第百十二話 福寿荘
「恥ずかしい昔話はやめてくれよ」
「昔どころか現在進行形の話だろ?」
電話を終えてこちらに戻ってきた宮本さん。
如月さんの話通りなら、この人はずっと目の下に隈を付けたままなのだろう。
宮本さんは再びソファーに座り、こちらにメモ用紙を差し出してきた。
「車で十分くらいの場所の民宿でね。食事の用意も出来るそうだからしっかり食べてゆっくり休んでくれ。あ、もしかして電車で来たかな?」
「いえ車なので大丈夫です」
こんな時間なのに食事まで作ってもらえるとは・・
先ほどの話通り、宮本さんの顔の広さは凄そうだ。
「それと今日の宿泊費はこちらで持つから気にしないでくれ」
「え、いやそれは悪いですよ」
「こちらは協力してもらう身なのだから、これくらいはさせてもらわないと申し訳が立たないよ」
・・半分以上は旅行気分で来たのだが、これはしっかり協力しなくてはいけなくなったな。
であれば、せっかくだし高級ホテルとか・・げふんげふん。
「それでは有難く泊まらせてもらいます」
「そこらの高級ホテルにも負けないくらい食事の美味しい宿だから期待するといいよ」
あれ、心が読まれたか? それとも顔に出たかな?
しかし美味しい食事は嬉しい。今日はもう半分あきらめていたから尚更だな。
横に座っているちみっこ達も、その言葉を聞いた瞬間に一斉に腹の虫の大合唱を始めたくらいだ。
昼食から随分時間が経っちゃったしね・・
「ではちみっこ達が限界そうなのでこのまま宿に向かいますね」
「ああ。あと集合時間だが、車の運転で疲れてるだろうし十時くらいにしておこう」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えてしっかり寝てきます」
そう言って立ち上がると、宮本さんと如月さんも立ち上がった。
どうやら見送りに来てくれるようだ。
みんなでエレベーターに乗り込み出口に向かう途中、如月さんが口を開いた。
「その・・ヤスの事なんだが、あまり悪く思わないでやってくれ。本城さん達に絡んだことには弁解の余地もないが、あいつもダンジョンの件でだいぶ参ってる状態なんだ」
「大丈夫ですよ。むしろちみっこ達の反撃にあって哀れなくらいですから・・」
「まあ哀れで無様だったな」
如月さんがそう言うと、俺も宮本さんも思い出して軽く笑ってしまった。
一階に戻るとヤスとモブ二人の姿は無かった。二人がヤスを連れて帰ったのだろうか。
「ではまた明日」
「ああ、明日はよろしく頼む」
「いっぱい食べるのはいいけど、深酒はしないでくれよ」
さすがに今日は飲まないよ。念のために万全の状態でダンジョンに入りたいしな。
たとえ美味い海鮮料理だったとしても・・だったとしても・・
・・まあ一杯くらいなら影響はないかな。
「・・飲んじゃダメよ」
「みーちゃんがのまないようにみはるの!」
「僕たちと一緒にジュースだね」
・・はい。
「これなら大丈夫そうだな」
「心強いストッパーだ」
ちみっこ達の飲ませない宣言に二人が笑う。
そのまま二人に見送られて俺たちは駐車場に戻った。
駐車場は明るいが、それ以外は都心と違いだいぶ暗い。おかげで星がきれいに見えるな。
早速ナビに目的地の住所を入力して車を発車させた。
民宿の名前は『福寿荘』で、ナビでは9分と表示されている。
「これならすぐに着くな」
「僕おなかすいたよー」
「・・さすがに時間がかかったものね」
昼の寝坊がかなり響いている。
流石に申し訳なく(とはいえ、ちみっこ達も寝ていたのだが・・)急いで車を走らせた。
そのおかげで程なくして『福寿荘』の看板が見えてきた。
建物の横が駐車場になっているようなので、そちらに車を止めた。
「ようやくゆっくりできるな・・」
「・・運転お疲れ様」
ちーちゃんが労ってくれたので、俺は多少やる気が回復した。
お礼代わりにちーちゃんの頭を撫でてあげた。
「ちーちゃんだけズルい! 僕もー」
「みーちゃんのこともなでるの!」
・・うん、こうなるよね。わかってた。
仕方ないので二人も撫でてあげながら民宿の玄関に向かう。
「いらっしゃい! 遠いところよく来たね」
玄関をくぐると待ち構えていたのか、ふくよかなおばちゃんが声をかけてきた。女将さんだろうか?
「こんな時間にすいません。宮本さんから連絡が来てると思いますが本城です」
「大丈夫よ。部屋なら空いてたし、食材も十分あったから食事も問題ないわ」
食事があるとの言葉に、ちみっこ達が歓喜の声を上げた。
かく言う俺もほっと一安心したが。
「とりあえず食事は旦那がさっき作り始めたかばかりだから、先に温泉に入ってきたらどうだい?」
「温泉もあるんですか!? それは最高だ」
「出る頃には準備が終わってるだろうから、ゆっくり入るといいよ」
温泉付きとは思わなかったので、テンションが一気に爆上げした。
女将さんに部屋まで案内してもらい、俺はそそくさと風呂の準備をする。
「みんなはどうする? 今日も入らない?」
俺はちみっこ達にそう訪ねた。
というのも、この子達は普段風呂に入らない。浄化魔法で済ませるからだ。
「せっかくだからはいるの」
「温泉入ってみたい!」
「・・私も興味があるわ」
てなことで、ちみっこ達も入浴するようだ。
俺たちは部屋に用意されていた浴衣を持って、大浴場へと向かった。
・・もちろん男女別々に入ったぞ。




