第百七十一話 ノブレスオブなんちゃら
「またいつでもお越しください。歓迎いたしますぞ」
「次もまた美味い酒を飲もうな!」
精霊結晶を回収して中央協会へと戻ってきた一行。
教会内に入る用事はもう無いので、入口の前でお見送りをしてもらっている。
「次来るときにはちみっ子達の石像も完成してるかな?」
「そうですな。いいものを作ってもらう為に時間をかけさせますが、一年もあれば出来上がるでしょう」
思ったよりも時間がかかるようだが、一年のうちに再訪するという事もないだろう。
次に来るときのお楽しみだな。
その時は飲みきれないほどの日本酒を持ってこないとな。間違いなく宴会になるだろうし。
「枢機卿もガルベラも飲みすぎて体を壊さないようにな。それと枢機卿はマイキー君にあまり無理をさせないようにしてくださいね」
「次回のためにも肝に銘じましょう。ユタカ殿も精霊様方もお元気で」
「俺は飲まないと調子が出ないからな。まあ程よく飲むさ」
俺とちみっ子達で先に挨拶を済ませる。
最後に王子が挨拶をするので俺達はそれを見守る。
「ミゲル枢機卿、今回はお世話になりました。慌ただしい訪問でしたが、受け入れてくださり感謝いたします」
「立派に名代を果たしましたな。これならシルバームーン王国の未来は安泰でしょう。ヨウ様は良い跡継ぎをお持ちになられた」
枢機卿は優しいおじいちゃんの目で王子を見ている。
その目には未来のライオード王の姿が写っているのかもしれない。
まあこの人なら王子が王位を継承するまで余裕で生きているだろう。
「次は家族で王墓にお参りに来たいと思います。その時はよろしくお願いします」
「首を長くしてお待ちしていますぞ。帰りの道中もどうかお気を付けて」
別れの挨拶を済ませた俺達は、来た時同様に第二騎士団に前後を挟まれた馬車に乗り込む。
動き出した馬車の窓から外を見ると枢機卿は小さく、ガルベラは大きく手を振ってるのが見えたので、俺もちみっ子達も姿が見えなくなるまで手を振った。
やがて馬車は教会の敷地を出て、街の外へと向かって進んでいく。
最初は神国特区と聞いて身構えていたが、行ってみれば面白いおじいさんと、豪快な騎士団長がいた楽しい場所だった。
むしろもっと教会らしくあってもいいのではないかと心配になるほどだ。
「初めて王都から出ての旅でしたが、とても楽しく有意義なものでした」
「そうですね。行く前には神国特区があんなフレンドリーな人達がいる場所だとは思いませんでした」
「マーズ神教の教義をざっくり要約すると『神様から与えられた生を謳歌せよ』といったものです。信仰を押し付けるのではなく民と共に日々を生きていく、そんな教会だからこそ多くの国で受け入れられているのだと思います」
「教会の人間はあんな人達ばかりって事か・・」
「まあミゲル枢機卿はおおらか過ぎるとは思いますが」
そう言って王子は苦笑いをする。朝食の時のことを思い出したのかもしれない。
そしてそれを思い出した俺はお腹が空いてきた。早く昼にならないかな・・
そういえば教会はマトモだった。冒険者は常識をわきまえていた。
テンプレな悪い奴に会った覚えがない。いや、いい事なんだが。
会いたいわけではないんだが、居ないとそれはそれで寂しい気もする。
あと出てきてない悪者テンプレといえば・・貴族か?
「王子様ちょっと聞きたいんだが、貴族で裏で悪事を働いてるような奴っています?」
「突然ですね。確かにそういう者は少なからずいるようです。ただ父上はそういうのを許しませんから、各領に密偵を放って調査してるそうです」
なるほど。貴族関係はヨウがテンプレ潰しをしていたのか。
元地球人で日本人のヨウからすると、貴族の横暴は許しがたいものなのだろう。
「基本的に悪事を働いた貴族はギロチン送りです。そのうえで貴族籍も剥奪になるので、最近はみんな真面目にやっているみたいです」
「なかなかに過激だな」
「『見せしめをしないとクズ貴族共はわからないんだ』と父上は言っていました」
ヨウも苦労してるみたいだな。
まあ悪事を働く貴族が悪いのだが。
「貴族が居なくなった領地はどうなるんだ?」
「領地の規模によりますが、小さい領なら一度代官を置き、領地を持っていない騎士爵を男爵に昇爵させて配置します。
数年は代官から領地経営を学びながら運営することになります」
確かにいきなり領地を持たされても困るよな。
プロによるサポート体制は万全なようだ。
「困るのは大きい領で、すぐに任せられる貴族はそうそういません。一度国の直轄領としてから、何年もかけて貴族の配置換えをする必要があります」
「そうか、誰か貴族をその領に移動させたら、抜けた領に別の貴族を配置する必要があるもんな」
「はい。空いた穴を埋めるのに数名の貴族の移動や昇爵が必要になります。その選定のためにも時間がかかってしまいます」
『今日からお前この領な。後は任せた』とはいかないもんな。
まともな貴族を選ばずに領地経営に失敗されたら、領民ももちろん国も税が入ってこなくなるので困ってしまう。
もはやこうなるとヨウは国王と言うよりも社長だな・・
一漁師から大企業の社長になったみたいだ。




