第百十六話 水神社入ダン
写真では見たことはあった。
しかし実際に見てみると桁違いだ。
「でけぇ・・」
「ゆーちゃんのおうちがはいりそうなの」
流石にそこまでは・・そんな事ないよな?
ここは『水神社』の入り口。すでにみんな集合している。
遠くから見たときも思ったが、近くで見るとその威容がよく分かる。
とにかくダンジョン入り口がデカいのだ。
『ファースト』は地下鉄の入り口くらいだったのに対して、こちらは高速道路のトンネルくらいあるだろうか。
天井まで約10メートルくらいの半円形になっている。
第一層まで大型の車両が入ることができ、 水揚げした魚を市場まで運べるようになっている。
しかし今は車も人も通っておらずゲートバーが降りたままなため、静かで物悲しい雰囲気がある。
「クラゲが出るまでは毎朝活気に溢れていたんですけどね・・」
如月さんが寂しそうにそう呟いた。彼らも毎日漁に出ていたのだろう。
「普段は水揚げした魚はダンプで次々運ぶんですけどね、各船が豊漁のときはダンプだけでは間に合わないんで市場のターレーも総動員してピストン輸送してたんですよ」
「ギルマスもギルドの軽トラで運んだりしてたな。あれ見たときは笑っちまったぜ」
ヤスも話しに加わって懐かしそうに話す。
周りの人達も覚えがあるのかみんな笑っている。
「運びきれないほどの豊漁と聞いて黙ってられるわけ無いでしょう。及ばずながら手伝いますよ」
宮本さんまで照れ笑いしながら話に乗ってきた。
皆『水神社』にはたくさんの思い出があるのだろう。
しかし今は調査を優先したい・・が、言い出しにくいな。
「さて、思い出話はそのうち飲みながらでもしましょう。今は問題解決が先です」
「ですね。早速中に入りましょう」
流石はギルマス。ちゃんと区切りをつけて話を変えた。
俺もそれに乗って入場を促した。
「ゆーちゃん、何か楽しそうだね」
「・・ちょっとテンションが高いわよね」
早くダンジョンに入りたい俺を見て、ちみっ子達が俺の様子がおかしいと思ったみたいだ。
しかしそれは当然だ。
「初めて入るダンジョンだぞ。そりゃ今は不謹慎かもしれないがわくわくするさ」
「ゆーちゃんこどもなの」
そう言われても仕方ないが、君らに子供だと言われるのはどうなんだ?
そこでまた皆が軽く笑いながらも、俺たちは歩行者用のゲートまで歩いていく。
ここは『ファースト』同様の自動改札のようなゲートが設置されていて、若いガードマンが立哨していた。
「宮本さんお疲れ様です」
「いつもご苦労さまです。これから調査に入りますね」
「はい。皆さんお気を付けて」
宮本さんが軽く挨拶を済ませると、順次カードをタッチして全員がゲート内に入っていった。
最後の一人が内側に入ったのを見て宮本さんが話し出す。
「では予定通り調査組は中に、待機組はここで待っていてください。我々調査組も何か危険を察知したら無理をせずに撤退をします」
「ギルマスには俺が付くから、本城さん達は自由に内部を調べてくれ」
如月さんに護衛ができるほどの実力があるのかは疑問だが、無粋なことを言うのはやめておこう。
実際俺はともかく、ちみっ子達は大精霊様のところに行くだろうしな。
「じゃあ出発しましょう」
初入ダンの俺が先頭になるのはおかしいが、隊列的には俺、ちみっ子達、宮本さん、如月さんの順番以外無いだろう。
入り口から奥には軽い下り坂になっている。
足元は岩なのだが、整えられたように真っ平らだ。
これなら車でも走りやすいだろう。
「どこまでも不思議なダンジョンだな。漁をさせることに特化してるようだ」
「確かに他のダンジョンと比べると明らかにおかしな造りだよね」
「そうなのか?」
雑誌でとはいえいろいろなダンジョンを見てる俺や、国側の人間でギルマスである宮本さんにはおかしく思えるが、ここにしか興味がない如月さんは別に何とも思わないようだ。
そもそも入り口からしておかしいわけだし。
「そろそろ到着かな」
入り口から200mほど。このトンネルの終わりが見えてきた。
光が差し込んできて、目を凝らすと漁港らしきものが見える。
「今日もあの頃のままだ・・」
しっかりと港が見える位置まで来ると、如月さんがそう呟いた。
横長に伸びた市場は年季が入っており、あちこちに錆が見える。
外に新しく建てられた市場とは違いその姿は郷愁を漂わせている。
港には30隻ほどの漁船が並んでいるが、そのどれもが再現されたものなのかしっかりと使い込まれていて、一目で長い間この海で戦い続けたのだとわかる。
「すべてを津波に持っていかれて、このダンジョンが現れても外の漁港の復興を誰一人あきらめなかった。仮設テントを建てて水揚げを再開して今では立派な市場が建てられたけど、石巻に住む人たちは今でもこの風景が心に残っているんだ」
その瞳に涙を浮かべながら如月さんはじっと漁港を見つめ続けている。
福寿荘の女将さんの言っていたように、ここは二度と失えない大切な場所なのだろう。
ならば俺達も出来る限りの手伝いはしたい。
俺はちみっこ達にアイコンタクトで大精霊様の所に行くように促した。




