第百六十三話 急な要請
「ようこそお越しくださいましたライオード王子。それと精霊様御一行もはるばるようこそ」
馬車は中央神殿の目の前に停まり、外から扉が開かれたので王子様を先頭に順次下車した。
そこで出迎えてくれたのが、白い法衣で縁が金の刺繍をされた明らかに偉い人が着そうな服を着たおじいさんだった。
「私がこの特区の代表を務めていますミゲルと申します」
「ミゲル枢機卿、出迎えをありがとうございます。国王ヨウの名代として来ましたライオードです。先触れでご存じかと思いますが、今日はよろしくお願いします」
孫と爺にしか見えない二人が堅苦しい挨拶を交わす。
さすがに俺達もしないとマズいだろう。
「初めまして。冒険者のユタカです」
「みーちゃんなの!」
「・・ちーちゃんよ」
「僕はふーちゃん!」
俺達が自己紹介を終えるとミゲル枢機卿は皺の寄った顔をくしゃりと笑顔にして、ちみっ子達の方に歩み寄った。
「先触れを聞いた時には驚きました。精霊結晶を求める者が現れるだけではなく、顕現されている精霊様が一緒だなんて」
「そうですね。父やタクマ司祭も同じ反応をしていました」
これは地球人の感覚なのだろうか、姿の見えない精霊をよくそんなに崇めることが出来ると思う。
目に見えずこちらに干渉して来ないのであれば、その存在を知ることすらできない。
実際には精霊たちは目に見えずとも地球の自然に干渉しているらしいが、それを知らなければ誰も精霊の存在を感知できない。
地球には多数の宗教がありそれぞれの神様が祀られているが、実際に神様が存在すると思っている人がどれだけいるものか。
だがこちらの世界では精霊を見たことのない人でも居ると信じている。
これはこちらの世界がより精神性が高い世界だからなのか。魔法の存在が無意識にアストラルな存在である精霊を感じ取っているのかもしれない。
だとすると、いずれは地球の冒険者の中にも精霊を感じ取れる者が現れるかもしれない。
ちなみに俺が大精霊様の姿を見たことがないのに敬っているのは、実際に干渉してきているからだ。
我が家のダンジョンに始まり、ちみっ子達をこちらによこしたり、食事を求めてきたりと。
さすがにこれなら姿が見えなくとも信じることが出来る。
「初めまして精霊様方、お会い出来て光栄です。現教皇でさえ顕現されている精霊様にはお会いしたことがありませんからな。冥途の土産の自慢話が出来ました」
「まだしんじゃだめなの」
「みーちゃん大丈夫だよ、こういう事を言う人は長生きするものだから」
ふーちゃんの言うとおりだ。このミゲル枢機卿は歳の割には背中が伸びているし、しっかり食べれているようで血色もいい。
百歳くらい余裕で越えられそうだ。
「さて精霊結晶ですが、すぐにお持ちになられてもかまいませんが本日はもう夕刻。今日はこちらでお休みになって明日の朝一にでも王墓に向かわれるとよいでしょう」
確かに今日回収してもどうせ出発は明日だ。
持ち運びが出来るのはちみっ子達だけなので、わざわざ今日取りに行く必要はないだろう。
「それとユタカ殿でしたか。こちらはイケる口ですかな?」
枢機卿はそう言って何かを飲むジェスチャーをする。
これは普通に飲みの誘いってことだよな?
「ええ。大好きですよ」
「では食後にでもお付き合いくだされ。これまでの旅のお話を是非聞かせていただきたい」
飲みの誘いは大歓迎だが、ここはまた王子様を相手にしたように色々と法螺話をする必要がありそうだ。
酒に酔って口を滑らさないようにしないとな。
ここにヨウがいれば一緒に付き合わせたが、王子様やちみっ子達を引き込むわけにはいかないしな。
「わかりました。お付き合いしましょう」
「では皆様中へご案内しましょう」
ミゲル枢機卿がそう言うと背後の扉が開いた。
中央教会と聞いたのでまずは礼拝堂があるのかと思ったが違った。いや、合ってたか?
通常の礼拝堂にはたくさんの椅子が並んでいるのもだが、ここには一切無く広いホールといった感じだ。
ただ、正面の祭壇の奥には高い天井まで届く神様と思われる彫刻が祀られている。
またホールの左右の壁際にも天使か精霊かわからないが、多数の彫刻が並んでいる。
天窓から差し込む夕日に照らされて、もの悲しくも神秘的な空気がある。
「ここはエントランスを兼ねた礼拝堂です。このようにお客様を招く際に邪魔になってしまうので椅子は設置されておりません」
なるほど。そもそもこの教会は通常の教会とは用途が別だ。
ここは一般の人間が入れない場所。つまり訪れるのは重要な客人ばかりなはず。
シルバームーン王国内の拠点として、客人を迎え入れるように居住性重視にしているのかもしれない。
「周りの彫刻は精霊か天使ですか?」
「ええ、絵画に残されている姿を参考に彫られたものですな。正面の神像の右手側が神の使徒の彫刻、左側が精霊様の彫刻となっています」
空想ではなくモチーフの絵があるのか。いや、その絵は空想で描かれたのかもしれないが・・
「おお、そうじゃ! せっかく精霊様がいらしているのだから、お三方の像を作らせてはいただけないか?」
「ああ、えっと・・」
っと、この流れは予想できなかったぞ。
別にちみっ子達がいいのなら作ってくれてかまわないのだが・・
今は三人とも魔法少女スタイルだ。この姿の像を作って飾るのか、この神聖なホールに?
ものすごい葛藤をしながらちみっ子達を見ると、三人とも目をキラキラさせていた。
「あ~、作ってほしい?」
「もちろんなの!」
「・・いいアイデアだと思うわ」
「可愛く作ってね!」
というわけで、神秘性の全く無いちみっ子魔法少女の像が作られることとなった。
きっと完成したら教会の人たちは毎日お祈りしたりするんだろうな。
頭の中では魔法少女のフィギュアを毎日眺めるオタクたちと教会の人たちが被って見えてしまった。




