第百七十四話 決着の必殺技
突如戦場の上空に現れた物に全員が驚愕した。
同時にその姿を見た俺は心の中でガッツポーズをした。
「何故こんなところにドラゴンが⁉」
ピチ男は上空にいる白い東洋龍を見て開いた口が塞がらなくなっている。
戦場に唐突にドラゴンが現れればそりゃこうなるだろう。
騎士団も精霊教の連中も同じく戦闘を中断して茫然と、あるいは警戒をしている。
きっと俺に渡した鱗を追ってここに来たのだろう。
『精霊教のクズ共だな。精霊を狙うなど言語道断! 貴様ら全員八つ裂きにしてくれる!』
白いドラゴン――スノードラゴンのスーさんは、精霊教の雑兵やピチ男に向かって怒りを爆発させている。
そりゃ精霊と仲のいい霊獣なのだから当然ではあるが。
「スーさん! このピチ男は俺がやるから、そっちの有象無象を頼む。みーちゃん達は馬車の中にいる!」
『うむ、任された!』
さすがに龍の形態だと声がよく響く。
戦場にくまなく届いたその声に騎士団連中は歓喜し、精霊教の連中は絶望した。
スーさんの力がどれほどかは知らないが、普通に考えてドラゴンと戦うなど勘弁願いたいものだろう。
逃げ出す者、死んだフリをする者、スーさんに向かって魔法を放つ者など最早統率の取れなくなった雑兵達。
そこにスーさんの雪のブレスが数人を巻き込んで直撃した。
ここから見ると数秒の間、スーさんの口からビームのようなとんでもない密度の暴風雪が精霊教の連中を襲った。
嵐が駆け抜けた後には白い大地と、何故かかわいい雪だるまになった雑兵共が残された。
・・まあその中身はかわいい事にはなってないと思うが。
「さすがに圧倒的だな」
「ふざけるな・・ドラゴンが来るなど聞いてないぞ!」
「そりゃ誰も言ってないだろうし、俺も知らなかったし」
ピチ男からすれば理不尽極まりない事だろう。
まあそんなこと言ったら、こいつらに捕まった精霊達だって理不尽だと思っているさ。
やったことに対してのツケが回ってきただけだ。
「くそっ! 今日の所はこれで引いてやる。次はかならじゃぶしゃっ――」
「逃がすわけないだろ、阿呆が」
何か捨て台詞を吐いてとんずらしようとしたピチ男の顔面に、全力でストレートをぶちかました。
数メートル吹っ飛び、地面に叩きつけられたピチ男。
強化+貫通ダメージでの一撃だ。前歯がほとんど砕け、鼻も右に曲がって盛大に鼻血ブー太郎だ。
「向こうはスーさんがいればもう問題ない。こっちもケリを就けようや」
倒れているピチ男をさらにボコすために歩を進める。
こいつの攻撃はほとんど俺には効かない・・そう慢心していた。
ゴゴゴゴゴ・・ゴガァァン!
突如地面が激しく揺れた直後、地面が大きく割れた!
恐らくピチ男の力で発生させた大きな地割れに、油断してた俺はなすすべなく落下していく。
「あははは! クサレ冒険者が舐めやがって! 奥の手が無いとでも思ったか!」
うん、思ってました。さすがに油断しすぎていた。
落下しながら頭上から聞こえてきた笑い声に思わず反省してしまう。
「だがお前も俺を舐めすぎだ。奥の手が無いとでも思ったか?」
俺には空を飛ぶことは出来ない。風の魔法も無いので浮き上がる事も出来ない。
アイテムボックスに何か役立つものがあるかもしれないが、すぐには思いつかない。
俺に出来る事といえば・・
「初めてやるから体が壊れないといいが・・」
強化スキル。
今までは単純に硬さを強化していたが、創作でよくある身体強化・・ステータスを上げる強化はまだ試していなかった。
筋肉、骨、血管、皮膚、内臓などを強化して超人的な力を発揮・・できればいいな。
失敗した時が怖いし、成功してもその後で体が付いていけずに死ぬかもしれない。
日本に戻ったら段階的に練習しようと思ったのだが、ぶっつけ本番になってしまった。
「全身は怖いから足だけだな。壊れないように各器官を保護する強化とパワーを上げる強化」
上手くいってるかはわからない。だがなんとなく脚部に強化が行き渡った気がする。
そしたら壁を蹴る!
ドガァッ!
全力で近くの壁を蹴ったら大きく岩が砕けて行った。
同時に反作用で反対側の壁にすっ飛んでいく俺。
「横じゃない! 上に向かって!」
このまま蹴り続けても横っ飛びを続けることになる。
何とか体を捩って態勢を変えて上に向かってジャンプするように壁を蹴った。
真上とはいかないが斜め上に跳べたので、再び三角蹴りの要領で向かい側の壁を蹴る。
「メト○イドのキッククライムみたいだな・・」
昔よくやっていたゲームを思い出し、そのイメージを基にキックの態勢を安定させながら壁を交互に蹴っていく。
十回くらい壁を蹴ると、俺は地割れの亀裂から抜け出すことが出来た。
「は? え?」
俺が地面に着地すると、亀裂の反対側でピチ男が茫然としていた。
いや、こいつ何してんだ? さっさと逃げればよかったのに。
今ので俺を始末出来ても、スーさんにやられるのがオチだろう。
しかしやはり地に足がついてると安心感が違うな。強化した足も特に異常がないようだし、万々歳だ。
「何だ。スーさんじゃなく俺にぶっ飛ばして欲しくて待ってたのか。殊勝な事だな」
ピチ男はそこでようやく自分のすべきことが分かったのか、俺に背を向けて全力ダッシュを始めた。
まあ、最早今更なんだが。
俺は再び足を強化した。今度は跳ぶためではなく走るために。
「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・ダー!」
百メートルくらいあった俺達の距離を強化した足はその一言のうちにゼロにして、ピチ男の背中にドロップキックをお見舞いした。
「qあwせdrftgyふじこlp!」
どこかで聞いた文字列を叫びながら地面を転がっていくピチ男。
まあこいつはタフそうだし、このくらいじゃ死んだりしないだろう。
今度こそ油断せずに倒れているピチ男の横に立った。
「さて、随分舐めた真似してくれたよな」
「ご、ごべんなざい。ゆるじでくだしゃい・・」
もういろいろボロボロなピチ男。
顔面は崩壊しており、血と涙でべっちょりだ。
「謝るわりに精霊は手放さないんだな。まだやる気十分か?」
「せいぇいれいだけはごかんべんを」
「するわけないだろ。さっさと解放しろ」
この期に及んでこの執着心には恐れ入る。
精霊教ってこんな奴ばっかりなのか?
「わ、わかり――まじぇ~ん!」
ピチ男の顔を覗き込んでいた俺の顔の横から突如、岩弾が襲って――来たのをキャッチしてピチ男の顔面に叩きつけてやった。
「ごぴゅら!」
「最後っ屁をするとは極上だコラ! 力ずくで精霊を引っ張り出してやらぁ!」
俺は全身を強化して、ついでにもう一つ強化してピチ男の足首を掴んだ。
「せ~のっ!」
そのまま俺は全力でピチ男を真上に放り投げた。通天閣の高さくらいまでは飛んだかな?
ピチ男は当然空を飛ぶ手段がない。風の精霊を取り込んでたのなら話は違っただろうが。
なすすべなく頭から落下してくるピチ男だが、これで終わりではない。
「さて、とどめだ!」
強化状態のまま俺自身も大きくジャンプして真っ逆さまに落ちてきているピチ男の正面から背中に手を回し、がっちりホールドする。
ちょうど上下逆さまにハグしているような感じだ。
「さっきお前俺に立派な墓石を建ててやるって言ったな。そっくりそのままお返しするぜ。まあ墓石はお前自身だがな」
逆さハグの状態から、さらに正座をするように膝を曲げてピチ男の首元を挟み込んだ。
「このまま地面に落ちてもお前の体なら耐えられるだろうが、俺はさっき地面に強化しておいた」
俺がそう言うと意味を理解できたのか、何とかホールドから逃れようとじたばたし始めるが、全身強化している俺はびくともしない。
本来貫通ダメージで攻撃していればこんな事をしなくても倒せはするが、ひたすら殴り続ける必要がある。
――正直めんどい。
絵面的にもどうかと思ったので、ここはあえての必殺技だ。
「くたばれ精霊教!」
ツームストーン・パイルドライバー
ドガアァァァン!
真っすぐに地面に落ちて行った俺達。
そのままピチ男の脳天を強化した地面に叩きつけた。
残心。
数秒後、俺は強化とホールドを解き立ち上がる。
同時に逆立ち状態のピチ男もゆっくりと倒れた。
これでも頭が割れてないのには感心だが、さすがにもう立ち上がれないだろう。
離れた場所から歓声が聞こえそちらを振り向くと、ちみっ子達を筆頭に王子や騎士たちやスーさんまでもがこちらに向かってきた。
向こうも何とか片が付いたようだ。
「やれやれだ」
ダンジョンでもないところで何をやってんだろうな俺は・・
対人は性に合わん。やはり魔物を倒してる方が俺には合ってるな。




