第百八十二話 テイクオフ
桜木亭の前では高倉さんが待っていた。そして何故かアレンもいる。
「本城君早かったね」
「急ぎだと言うので。アレンも久しぶりだな」
「ユタカさんもお元気そうで。そしてちみっ子達もその服を着てくれているんですね。とてもプリティです」
自分で作ったちみっ子達の衣装を見て、アレンはご満悦のようだ。
ちみっ子達も服を作ってくれたアレンが好きなようで、彼にまとわりついている。
ちなみにアレンは今日も魔法少女の衣装だ。
ガタイのいい金髪イケメンの魔法少女コスプレ野郎の周りに群がる、ある意味本物の魔法少女達。
実にカオスな絵面だ。
「さて本城君。水神社に行く準備は出来てるかね?」
「ええ、ここでの用事が終わったらそのまま向かいますよ」
俺がそう答えると高倉さんにしては珍しくニヤリとした。
「ではあちらに行こうか」
そう言って高倉さんが歩き出した。
その方向は桜木亭でもファーストの入口でもない。
上野公園の入口側に向かっている。
「アレン、お前はなにか知ってるのか?」
「まあまあ、すぐに分かりますよ」
アレンまでこんな感じか。
おっさんとおっさんと魔法少女コス野郎と可愛らしい魔法少女三人という異色のメンバーで歩いていると、すぐさきに人だかりが出来ていた。
てか、何やら大きな音がして風が吹いてきている。
「皆さん危険ですので下がってください!」
大きな音の中、それに負けないくらいの大声で迷彩服を来た男達が人だかりを広場から離れさせている。
サバゲーでもやってるのか?
しかしもう少し近づいたときに、人々の頭越しにあるものが見えた。
「あれは自衛隊のヘリか?」
前後に二つのローターが付いた迷彩模様のヘリコプター。災害現場などに派遣されるテレビでよく見るタイプだ。
さっきからの大きな音と風はこのプロペラが軽く回っているかららしい。
「えっとね、チヌークっていうヘリコプターだそうだよ。自衛隊の持つヘリでは一番早いんだって」
高倉さん、そうじゃない。
何で自衛隊とヘリがこんな所にいるかを説明してくれ。
「宮本君から水神社消滅まで時間がない事を連絡を受けた後それを更に上に報告したら、国益に関わることなので君が水神社に向かう際にこうして自衛隊からヘリを出すことが決まったんだ」
国も思い切ったことを考えたな。
だがこれなら最速で水神社まで行くことが出来るのも確かだ。
「ただ君との連絡がつかなかったので、どこからヘリに乗るのかがわからなかったから、日本全国の自衛隊駐屯地が君からの連絡が入ればいつでもヘリを出せるようにしてくれたんだ」
「俺が他の県にいた場合は最寄りの駐屯地に行けばよかったってことですか」
「そう。そしてここも君の家が近いので、一機駐留してくれていたんだ。しばらくはここの名物になってたよ」
公園内にあんなのがいたらみんな見に来るわな。ミリオタとか喜んで凸してきそうだし。
見物人たちはみんなもうすぐ飛び立つことがわかってるようで、スマホやカメラを構えて待機している。
人だかりから少し離れた場所では、三脚でバズーカみたいなプロ仕様のカメラを構えている人が何人かいる。
災害現場でこんな撮影をするのは不謹慎だから、今回は堂々としたチャンスなのだろう。
「ユタカさん、あんなヘリに乗れるなんて羨ましいですよ」
「あんなのに乗らずに済む人生が送りたかった・・」
平穏とはかけ離れていく我が道。
ちみっ子達と楽しく暮らせるだけでいいんだけどなぁ・・
俺が黄昏れていると、自衛隊員が一人こちらへと走ってくる。
「高倉さんお待たせしました。いつでも離陸可能です」
「わかりました。さあ本城君、行ってらっしゃい」
「頑張ってくださいユタカさん」
高倉さんに背中をぽんと叩かれて送り出される。
何となくちみっ子達が風で飛ばされそうな気がしたので、抱っことおんぶと肩車をして自衛隊員とヘリに向かって歩いていく。
見物人たちの注目を浴びながら、俺達はヘリの後方のハッチから乗り込んだ。
内部には壁際に椅子が並んでいる。
自衛隊員から座るように指示されて、四人大人しく着席してベルトを着けた。
さすがにちみっ子達は大人しくしてくれている。
一緒に乗り込んだ隊員が合図を出すと後部ハッチが閉じられて、ローターの音が大きくなっていく。
「流石に緊張するな」
「きぶんはとっぷがんなの」
「これは戦闘機じゃないぞ。戦闘もできるだろうけど・・」
そんな話をしていると機体が浮き上がる感じがした。
飛行機とは違う真上に上がる浮遊感。
味わったことのない感覚でちょっと気持ち悪い。
向かいの窓からは少しづつ上がっていく風景と、風に煽られる木々が見えた。
・・今が桜の季節じゃなくてよかった。上野公園の名物の桜が秒で散るところだったな。
そのままヘリは高度を上げて、北へ向かって飛んでいく。
椅子に座っているので向かいの小さな窓からしか外が見えない。スカイツリーが辛うじて見えたが、それ以外の景色は全く見えん。
「大体一時間半くらいでつきますので、よかったらこちらをどうぞ」
ヘリが水平に飛ぶようになった頃に、同乗の隊員さんがペットボトルのお茶とおまんじゅうをくれた。
退屈そうだったちみっ子達は喜び、隊員さんにお礼を言うと隊員さんもニッコリとしておかわりもありますよと箱に入ったおまんじゅうを見せる。
これで少しはちみっ子達の気も紛れるだろう。
今日は精霊教の襲撃から始まって色々あり、流石に疲れた。
水神社に到着するのは夕方くらいだろうし、俺はちょっと寝ておくかな。




