第七十五話 上映会
「そうだ、先に講師の話をしとこうか。担当の高校と日時が決まったよ」
みんなでまったりとお茶をしてると、不意に高倉さんがそう切り出した。
そのまま話を聞くと、九月中旬から下旬にかけて三つの高校で講演を行うそうだ。
「共学が二つと男子校が一つですか。さて、どれだけウケが取れるか」
「まあ、つかみの為ならウケ狙いもありかもね。うまく自分のペースに持ってって話せればベストだよ」
大勢の人の前で話すなんてほとんど経験がない。
この前の花火大会の時は主催者として話はしたが、あんなものは飲み会の幹事みたいなものだ。
一学年分の生徒を前にして緊張せずにうまく話せればいいのだが・・
「お前が学生の時も冒険者が来て講演したんだろう? その時みたいに冒険者に憧れを持たせるような話をしたらどうだ?」
「確かに冒険者の講演はありましたけど、俺自身はその講演に関係なく冒険者になると決めてましたからね。話はしっかり聞いてましたけど、別にそれで憧れを持ったりはしなかったですしねぇ」
こちとら小学生の頃から冒険者になるつもりだったわけだ。
高校の時の講演では他の生徒たちは『冒険者になってみませんか』的な話として聞いていただろうが、俺は冒険者の実情を知ることのできる話として聞いていた。
とはいえ、龍二さんの言うとおり憧れを抱かせるような話をした方がいいのかもしれない。
そもそも進路説明会で講演をするのは、冒険者への勧誘という側面もあるわけだ。
当日までにある程度話す内容考えなきゃな。行き当たりばったりだとロクな話ができないかもしれない。
コンコン
「お待たせしました、リユニオンの甲斐です」
「どうぞ」
ここで甲斐さんが到着した。今日は一人のようだ。
甲斐さんは俺たちの座るソファに近づき、バックから一枚のDVDを取り出した。
「これが完成品になります。とはいえ今日の上映会で何か指摘があったらいくらでも修正はできます」
「早く見ましょう! 私がセッティングしますね」
待ちきれないアレンが甲斐さんからDVDを受け取ってデッキにセットし始めた。
待ち遠しいのは分かるが、少し落ち着け。
「これで内容に問題がなければゴムチューブにアップするんでしたっけ?」
「そうですね。それもリユニオン任せになりますが、アップしてたくさんの人に見てもらいましょう」
PVの完成とあって高倉さんもご機嫌の様子だ。
メガネのレンズを拭いて鑑賞の態勢に入る。
「さあ始まりますよ!」
DVDをセットしたアレンは、急いでソファーの席に戻る。
甲斐さんも着席して全員がテレビ画面に視線を移した。
やがて真っ暗だった画面に重厚なBGMと共にダンジョンの通路が映し出される。
『世界で初めて出現したダンジョン『ファースト』。幾多の冒険者たちが、ここに富と名声と夢を求めて今日も潜って行く』
ナレーションと共に冒険者たちの戦闘シーンのカットが映し出される。
俺たち以外の映像もあらかじめ撮っていたようだ。
『ダンジョン誕生から三十二年。今このダンジョンは大きな転換期にある』
そしてそのナレーションに続いて、まずはみーちゃんとちーちゃんの魔法少女精霊の戦闘シーンが流れる。
うまく編集されており、二人の登場から戦闘までまさに魔法少女らしい演出がされている。
アレンを見てみると、うんうんと頷きながら満足気な顔で動画を見ていた。
そして二人の戦闘シーンが終わる。
『ダンジョンに現れた精霊という存在』
次は俺の戦闘シーンかと思ったが、ナレーションの次に映し出されたのは俺がボス戦の前に休憩する時のシーンだった。
アイテムボックスからテーブルや椅子やシチューを出す場面が流れる。
そして桜木亭に展示されているスキルブックも映される。
『アイテムボックスのスキルブックの出現』
ここからようやく俺の戦闘シーンになった。
無駄な場面はカットされメイジ・ウィーズルとの戦闘がテンポよく流れていく。
最後にメイジ・ウィーズルにとどめを刺したところでプロレスのゴングが鳴らされた。
『ソロでのボスの攻略』
さらにはレン達を含んだ前線組の集合写真が映る。
場所はダンジョン内、おそらくセーフエリアだろう。
『ボスフロアである二十階への到達。と、このような出来事が立て続けに起きている。』
今度はドローンでの撮影だろうか、桜木亭やダンジョンの入り口を画面に入れながら徐々に飛び上がって行き、上野公園全体を映し出す。
『新しい波は吉兆か凶兆か。最も古いダンジョンは今最も熱い時を迎えている』
画面が徐々にブラックアウトしていく。
ふぅ、と誰かからため息が漏れた。
「いかがでしたか?」
甲斐さんが俺たちに意見を求めてくる。
確かにこれでもかと今の『ファースト』を見せた感じだ。
「もっとこう『冒険者よ集え!』的なことは言わなくて良かったんですか?」
一応これ『ファースト』の宣伝のためのPVなんだよな?
「いやこれぐらいで構わないと思うぞ。あまり『ファースト』に来いなんて言うと、クドくなるだろうしな」
「そうですね。これだけインパクトの強い映像なら、興味のある冒険者はうちにやってくるでしょう。それに見るのは冒険者だけではなく一般の人を(も)見るわけですし」
龍二さんと高倉さん的にはこれでオッケーらしい。
一応アレンの方を見てみると、恍惚とした表情で余韻に浸っている。なんか嫌なので放っておこう。
なにはともあれ、このPVで完成品としていいみたいだ。




