を必要な時以外は避けまくりました。
私が魔物の不死鳥と契約しているので、不死鳥が持つ『魔物の感』で簡単にスヴァリウス様を避けれたのです。
強い魔物と契約すると、便利ですね。




