第百五十八話 悲しみの王
さて、王様と二人きりでこんなところに取り残されてしまった。
ちなみにちみっ子達は別室で王妃様と王子様とお茶をするそうだ。
俺もそっちがいいなぁ・・
「残らせてしまってすまんな。取って食ったりしないから安心してくれ。口調も普段通りでいいぞ。俺も素でしゃべるから」
この王様さっきよりもさらに砕けた話し方をし始めた。
これが素なら、普段は周りからちゃんと話せと言われてるのかもな。
王ってのも面倒くさそうだ。
「さっきも言った通り話したい事・・いや聞きたい事があるんだ」
「精霊についてか? 俺もそんなに詳しくないぞ」
「違う。それならあの子達にも残ってもらったさ」
それもそうか。
しかしそれなら全く接点のない俺に何を聞こうというんだ?
「じゃあ単刀直入に聞くぞ。あんた地球って知ってるか?」
さすがに心臓が口から出るくらいびっくりした。
頭がパニックになって言葉も出てこない。
「その様子だと当たりみたいだな。初めて他の転生者に会えたぞ」
・・ん?
転生者? 俺はまだ死んでないが・・
この王は転生してこの世界に来たのか?
「俺は転生者じゃないぞ。正真正銘の地球人・・日本人だ」
「は!? ってーと、転移してきたってことか?」
ん~・・多少ならこの人になら話してもいいかな?
そうしないと話しも進まなそうだ。
「俺達はこっちと地球を行き来することが出来るんだ」
「そんな人間がいるのかよ・・それは精霊の力ってやつか?」
「ああ。大精霊様の力だな」
俺の説明に王様は茫然としている。
何だかお互いに衝撃の話で殴り合ってるみたいだ。
「あの精霊達の衣装はあんたの趣味なのか? もともと着てるものじゃないよな?」
「ちがわい。友人がちみっ子達のために作ったもので、あの子達が気に入って着てるだけだ」
俺を変態にするんじゃない。
ちみっ子達に魔法少女のコスプレを強要するなんざ人間失格だ。
「ところで何で俺が転生者だと思ったんだ?」
「ああ・・さっきの会談の中で、地下水路の事を『下水道』って言っただろ? こっちには上水道がないから下水道じゃなく地下水路って名前にしたんだ」
なるほど。下水道を知ってたから転生者だと思ったのか。
こっちは転生者なんて頭の片隅にもないから口走ってしまったな。
「あんたはどこの出身なんだ?」
「俺は東京だ。こっちと同じく冒険者をやってる」
「冒険者か。俺の住んでた県にはダンジョンは無かったから普通に家業を継いだな」
日本はダンジョン大国だが、ダンジョンが無い県もたくさんある。
そこに住んでいる人達にとっては冒険者に興味は持っても実際になろうと思う人は、ダンジョンのある県に比べて少ないらしい。
「王様はどこの出身だったんだ?」
「二人の時はヨウでいいぞ。俺は宮城県だ。漁師をやってた」
宮城か・・ん? 今ダンジョンが無いって言ったよな。
『水神社』があるのだが・・
「ヨウはいつ死んだんだ? 今は宮城県にもダンジョンがあるんだが」
「そうなのか!? 俺は大地震が起きて津波に飲まれて死んだんだ。確か2011年だったはずだ」
「マジか・・ヨウは東日本大震災の犠牲者だったのか・・」
とんだめぐり合わせだ。
大震災の復興を助けてくれていた『水神社』を救うためにここまで来てみれば、その時に亡くなったヨウがここに転生しているとは。
「しかし時間軸が合わないな。大震災が起きたのは10数年前だ。ヨウは30前だよな?」
「ああ、俺は今28だ。そうなると転生する時に時間を遡ったのかもな。まあその辺は俺達にわかることでもないだろう」
まあ神の領域の話だもんな。それこそ神様にでも聞かなければわからないだろう。
それよりもヨウには俺達がここに来た目的をしっかりと話しておくべきかな。
「ヨウ、大震災が起きた後にな・・」
俺は石巻漁港にダンジョンが現れたこと、そのダンジョンの大精霊が復興のために尽力してくれたこと、そして消滅の危機に陥っていることを話した。
当時の被害の大きさも伝えると、ヨウは涙を流し始めた。
「そんなに酷い震災だったんだな・・訳のわからないままに津波に流された俺には、転生して記憶が蘇ってもその後のことまではわからなかったからな・・」
きっとヨウの知り合いも大勢亡くなっただろう。せめて知り合いで生き残りがいればヨウの事を伝えてやりたいが・・
『異世界に転生しました』なんて伝えるのはさすがに難しいか。
「家族も家にいたからきっとみんな駄目だっただろうな・・せめてダチ公達だけでも無事だったらいいが・・」
「出来る限りでいいなら戻ってから調べてみようか? そのくらいしか出来ないが」
漁師をやっていたなら、その関係者に聞けば色々わかるかもしれない。
もしくはギルマスの宮本さんに協力してもらうのもありだ。
「頼めるか? ここにあんたが来たのも何かの導きかもしれないしな」
「ああ。今回の件が終われば手も空くしな。今後ここに来るまでには調べておくよ」
「ありがとう。俺の生前の名前は吉村 真。爽快丸って船に乗ってたんだ。石巻市に住んでてな、高校時代からの友人で如月慎一や阿部安雄って奴らとよくつるんでた」
俺はヨウから聞いた関係者をメモしようとしたが、漢字がわからなかったのでヨウに書いてもらった。
そこでふと思う。
「あれ? 如月慎一って・・」




