第百十七話 クラーゲン倒せますか?
ちみっ子三人が姿を消した後、オッサン三人は海の側まで歩いていった。
話題のクラーゲンを見るためだ。
「沖合いに見えるあの山みたいなのがそうです」
宮本さんのが指差す先には、確かに海に浮かぶ白い小山が見えた。
おそらくクラーゲンの傘の部分なのだろう。あの大きさなら漁船を港まで押し返してしまうのも容易なはずだ。
ぶっちゃけ戦うとなったら近代兵器でも持ってこなければ勝ち筋が見えない。
間違っても第一層で出てきていい魔物ではない。
「あれじゃいくら魔物が攻撃してこないからと言っても、漁を強行しようなんて奴はいないさ」
「それでも漁をしてこそ海の男じゃないのか?」
「あれは漁師じゃなく冒険者の領分だろ」
そう言って如月さんはクラーゲンに視線を向けた。
まぁ確かにここはダンジョンだし、相手は魔物なのだから冒険者の領分って事になるのかな。
とは言え、例えレンのパーティークラスが十組ほど集まったとしても討伐は難しい気がする。
相手がどうのより場所が悪すぎる。
基本的に船上からの攻撃になる訳で、近接攻撃がかなり限定される。
なのにクラーゲンは触手でガンガン攻撃してくるだろう。
足場となる船を壊されたら負け確となるのだ。
最低限強力な魔法か遠距離攻撃がなければ話にならない。
「冒険者でもあれと戦うのはゴメンだな・・」
「だよな・・」
俺が口にした結論に、如月さんは肩を落とした。
無論戦うのが現実的でないことは分かってはいたのだろうが、それでも調査に来た外部の俺から言われて改めて現実を痛感してしまったのだろう。
「結局あの子達が戻るのを待つしか無いのでしょうか?」
「そうですね。ちみっ子達に丸投げになってしまいますが、恐らく一番多くの情報を得られると思います」
無責任なように聞こえるかもしれないが、宮本さんの問にはそう答えるしか無い。
二人は大精霊様の存在を知らない。
ちみっ子達は直接そこに話を聞きにいけるのだから、間違いなく原因がわかるはずだ。
ただし問題として、二人にうまく説明できるかという点がある。
大精霊様やダンジョンの秘密等、話せないことがいくつかある。そこを避けながらうまいこと説明できる内容ならいいが・・
七層のスタンピードの件も気になったので見に行きたかったが、宮本さんを連れている状態では危険と判断した。
なのでしばらく三人で漁港を見て廻ることにした。
どこか懐かしく、昭和の映画に出てくるような造りの漁港。
実際に現地にあったときには建物は古くても、活気あふれる港だったのだろう。
仕方がないとはいえ人の居ないこの港には寂寥感を感じてしまう。
しかしそれは俺以上に宮本さんと如月さんの方が感じてることだろう。
ダンジョン内とはいえ蘇った石巻漁港で再び水揚げをすることができたのだ。きっとそこには沢山の人達の笑顔があったはずだ。
しかし今再び漁港が危機を迎えているのだ。
関係者たちの苦悩は胸中を察して余りある。
「ゆーちゃぁーん!」
背後からの聞き覚えのある大声に俺たち三人は後ろを振り返った。
どこから現れたのか、ちみっ子達がトテトテと走ってくるのが見えた。
しかしまだ距離が100mほどあるので、俺は三人のもとまで小走りで駆けていく。宮本さんと如月さんも付いてきてるようだ。
「ゆーちゃん、たいへんなの! えーとね、すごいたいへんなの!」
「僕どうしよう! どうすればいいのー! ふぇーん」
ちみっ子達のところにたどり着くと、みーちゃんとふーちゃんが勢いそのままに俺の足にしがみついて、パニックを起こしていた。
何かちみっ子達がわちゃわちゃやってるのを見たら、さっきまでの寂寥感はどこかに行ってしまった。
ずっと見ていたい気持ちを抑えて、とりあえず二人を落ち着かせる。
「二人共落ち着け。何が大変なんだかわからないから」
「・・ゆーちゃん、私が説明するわ」
二人の事を見かねたちーちゃんが俺のズボンをちょいちょいと引っ張ってそう言った。
確かにみーちゃんとふーちゃんには説明が難しそうだ。
この場ではちーちゃんが適任なのだろうが・・どうもちーちゃんの表情もどこか悲しそうな感じがする。
一体何があったというのか・・
ただ事ではないちみっ子達をみて、宮本さんと如月さんも不安になっているようだ。
きっと聞きたくない類の報告なのだろうが、それでもちーちゃんの目を見て先を促した。
「・・クラーゲンの出現と地下七階の魔物の発生は根は同じ問題だったわ」
「同じ?」
確かに危害を加えてこなかったり、階段や港に押し返す等似た行動ではあったが・・
「そうなると内部にいる人間を排除しようとしてるのか・・?」
「・・それで正解よゆーちゃん」
「そんな! 俺たちが何かまずいことをしたのか⁉ そのせいで人間を追い出そうと」
「もしや水産資源を乱獲しすぎたとかでしょうか?」
答えを聞いた如月さんと宮本さんが悲痛な表情でちーちゃんに問いかけた。
しかし次にちーちゃんが発した言葉は、俺たちにそれ以上に深刻な事態だと告げた。
「・・このダンジョンはもうすぐ消滅してしまうわ」




