第ハ十三話 魔法少女無双
「まじかるすいだんなの!」
「・・マジカル石弾よ!」
次々とちみっこ魔法少女達に倒されていく魔物たち。
ミノタウロス、オーク、コカトリス、ブラックシープ・・
俺には彼らが涙を流しながら逃げ惑ってるように見える。
もはや魔法少女による蹂躙だ。
「おにくをよこすの!」
「・・新しい必殺技の実験台よ!」
子供というのは時に残酷になる。
てか、俺もスキルのテストをしたいんですけどね?
まずは二人が落ち着くのを待つしかなさそうだ・・
「気は済みましたか?」
「まんぞくなの!」
「・・楽しかったわ」
一時間後。
ようやく狩りを止めた二人はホクホク顔でそう言った。
魔物はいくらでも湧いてくるが、少なくとも俺たちの周りには全くいない。
この魔法少女の衣装には狂化の魔法でもかかっているのだろうか?
「じゃあそろそろ俺もやってみよう」
貫通ダメージのスキルの習熟だ。
カイザーナックルで殴るのと魔法を当ててみて、どのぐらいダメージが通るようになるのか確認する。
ということで手近の敵を探すのだが・・
「見える範囲に敵がいないな・・」
「ちょっとやりすぎたの」
これがちょっとか?
仕方がないので三人でのんびり歩いて行く。
これではほとんど散歩だ。
気持ちいい日差しと適度な風が吹き、ダンジョン内とは思えないくらい快適だ。
「ここが一年中気候が変わらないなら、冬の寒い時期はここに入り浸るのもいいかもな」
「・・セーフエリアでのんびりするの? なんだかダンジョンの使い方を間違ってる気がするわ」
「何よりここに来れば暖房代の節約にもなる」
「せこいの」
冷暖房代はなかなか馬鹿にならないんだ。
夏場は冷房の効いた部屋に居たいが、冬場はここに来た方がいい。
「・・ここにいたら響子が見れないじゃない」
「それはだめなの!」
リアルタイム派ですか。そう言われては仕方ない。
まあどのみち基本的にはダンジョンに潜ってるわけだから、家にいる時間はそこまで長いわけではないが。
「ゆーちゃん、みのがいるの」
みーちゃんが指差す方を見ると、二体のミノタウロスがいる。
ではあいつらで実験だ。
まずは魔法で攻撃してみよう。
「そ〜れ、とんでけ!」
片方のミノタウロスに向けて火の魔法を放つ。
魔法自体の見た目は以前と変わりはない。
ドオオォォン!
「ブモオオッ!」
無事に命中した魔法はやはり見た目的には以前と変わらないが、ミノの苦しみ方が前よりも大きくなってる。
効きが良くなっているのだろう。
「スラッシュショット!」
せっかくなのでこちらも試してみる。
スラッシュショットの威力は魔法とあまり差はない。
ミノを倒すには数発は当てる必要があった。
「ブモオッ⁉」
しかし追撃を喰らったミノはこの一撃で倒れた。
確実にダメージが上がっている。
それを見たもう一体のミノが、コチラに向かって走り出した。
ちょうどいいので、こいつには直接攻撃してみよう。
走ってくるミノに対してこちらも走り出し、相手より早くその顔面を殴りつけた。
「ブゴッ!」
拳は綺麗に顔の正面にヒットして、ミノをふっ飛ばした。
さらにミノはそのまま消滅して肉をドロップした。
「一撃か! すごいなこのスキルは」
「ゆーちゃんつよいの!」
「・・いいスキルみたいね」
ちーちゃんの言うとおりこのスキルは当たりだ。
殴って倒す場合は、今までは最低二発は必要だった。
何度か試さないと平均何発必要かわからないが、間違いなくダメージ量は増えている。
「よし、もっと戦ってみよう!」
そうして俺はちみっこ達の事が言えないくらい、肉の素達を狩り続けた。
「・・気は済んだ?」
「はい。はしゃぎ過ぎました」
三十体ほど倒したところで俺は一息ついた。
とりあえず直接殴った場合は、ここの魔物はワンパンで倒せるようになった。
魔法やスラッシュショットでもほぼ二発、最大三発で倒せる。
地味だが確実に強くなった。
ちなみにここの魔物の防御力は普通くらいだと思う。
これが固い敵だったら、効果はさらにバツグンになるだろう。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「おにくもたいりょうなの!」
みーちゃんの言うとおり、今日も沢山の肉が手に入った。
今日はブラックシープの肉でジンギスカンにでもするか。
「さて、準備はいいか?」
「・・問題無いわ」
「ちゃんと、まほうしょうじょせいれいなの!」
次の日。
ちみっこ達は今日も魔法少女の服を着ている。
とはいえ、また肉狩りに行くわけではない。
今日は三階の攻略に向かう。二人が魔法少女なのは単に気分だ。
しっかりと朝食を取り体調も万全になってる。
いざ新しいフロアに。
「次はどんなフロアだろうな?」
「うみがいいの!」
「・・山がいいわ」
真逆な二人だ。
そういえば、今年の夏は海に行かなかったな。
それどころでは無かったってのもあったけど。
俺達は昨日同様、ポータルを使って地下三階に降りた。
「ふつうのいりぐちなの」
みーちゃん言うとおり、普通のダンジョンの入り口だ。
地下二階のようにトロッコも石碑もない。
俺はとりあえずお供えに持ってきたジンギスカン(さっき作った物)を地面に置く。
「大精霊様、今日もお邪魔します」
両手を合わせてそう言うと、すぐにお皿が消えた。
そしてふと思う。
「大精霊様って好きな食べ物ってあるのかな?」
「ゆーちゃんがつくったものなら、なんでもすきだとおもうの」
「・・私もそう思うわ。私達もそうだし」
そんなものなのか?
それならこれからも気にせずに持ってこよう。




