第百二十一話 多忙な帰り道
「ではダンジョンが消滅の危機にあることと、見納めしたい人は今のうちにと発表しよう。これから先は見学者のみを入場させることにする。同時に消滅を止める手段を模索しているが期待は出来ない事も発表だな」
「そのくらいの期待度が無難かと。見学は第一層だけ・・と言ってもまもなく二層以下は封鎖されて残っている冒険者たちも追い出されるでしょうが、基本は港周辺だけにしたほうがいいでしょう」
「そうだね。海には入らせないし、森側は特に見るものもないからね」
とりあえず早急にこの後の話をまとめていく。
関係各所への通達は宮本さん任せになるが、発表する内容を打ち合わせておく必要がある。
「なあ本城さん、そっちのことで俺たちに手伝えることはないのかい?」
そう聞いてくる如月さん。
きっと指をくわえて待ってることが出来ないのだろう。期待を込めた目でこちらを見てくる。
「ないな」
「ないの」
「・・ないわね」
「ないよ」
ちみっ子を含めた四人でばっさりと切り捨てた。
誰が『じゃあ異世界に行くので付いてきてください』なんて言えるか。
手伝うのであれば、混雑するであろう見学者たちの人員整理でもやってください。
「じゃあ、せめてどうやってダンジョンの消滅を止めるのかを教えては――――」
「・・高度に政治的な理由で無理よ」
「政治⁉ でも、もし失敗したら・・」
「・・『全て秘書がやりました』で済むのでしょ?」
「精霊なのに政治の汚い部分を知ってるとか・・」
彼はちーちゃんと楽しく漫才してるからもうほっといていいな。
だがちーちゃんはやらんぞ!
あ、そうだ。
「一つ・・いや二つか。頼みたいことがあります」
「何だね? こっちに出来ることなら何でもするぞ」
うん、その言葉はとても助かる。
何せ向こうでの移動手段を手に入れなきゃいけないし。
「消滅を防ぐ手段を探しに行ってる間、ここのダンジョン内に俺の車を停めさせてください。それとガソリンを携行缶でたくさん欲しいので、給油させてくれるスタンドを紹介してください」
「車をダンジョン内に停めておくのにガソリンがいるのかい?」
「まあ、そこは企業秘密ってことで」
「別に中に駐車するのは構わないよ」
「スタンドなら俺の知り合いがやってるところを紹介できるぞ」
よしよし。
まずは携行缶を買いに行ってから給油して、ダンジョン内に入ってから車とガソリンを収納すればオッケーだな。
二人にはそれぞれダンジョンの入口のガードマンとスタンドの人に話を通しといてもらうように頼んだ。
「では早速行動に移りましょう。俺たちも出発します」
「そうですね。お互い頑張りましょう」
打ち合わせを終わらせ、俺たちはダンジョンを後にする。
入口にいる待機組には二人から説明をしてもらい、俺たちはそのまま駐車場へと向かった。
「異世界にどれくらい滞在するかわからないから、大量に買い出しをしないとな」
「ゆーちゃん、こんかいはくるまももっていくの?」
「ああ、見られたらまずいとか言ってられないしな」
「・・そうね、悠長に馬車に揺られている時間も無いわ。移動時間は可能な限り短縮しないと」
馬車のスピードなどせいぜい時速10km前後だろう。
自動車なら道次第だが時速80km位で走り続けられるし、夜だって走れる。
馬車で一週間の道なら、車なら一日かからずに到着できるかもしれない。
問題はガソリンだったがこちらも解決できた。
最近では携行缶を持っていっても給油してくれない場合があるし、使用目的や販売の記録を取られるようになっているそうだ。
しかし今は非常事態。伝手を利用してでも買わせてもらう。
それと携行缶を買うついでに食料なんかも買い込もう。今回は料理している暇はないから、弁当やおにぎりなんかがいいか。
一応アイテムボックスにはまだ料理のストックがあるが、一ヶ月分となるとあやしい。
「今日中に異世界に出発できるかな・・」
ここから帰るなら新幹線になるが、家に帰るだけでも時間がかかるのにそれ以外にやることが多すぎる。
二度目の異世界は弾丸旅行になりそうだ・・
それから俺達は複数のホームセンターを巡って25個の携行缶を入手し、全部にガソリンを給油した。
代金はギルドの方で持ってくれるとのことだが、こんな量だとわかっているのかな?
携行缶とガソリン代合わせて20万円ほどしたのだが・・
さて、あっという間に夜。家に着きました。
出発前の準備だけで既にヘロヘロになってしまった。
ちみっ子達も手伝うといってくれたが買い物以外は特に出来ることがなかったので、今はリビングでテレビを見ている。
とりあえず準備もできたことだしそろそろ出発と思ったが、今は夜八時。時間の流れが同じだった場合、向こうも夜でしかも出口は森の中だ。
さすがに危なくね?
この前向こうで魔物と戦ったときは特に問題はなかったが、夜間戦闘は話が別だ。
今から出発しても負担が増すだけだ。大人しく家で寝てから出発するとしよう。
「さて夕飯はどうするか。作り置きを出してもいいが・・」
そんな時、ちみっ子達が見ているテレビでCMが流れた。
カットされた生地を持ち上げると溶けたチーズがうにょーんと伸びる――――そう、ピザのCMだ。
『ぐぅぅ〜・・』
誰が鳴らした腹の虫かはわからない・・いや、三人共か。
ちみっ子達は食い入るようにCMを見ている。
ちなみにあのチーズが伸びる演出はボンドを使って表現しているらしい。
大体の美味しそうな料理のCMでは、美味しくないものを使って美味しそうに見せているという裏話。
「よし、ピザをとるか!」
「ゆーちゃんあいしてるの!」
「・・さすがゆーちゃんね。私の欲しいものがわかるなんて」
「さすが僕のご主人様だね!」
・・そういうセリフはよだれを拭いてから言おうか。
これは早く注文した方が良さそうだとスマホを取り出し、ピザ屋のホームページを開くのだった。




