第百三十四話 さんま苦いか塩っぱいか
本来ならスーさんと会った場所でハイエースを出してもよかったのだが、万一他の馬車が来た場合に邪魔になってしまう。
場所によってはすれ違いが出来るところもあるのかもしれないが、先ほどの場所までの間にはそんな広い道幅の場所はなかった。
まあ登山口からそんなに離れた場所でもないし、一度開けた場所まで戻ってきた。
ハイエースを道のわきに出して、その横にイスやテーブルをセットする。
すでに日も暮れてLEDランタンだけでは心もとないので焚火も始めた。
「さて夕飯だが――」
「おぞうすいがいいの!」
・・さっきスーさんが食べてるのを見て食べたくなったか。
ちーちゃんとふーちゃんを見ると、二人も同意見のようなので夕飯は卵雑炊になった。
しかしそれだけでは物足りないので、おかずに秋刀魚の塩焼きを出すとしよう。
雑炊の入った土鍋と焼いた秋刀魚が乗った大皿を取り出し、全員分の食器を用意する。
「んー、夕飯分は足りるかな?」
さっきスーさんに振舞ったので若干雑炊の量が足りないが、もっと食べたければ他に何でも用意できるし問題ないだろう。
ちみっ子達はいそいそと椅子に座り俺が雑炊をよそうのを待っている。
「あ、お茶を注いどいてくれ」
アツアツの雑炊だ。飲み物は必須だろう。
ペットのお茶とコップを出すと、ちーちゃんがみんなの分を入れてくれる。
その間に俺は茶碗に卵雑炊をよそい、小口切りの万能ねぎをパラっとかけて皆の前に置いていく。
秋刀魚も一匹ずつお皿にとって、土鍋と秋刀魚の大皿を一旦アイテムボックスにしまった。
これで準備オッケーだ。
「よし、いただきます!」
皆でいただきますをして茶碗を持ち(俺のは丼ぶり)雑炊を食べ始める。
雑炊の具材はシンプルに大根と卵と万能ねぎだけだ。
ちみっ子達は何でもおいしく食べてくれるが、結構お肉が好きだったりする。
たまにはこんな胃にやさしい物も食べさせてあげないとな。
「あつあつなの」
「火傷しないようにゆっくり食べなよ」
ちみっ子達はふーふーしながら一口ずつ雑炊を食べ進める。
出来立ての雑炊はマジで熱いからな。俺もガっと食べてたまに口を火傷する事がある・・
「いけね、大事なのを忘れてた」
秋刀魚を食べようとして箸を伸ばした時にアレの事を思いだした。
脂ののった焼き魚に必須な脇役。
「大根おろしだ。好きに使ってな」
丼ぶりいっぱいにすり下ろした大根おろしをテーブルの真ん中に置いた。
・・すり下ろした大根おろし。重複表現か? なんか違和感がある。
これがあると秋刀魚を無限に食える。あとスダチなんかがあるとなお良いが、今回は用意してなかった。
まあそこまで用意してしまったら、もはや飲む以外の選択肢がなくなってしまうが・・
秋刀魚の身から骨をはずしてワタも取り除く。
ちなみに酒を飲むときはワタも食べる。あの苦みが酒にとても合う。
逆に食事の時はあの苦みが邪魔に感じるので、食べないことにしている。
一口大にした秋刀魚に大根おろしを乗せて口へ・・
「美味しい!」
と、ふーちゃんにセリフを持っていかれました・・
しかし言葉にしなくとも美味いのに間違いはない。
塩でしっかりと感じる身の味。次に肉とは違うさらっとした脂が口の中を幸せにする。
そしてくどさを感じる前に大根おろしが口の中を洗い流してくれる。
やはり今の時期の秋刀魚は神だ。
「焼いてよし、刺身でよし、炊き込みご飯にしてもよし。秋刀魚は最高だ」
「・・お肉ばかり食べてたけど魚もいいものね。いくらでも食べられそうだわ」
ちみっ子達にも秋刀魚の良さが伝わったようで何よりだ。
雑炊と秋刀魚のローテーションをひたすら続けている。
当然のように雑炊は完売となり、昼間も食べた塩おにぎりも出すこととなった。
食後はしばらくおしゃべりをした後にイスやテーブル、焚火を片付けて車に乗り込んだ。
念のためにと、ちーちゃんが車の周りを岩の壁で囲ってくれたので寝てる間も問題ないだろう。
後部座席兼ベッドの横にさらに簡易ベッドを取り出し、両方に布団を敷いた。
アイテムボックスのおかげで寝袋ではなく布団で寝れる幸せ。
「布団は二つ。人数は四人。誰がゆーちゃんと一緒に寝るのか決めないとね」
「ゆずれないたたかいがここにあるの」
「・・お子様たちは二人で寝てなさい。私がゆーちゃんと一緒に寝るわ」
何故か戦争が勃発していた。
これから毎日この戦争が起きるのだろうか?
「三人で一緒に寝て俺が一人でもいいんじゃないか?」
「ねごとはねてからいうの!」
寝れないから言ってるんだがな・・
仕方ないのでジャンケンでローテーションを決めさせた。毎日不毛な争いをされては困るしな。
今日はふーちゃんとなった。明日がちーちゃん、その次がみーちゃんの順だ。
「明日すぐに精霊結晶が見つかればいいんだが・・そうでない場合は長距離移動や情報収集が続くんだろうな」
「きっとすぐにみつかるの」
「是非そうであってほしいですな。じゃあみんなオヤスミ」
そう言ってランタンの明かりを消す。
異世界の濃ゆい初日がようやく終わった瞬間だった。




