第百八十一話 上野公園昔話
スマホの電話帳を開いて高倉さんの携帯に電話をかけた。
プルル――
『本城君! やっと連絡をくれたか』
一秒もコールせずに高倉さんが電話に出てくれた。
そんなに急ぎの用件だったの?
「すいません、電波の繋がらない所にいたので」
『向こうの宮本君からは話は聞いてる。どこに行っていたかは詳しく突っ込む気はないよ』
ありがたい。
とはいえ電波が繋がらないのだから、ダンジョンだとは当たりは付いてるだろう。
まあど全世界のダンジョンの入場記録を調べても俺の名前は出てこないけどね。
「それで何かありましたか?」
『うん。水神社の消滅の件については、すぐに国の方にも報告が上がったんだ』
そりゃ一部例外もあるが、ギルドは基本的に国が母体だしな。
ダンジョンの消滅の危機なんて報告はすぐに上がるだろう。
『お上からは君がどのようにダンジョンを救おうとしてるのか聞き出せと言われたのだが、連絡もつかなかったし無理だと言っておいたよ』
「国としては聞いときたいでしょうね。今後も起こり得る事態でしょうし」
『まあそうだろうが、君が秘密にしたいのなら言う必要もないだろう。国は君に感謝をするならともかく、無理やり聞き出すなんて以ての外だ』
さすがは高倉さん。いつだって冒険者を守ってくれる。
こんな人がギルマスだから、この『ファースト』には善良な冒険者が集まってくるのだろう。
『でだ。水神社を救う手立てはどうかね? どうにか出来そうかい?』
俺達が水神社を出発してから半月ほど。高倉さんはまだ俺達が目的を達成したとは思ってないようだ。
しかし甘いぜ高倉さん。
「水神社の崩壊を止める準備はできたので、これからあっちに向かうところですよ」
『え、もう!? いやはや流石というべきなのかね・・』
もっと褒めてくれて構わんのよ。
無論、ウチのちみっ子達も頑張ったので一緒にね。
『今はどこにいるんだい? どこかのダンジョンかな?』
「今は家です。これから水神社に向かうところでした」
『おお、こっちにいるのか! それなら準備が無駄にならなかったな。そのまま急いで桜木亭に来てくれ』
水神社でなく桜木亭に?
ダンジョン同士は繋がってないからファーストに行っても意味はないのだが・・
まあ高倉さんがそう言うのなら何かあるのだろう。
「わかりました。じゃあすぐにそちらに向かいます」
『うん、こっちも準備して待ってるよ』
どうも高倉さんはあえてボカシて言ってる感じだな。
何か俺を驚かせようとしてるような・・
「じゃあみんな、桜木亭に向かうぞ」
「・・あら? 水神社に向かわないの?」
石巻に向かわない事に皆不思議そうにこっちを見るが、俺だってよく分からないんだよ。
「なんか高倉さんが急いで桜木亭に来てほしいんだってさ」
「きっとおかしをくれるの!」
それはむしろ受付のお姉さん達の方じゃないかな?
そんな理由で高倉さんが呼ぶなら、逆にそのユーモラスさを称賛したい。あの人は堅物ではないが真面目だからなぁ・・
「とにかく桜木亭に寄ったらそのまま水神社に向かうから、しっかり準備してな」
まあこのちみっ子達の準備なんてあってないようなものだ。
いまだに着続けている魔法少女の衣装と、交代で手に持っている精霊結晶。それ以外の荷物は俺のアイテムボックスに入ってる。
かく言う俺も荷物はほとんどアイテムボックスに入ってるため、ほとんど身一つだ。
車が使えないので、通りに出てタクシーを捕まえる。高倉さんの要望通り急いで上野公園に向かおう。
家からそんなに遠くない上野公園にはすぐに到着した。
国立博物館の前でタクシーを降りて、噴水広場の近くにある桜木亭へと向かう。
ちなみに昔この近くには京成線の博物館動物園駅があった。
上野動物園がパンダフィーバーで人が溢れていた頃には有用な駅ではあったが、施設の老朽化や動物園への客足が年々減少していくとともに、平成九年に休止となった。
西洋式建物の駅の出入口は今でも残っており『東京都選定歴史的建造物』に選ばれている趣のある建物となっている。
そしてしばらく前からこの元駅が『ファースト』に最寄りの駅であるために、再び停車駅として稼働させる計画が始まっている。
廃駅が再び稼働するなんてなかなかのロマンだ。子供の頃からよくここに来ていた俺は、博物館動物園駅が營業していた頃を知っている。
龍二さんやファーストにいるベテランの多くは地元民が多い。彼らも当時を懐かしく思っていて、駅の再稼働には期待を寄せているそうだ。
乗り物の話ついでに、上野動物園には日本初の公共交通機関があったのを知っているだろうか?
動物園の外ではなく中にあったそれは、今では日本中で稼働している乗り物だ。
――答えはモノレール。
上野動物園の敷地は、不忍池側と上野公園側で高低差が結構ある。しかもその間には道路が走っていて、その部分は園内の坂によって繋がっている。
その高低二点を結ぶ約三百mで運行されていた。
しかしこれは動物園の移動手段と言うよりも、モノレールの試験運用として上野動物園が選ばれたものだった。
そのために運営は東京都交通局であり、間の一般道を跨ぐ形になるために有料の動物園内に入らないと乗れないのに公共交通機関となった。
更におまけで、某ランドの周りを走っているモノレールも公道上空を通るために立派な公共交通機関であり、ランドが休園日でもあのモノレールは時刻表通りに運行される。
・・話がそれ過ぎてしまった。




