第百三十五話 風呂に入りたい
異世界二日目の朝。
今日もいい天気で何よりだ。
「・・おはようゆーちゃん。とりあえず壁をどけるわね」
「ああ頼む。そしたら朝飯にしよう」
みーちゃんとふーちゃんも起こし、みんなで車の外に出た。
キャンプ場のような清々しい空気を感じながら、軽くストレッチをする。
そして思う。
「風呂に入りたい」
「それならまたじょうかまほうをかけるの」
昨日は寝る前に浄化魔法をかけてもらった。
たしかにスッキリして気持ちよく眠れたが・・
「一泊のキャンプならそれでもいいんだけど、日本人にはやはり風呂が必要なのだよ」
いつ地球に戻るかわからないのに、ずっと湯船に浸かれないのはツライ。
毎日とは言わないがせめて数日に一度は・・
「でもこの世界でお風呂なんて貴族くらいしか入らないよ?」
「宿にもないのか?」
「それこそ貴族の泊まるような高級宿くらいだね。一般的には体を拭くだけだよ」
何故みんなそれで我慢できるんだ?
一度風呂に入ればその良さもわかるだろうに。
「・・結局必要性を感じないのよ。身体を拭けば事足りるからお風呂の文化が発達しない。もし誰かが公衆浴場なんかを作れば少しずつ文化が広がるかもしれないけど、誰もそれをしないから文化の芽が出てこないのよ」
「先駆者が出てこないのか。それこそ貴族主体でやればいいのに」
「・・公衆浴場を造るとしたらそれは税金で造ることになるでしょう。でも税金は基本的に何に使うかが決まっているものよ。もちろん予備はあるでしょうけど」
「つまり公衆浴場を造るお金はないと?」
「・・そもそも造って欲しいという声すら上がらないのよ。一般人にはお風呂の文化がないのだから」
となると貴族や金持ちが酔狂でポケットマネーを使って造るくらいしかないのか・・
文化を発生させるのって難しいな。
「ゆーちゃんのからだはみーちゃんがきれいにしてあげるからいいの!」
「その言い方だと俺が一人で風呂に入れない子供みたいじゃないか・・」
まあ現状は洗浄魔法だよりになるのだが・・
バスタブをアイテムボックスに入れといて、みーちゃんに水を入れてもらって俺が火魔法で沸かす・・くらいなら出来るか?
もしくはコンパクトにドラム缶風呂もありか。ちょっと楽しそうだし。
ただどちらにしても異世界にいる間では用意は難しいだろう。
「とりあえず今は朝飯のほうが大事だな」
「あなた〜、ご飯になさいますか? お風呂になさいますか? それともあ・た・し?」
「めしなの! ふろもおんなもいらないの!」
何だそのコントは・・
みーちゃんとふーちゃんを横目に、俺は朝食の準備を始めた。
「それではまずはスーさんと合流するぞ」
「アイアイサー!」
「ゆーちゃんたんけんたいしゅっぱつなの!」
ヘビが尻尾から落ちてきたり、腕時計の日焼け跡のある原住民とか出てこないからな?
俺は車を運転して、昨日も登った登山道を進んでいく。
歩いている分には気にならなかったが勾配を出来るだけ緩くする為か、道は割と蛇行している。
気を付けないとこれは酔うぞ・・
「あ、スーさんがいたよ!」
「・・いたと言うか、寝てるわね」
「あ、おきたの。おどろいてるの」
昨日同様に日光浴で力を回復していたのだろう。
しかし車の音に気づいて、こちらを見て驚いたと。
「何ということだ、メタルゴーレムに取り込まれおったか! 今助けてやるぞ!」
そう言うとスーさんの体が光り、そのシルエットがどんどん大きくなっていった。
最終的には全長20mほどの白い東洋龍に変身した。
・・いや待て。まさかハイエースをを壊す気か? 冗談じゃないぞ!
「スーさん、これは乗り物だから! ゴーレムじゃないぞ!」
俺は窓から頭を出してそう叫んだ。
さすがに車を壊されては修理代が馬鹿にならない。保険だって適用されないだろうし・・
『すいません、異世界で龍に壊されました。保険金下さい』
『おととい来やがれ』
うん、無理だ。
とりあえずスーさんの動きが一度止まったので、俺達は車から降りた。
「なんと、本当に乗り物なのか? 馬はいないのか?」
「これが昨日言った馬車だ。まあ馬車と言ったが、馬がいなくても走る鉄の馬車だがな」
「ふむ、おもしろいな」
そう言ってスーさんが再び人化する。
興味深そうに車の周りを見て回り、窓から車内を覗く。
「お主は何者だ? そもそも具現化している精霊を連れているだけでもおかしいのに、この変な馬車まで持っておる。馬がいないのに魔法で動いているわけでもない。異質で気味が悪い」
ふむ。
まあ別にスーさんになら教えてもいいのかな。言いふらしたりしないだろうし。
一応ちみっ子達の方を見ると、三人とも頷いてくれた。
「俺は異世界の人間だよ。向こうの世界の大精霊様を助けるために精霊結晶を求めてここに来たんだ」
俺がそう言うと、スーさんは得心がいったように頷いた。
「納得がいったわい。というよりもそれ以外あり得ないな」
「そんな簡単に信じるのか?」
「その子達の様子を見るに嘘などついておるまい。信用できるさ」
話の分かる人(?)でよかった。
だがその後、俺はスーさんから異世界についてあれこれ質問攻めに合うのだった・・




