第百六十四話 頑張れマイキー君
その後各部屋に案内してもらい、俺達の元へは教会専属の絵師が連れてこられた。
枢機卿によれば、まだ若いのだが腕は確かとのこと。
まあその絵師は若いのはいいとして、緊張でガタガタ震えているが大丈夫だろうか?
「す、枢機卿様。何故私のような若輩者にこのような大役を与えるのですか!?」
確かに今後教会に飾られ続ける彫刻の絵を描くのは相当なプレッシャーだろう。
絵師の彼は二十代だろうか。線が細く気弱な感じが見て取れる。
「マイキー君。君の絵の腕は私がよく知っています。確かに現時点の君よりも絵が上手いものは何人かいます。ですが研鑽を積めば君は近い将来その誰よりも絵が上手くなるいはずです。私はその将来性を買っているのですよ」
「そう言ってもらえるのは光栄ですが、それでも今の私では・・」
「それならば今持ちうる全てをその筆に込めなさい。後ろ向きな気持ちではなく、今日これから描くものが生涯で最高傑作だと言われるような作品を描く気で取り組みなさい。そうすれば描き上げた後の君はきっと殻を破り、新しい世界が見えることでしょう」
つまり『グダグダ言ってないで描け』って事かな?
容赦がないな枢機卿。
「枢機卿様・・わかりました。私の命をこの筆にかけて、最高の絵を描いてみせましょう」
あ、ブラックな言葉に乗っちゃったよマイキー君。
まあ断ったら教会を追い出されちゃうかもしれないが・・
それでもやる気になったマイキー君はいそいそと絵を描く準備を始める。
「で、枢機卿。どうして他の絵の上手い人を使わなかったんだ?」
マイキー君が忙しそうにしてる間に、そのあたりをこっそりと枢機卿に尋ねてみた。
「他の絵師はみんな高齢なのですよ。彼らは描く絵も古臭いのです。その点彼の絵は明るく若々しさがあります。大役を任せて経験を積ませ、今後の主流派として活躍してほしいのです」
なるほど。一応ブラックな考えで押し付けたわけじゃないんだな。
さすが枢機卿ともなると考えが深いな。
「まぁあの老害共はプライドばかり高くて、高い金を要求してくるのも腹立たしいのでね。どうせ金を出すなら彼のような将来性がある者に出したいのですよ」
おっと、急にブラックな部分を出すんじゃないよ。
教会内の醜い部分はお客様には伏せなさい。
聞きたくなかった部分まで聞かされてげんなりしてるとマイキー君のセッティングが済んだようで、まずはみーちゃんが彼の正面に立った。
描き出した彼の目は真剣で、先程までの気弱な感じは一切なくなった。
まさに一筆入魂といった感じだ。
「さてしばらくは時間がかかりますし、私達はお茶にでもしましょう」
枢機卿がそう言うと、控えていたメイドさんがテーブルにお茶の準備を始める。
俺と枢機卿、それにちーちゃんとふーちゃんは席についてお茶をしながら絵が完成するのを見守った。
一時間後。
「・・お待たせしました、完成です」
疲労困憊と言ったマイキー君が完成を告げて、まずはみーちゃんが解放となった。
普通モデルのほうが疲れそうなものだが、みーちゃんはケロッとしている。
早速みんなで絵を見せてもらうと、そこには可愛らしい魔法少女のみーちゃんが描かれていた。
着色は後回しになるらしく、まずはこれを彫刻家に見せて彫らせるそうだ。
「素晴らしいではないですか。マイキー君、やはり君に任せて正解だったようですね。まずはお茶でも飲んで休憩しなさい」
「ありがとうございます。ですが後お二方残っています。筆が乗っている今のうちに描いていきたいと思います」
確かに集中力とモチベーションが高いうちに描いたほうがいいのだろう。
彼の体力が持つかどうかはわからないが・・
ちなみに彼の座っていた脇には、十枚近いキャンバスが積み上がっている。それだけ描き直しをしたのだ。
「わかりました。では次はちーちゃん、お願いできますか?」
「・・わかったわ。彼のやる気が高いうちに描いてもらいましょう」
枢機卿に呼ばれて、二番手にはちーちゃんがモデルとして立つことになった。
一度みーちゃんで何かを掴んだのかちーちゃんは四十分程、続くふーちゃんは三十分程で絵を描き上げたマイキー君。
素人目ではあるが、三枚ともよく描けていると思う。
ただし引き換えにマイキー君は真っ白に燃え尽きてしまった。
「マイキー君、大丈夫かね?」
「・・大丈夫ですよ次は誰を描きましょう枢機卿様ですか?ではさっそく紫の空からスライムが降ってくるので宿屋の少年がカーニバルな耳かきで肩甲骨を叩いて出てきたドラゴンとこんにちわして焼き肉が食べ放題な銀河連邦に――」
「あ、もう今日は寝て結構です」 べしっ!
マイキー君の電波なセリフを遮って、枢機卿は手刀を彼の首筋に当てて強制的に寝かせた。
教会はやはりブラック企業だったようだ。
彼はきっと偉大な画家になることだろう。それと同時に画家になった事を後悔するかもしれない。
地球でも中世の芸術家は心を病んでいる人が多かった。
どうか彼の人生が幸せなものでありますように・・




