第百七十六話 唐突な別れ
縛り上げたピチ男を連れて馬車が進む。
精霊の力を失ったピチ男はただのマッチョで、自身を縛っているロープも引きちぎることはできない。
そもそも精霊を失ったショックなのか虚空を見つめてブツブツと呟いている。だいぶキショい。
今回の襲撃で、精霊教側はピチ男以外死亡。こちらは重傷者は多数出たものの死者はゼロだった。
怪我人に関しては軽傷は以前御祝儀でもらったポーションを使ってもらい、重傷者はみーちゃんが頑張って回復してくれた。
あの時のポーションが役に立ってよかった。皆に感謝だ。それとみーちゃんにはいっぱいナデナデしてねぎらってあげました。
「時間的にそろそろ王都が見える頃ですね。皆さんお疲れ様でした」
外の風景を見ていた俺達にライオード王子がそう言った。
約一週間の旅だったが、襲撃を除けば割と楽しかった。
道中の野営では王子も含めて同じ釜の飯を食った王国勢。見張り役以外は焚き火のそばに集まって馬鹿話をして盛り上がった。
男などどこの世界でも同じなのか、女の話、ギャンブルの話、美味い飯屋の話、自分のご立派なフランクフルトの自慢話など飲み会のようなネタばかりだ。
さすがにちみっ子達には聞かせられないので、王子付きのメイドさんにおやつごと預けておいた。何せ王子もこちらの馬鹿話に混じっているせいで暇そうにしていたので。
あと枢機卿たちとの飲み会も楽しかった。教会とか神殿騎士とか枢機卿とか、大体物語では悪い連中が多いから変な先入観があった。
酒にだらしないことを除けば皆いい人達だったな。
「一週間なんてあっという間だな。もうちょいのんびり・・」
俺はそう言いかけた時に、頭の中で様々な事を一瞬で思考して冷や汗が出てしまった。
周りの皆はそんな俺の様子に疑問符を浮かべている。
『いや、まずのんびりってなんだよ! そんな暇ないだろうが。ここの往復で一週間かかったって、これまで何日使ったよ!? 流石に一ヶ月は経ってないけど、目一杯使っていいものなのか? ちみっ子達の想定より早く消滅する可能性もあるんじゃないか?』
おそらくこのまま順調に日本に戻れれば全行程は二週間ほどのはず。
多分問題ないと思うが、一応聞いてみたほうがいいか。
『ちーちゃんちーちゃん、水神社が消えるまでの一ヶ月って早まる場合はあるの?』
こちらの事情を王子達に聞かれてはマズイので、コッソリとちーちゃんに耳打ちで聞いてみた。
するとちーちゃんは俺の耳にちっちゃいお手々をあてて、逆に耳打ちしてきた。
『・・もちろん何かしらの要因でリソースを使ってしまえば消滅までの時間は短くなるわ。一ヶ月っていうのはあれ以上リソースを消費しなかった場合よ』
・・大丈夫だよね?
さすがに宮本さんも如月さんもリソースの限界で消滅しかかっているのは知っているのだから、これ以上減らすことはしないはず。たぶん。
今は俺達が間に合わなかった場合を想定して、希望者をダンジョンに入れてお別れをさせているだけのはず。
・・その人達が最後の記念にコッソリとダンジョン内の物を持ち帰ったりするとか。リソース云々の事情を理解してなければやらかす可能性も・・
ひとたび考え出すと、どんどんと悪い考えが浮かんできてしまう。
しかし悶々とする俺に救いの手が伸びた。
「すまぬが話は聞こえた。それならばわしに任せるといい」
そう言ったのはこの馬車に同乗していたスーさんだった。
霊獣だから耳が良かったのか? 俺達の声が大きくて皆に聞こえてたとかないよな?
「お主らは別に王都に寄る必要はないのだろう? ならばわしの背に乗せてある程度まで送ってやろう」
あ、その手があったか!
そもそも馬車移動をしてるのは車が使えないからだ。
スーさんの正体はすでに皆知っているので、ドラゴンになってもらってひとっ飛びすればすぐに帰れるな。
「スーさんナイス! その手で行こう」
急な展開だがみーちゃんとふーちゃんはおおよそ理解してくれてるようだ。
ただ俺の挙動がおかしくなってからここまで、王子やメイドさんは完全に置き去りである。申し訳ない。
王子達に急ぎの旅なのでここで別れてスーさんに送ってもらう事を伝えた。
「本当なら旅立つ前に父に会ってほしかったのですが、仕方ありませんね。お見送りをさせていただきます」
「すまないな。俺も陛下に会ってから出発したかったが急ぐ旅だしな。まあ、また来る約束はしたからそのうち顔を出すよ」
確かに帰る前にヨウには会っておきたかったが、どうせ地球の品物を色々頼まれてるしスーさんとの約束もある。
遠くないうちにまたこっちに来るだろうから今回はパスさせてもらおう。
「わしはこの者たちを送り届けたらすぐに王都に向かう。力を貸す約束だしの」
「ありがとうございます。王城でお待ちしております」
ライオード王子がそう言うと、同乗していた騎士が窓を開けて進行を停止させた。
すぐにそばで騎乗していたカールトンが事情を聞きに来る。
「そうですか。ここでお別れとは寂しいですが仕方ありませんね」
事情を聞いたカールトンは縦長に展開していた騎士達を見送りのために集めてくれた。
俺達は馬車を降りてスーさんは竜化するために少し離れる。
集められた騎士たちは皆別れを惜しんでくれている。こいつらを見ているとどうにもファーストの冒険者たちを思い出してしまう。
きっと俺の中では同じような存在だと思っているんだろう。
付き合いは短くとも、飯を食って笑いあって共に戦った。
今度来たら酒場にでも誘ってまた馬鹿騒ぎをしよう。
「みなさんお元気で。役目を果たしたら必ずまた遊びに来てくださいね」
「ああ、必ず来るよ。そっちも精霊教の討伐頑張ってな」
俺は王子と別れの挨拶を済ませ、ちみっ子達はお世話してくれたメイドさんにバイバイをしている。
メイドさんは三人を抱きしめて泣きながら別れを惜しんでいる。
そして俺達がスーさんの方に行こうとした時、突如カールトンの馬鹿デカい声が響いた。
「総員、共に困難を乗り越えた戦友と精霊様に敬礼っ!」
その声にみんなの方を向くと、カールトンを筆頭に第二騎士団にメイドさん、さらにはライオード王子まで敬礼をしてくれている。
その姿に俺も、そしてちみっ子達も敬礼を返した。
「ありがとう! またな!」
「またねなの!」
「・・また会いましょう」
「またねー!」
俺達はそのままスーさんの背に乗りこの地を後にした。
遠い世界の友たちにまた来ると約束をして。




