第百五十話 工房街
「俺達はちょうどリドリー工房に向かってたんだよ」
「うちへのお客さんでしたか。ではお店まで案内しますね」
まあご都合主義だとしても、遅かれ早かれ店には着いただろう。
ここはラッキーだったと思えばいいか。
「みんな行くぞ〜。ミーちゃんをラミィさんに返しなさい」
「このままだっこしていくの」
「・・ちょっとみーちゃん、私にも抱っこさせて」
「僕も僕も!」
ミーちゃんは成猫なので身体もそれなりに大きい。
対してちみっ子達は文字通り小さい。
相対的にそこそこの大荷物を抱えているようなものだが、疲れないのだろうか?
とりあえずミーちゃんをどうするか確認するためにラミィさんの方を向いた。
「抱っこしたままで大丈夫ですよ。ミーちゃんも大人しいですし」
「おねえさんありがとうなの!」
ラミィさんは問題無しと判断してくれたようで抱っこ許可をくれた。
笑顔でお礼を言うみーちゃんにラミィさんはほっこりとしている。
「ではお店に向かいましょうか」
そう言うとラミィさんが先頭で歩き出した。俺達もそれに付いていく。
ちなみに協議の末、今はミーちゃんはふーちゃんが抱っこしている。しばらくしたらちーちゃんに交代するようだ。
「このあたりにはどれくらいの工房があるんだ?」
ただ歩いていても暇なので、話題作りのために色々聞いてみることにした。
彼女も話に付き合ってくれるようで、こちらを振り返りながら説明を始めてくれた。
「ここの王都南側の工房街には31の工房があります。みんな魔導具ギルドに所属していて、王都全体では42の工房があります」
さすが工房街と言うだけあって数が多いな。
ただ工房は地球で言う工場とは違い、建物は少し大きい民家程度なので街の景観は損なわれてはいない。
「ここ以外の工房では主に一般や冒険者向けの小口販売をしてますが、この工房街では小口だけでなく商人向けの大口販売もやっています。また小規模な工房では出来ない大型の魔道具の開発なども行っているんです」
「この国の魔導具開発の最先端と言ったところか」
「そう言っても過言じゃないと思います。なので各国からの弟子入りの志願者が後をたたないんです」
「ラミィさんも別の国から?」
「いえ、私は王都の出身です。と言うより、リドリー工房が実家なんです。父のリドリー親方に弟子入りした形です」
まさかの身内だったか。
魔導具職人を目指すには最高の環境で育ったんだな。
「あ、あの工房がうちのお店です」
どうやら話しているうちに到着したようだ。
さっきの場所から五分程だったな。
周りを見れば確かに近くに八百屋もある。
「では店内へどうぞ」
ラミィさんがそう言って店のドアを開けてくれる。
俺とちみっ子達と一匹は店内へと足を踏み入れた。
店内は棚にのる小型の魔道具から地面に置いている大型のものまで様々陳列されている。
そして奥のカウンターには店番らしき中年男性がいる。
「いらっしゃい・・ん、ラミィも帰ってきたか」
「ただいまぁ。お客さん連れてきたよ」
最後に入ってきたラミィさんがカウンターに向かって歩いていく。
ちなみにミーちゃんはふーちゃんと交代したちーちゃんが抱っこしている。
店に着いたのだから返しなさいよ・・
「黒猫亭のおねえさんからここを紹介してもらいました。色々見せてもらっていいですか?」
「ああ、リナちゃんから聞いたのか。ゆっくり見ていってくれ」
「黒猫亭に泊まってたんですね。うちとリナのところとは家族ぐるみの付き合いなんです」
あのお姉さんはリナさんというのか。
リナさんは友人の店を紹介してくれたんだな。
「俺は店主で工房主のリドリーだ。何か聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ」
「ありがとうございます・・ちーちゃん、そろそろミーちゃんを返してあげようよ」
「・・仕方ないわね。ラミィさんありがとう」
不承不承ではあるが、ちーちゃんはラミィさんにミーちゃんを渡した。
渡されたミーちゃんはちみっ子達の方を向いて『にゃ〜』とひと鳴きする。ミーちゃんなりの挨拶なのかもしれないな。
「みーちゃんばいばいなの」
「・・フカフカで気持ちよかったわ」
「またナデナデさせてね」
三人もミーちゃんに手を振りながら別れの挨拶をした。
ラミィさんはそれを見届けてからミーちゃんと共に建物の奥に消えていく。
「ずいぶん可愛らしい子達だな。兄ちゃんの子供か?」
「九割正解みたいなものだな。この子達は精霊なんだ」
「・・えっと精霊様? だとしたら九割不正解だろ」
何を言う。この子達はうちの子だ。
精霊だろうと関係ない。嫁にも出さん。
「ゆーちゃんはおとーさんじゃないの」
「・・もしかしてパパって呼んでほしいの?」
「ゆーちゃんの子供じゃなくてお嫁さんがいい!」
ああ、女の子は子供の頃に『大きくなったらパパのお嫁さんになる!』って言うあれか。
けど大きくなったらチャラい男を連れてきて『パパ、この人が私の彼氏よ』なんて言うんだ。
もちろん俺は『娘が欲しければ俺を倒してからだ!』と言って、冒険者のステータスに物を言わせてボコボコにしてやる。
涙と鼻水にまみれた彼氏に向かって『二度と娘には近づくな!』と家から放り出して――
「・・これは変な妄想をしてるわね」
「彼氏なんて連れてこないのに」
「ゆーちゃんのおよめいがいにいかないの」
「この兄ちゃん大丈夫か・・?」
この後みーちゃんに頭をぺちぺちされるまで俺の妄想劇場は続いたのだった。




