第百五十三話 悲しい記憶力
動きがあったのは次の日の朝だった。
「皆さんおはようございます」
みんなで宿の一階で朝食を食べていると、入口からパツキン美女が入ってきて俺達を見つけて挨拶をくれた。
金髪が映える白い魔法使いのローブを身にまとったソフィアさんだ。
「おはよう。ここに来たってことはもう決まったのか?」
「ええ。急で申し訳ないのですが、今日のお昼でも大丈夫ですか?」
おっと、またエラく急だな。
謁見までって数日はかかると思ったのだが、王様って暇なのか?
「構わんが、こんな早いのって普通なのか?」
「いえ、今回の件を話したところ精霊様を待たせるわけにはいかないと、急遽差し込んでくださいました」
精霊パワーで時短に成功したようだ。
王様でも精霊は大事な存在だということか。
「それと謁見ではなく会談という形になるそうです」
「何か違うのか?」
「謁見ですと膝を付く必要があります。精霊様にそのような事はさせられないとの事で、椅子に座っての話し合いになるそうです」
なるほど。俺としても堅苦しそうな謁見よりもその方が助かる。配慮に感謝だな。
ちなみにちみっ子達は大して興味が無いようで、朝食のオレンジピールの練り込まれたパンを美味しそうに食べている。
なんならみーちゃんは、手が止まっている俺のパンを狙ってさえいるようだ。
「出発はいつ頃になる?」
「二時間後にこちらに迎えに来ます。お昼には早いですが、一応早めに王城に行って待っていたほうがいいと思いますので」
「わかった。それじゃまた後で」
俺達への伝言を済ませると、ふわりと金髪をたなびかせてソフィアさんは宿を出ていった。
カイエン絡みだと残念な人だが、見た目だけなら絵になるな。
「・・ゆーちゃん、まさかあの女に見とれてるの?」
「ゆーちゃんは金髪が好きなの? なら僕も金髪になるよ?」
「きんぱつしすべしなの!」
「確かに見た目が絵になるとは思ったが、ストーカー女に興味はないぞ」
アホなこと言ってないで朝食を食べなさい。
それとみーちゃんは俺のパンを盗らないの。おかわりを注文してもいいから。
朝食後、リナさんに事情を説明したら出発時間までチェックアウトを伸ばしてくれた。
結局一泊だけになってしまったが、食事も美味しかったし宿の雰囲気も良かった。次に王都に来るときもここに来よう。
俺達は部屋に戻って、トランプをしながら時間を潰した。
さすがに二時間じゃ観光には行けないしな。
ちなみに神経衰弱をやったら俺がビリだった。
年々衰える俺の記憶力・・
俺の順番の直前がちーちゃんだったのだが、終盤明らかにわざと間違えて俺に取らせようと忖度プレイまでしてくれてた。まあ結局俺は素で間違えて取れなかったのだが・・
「緑茶と豆大福が俺を癒してくれる・・」
「おとこのかちはしんけーすいじゃくじゃないの」
「・・そうよ、ただの遊びなんだから気にしないの」
「次は僕と組んでやろうよ。二人ならいっぱい取れるよ」
凹んでいる俺に気を使ってちみっ子達が慰めてくれる。
尊厳も何もあったもんじゃないが、ちみっ子達の優しさでライフが回復していく。
とりあえずトランプは終わりにしてティータイムに。
豆大福が食べたくなったので、それに合わせて緑茶もアイテムボックスから出した。
「そろそろ時間になるな。しかし王様に会うとかめんどいよな・・」
「・・さすがに場所が場所だもの。一度は会って話をしなきゃダメよ」
「話の流れから許可は下りそうだし気楽に行こうよ」
君らからすればきっと王様もアレンも大して変わらないのだろう。
むしろ猫の方が重要度は高いのかもな。
「みなさんいらっしゃいますか? 迎えに来ましたよ」
まったりしていると、ドアのノックと共に部屋の外から女性の声が聞こえた。
遂に出発の時間となったようだ。
「了解、すぐに行きます」
俺がそう言うと、部屋の前から足音が遠ざかっていった。
俺達はお茶を飲み干してカップをアイテムボックスにしまい、忘れ物がないかチェックする。
ほとんどの荷物はアイテムボックスに入れているので忘れ物はなさそうだ。
ちなみに何故かちみっ子達は朝食後に魔法少女の衣装に着替えた。
王様に会うための正装なのだと言っていたが、ただ理由を付けて着たかっただけだろ・・
俺なんか武装してるのはマズいと思い、黒のTシャツにジーパンだぞ。スッキリしすぎな気がするが他にまともな着替えなんて持っていない。
「お待たせしました」
俺達が宿を出ると目の前には立派な馬車が止まっており、その前にはソフィアさんとタクマ司祭が待っていた。
「おはようございます。おや、精霊様が可愛らしい格好をしていますな」
「あ、あの! この子達を抱きしめてもいいですか!?」
今日も孫たちを見るような優しい目のタクマ司祭。
対してちみっ子達の可愛さにやられた興奮気味のソフィアさん。
こちらの答えを聞く間もなく、ちみっ子達に抱きついて頬ずりしている。
「ああ、今日も平和だなぁ」
そんないつも通りな光景を見てしみじみそう思った。




