第百十一話 宮本の献身
「今現在ダンジョンに潜っている人はいますか?」
「おそらく二十人前後が漁以外で活動してると思う」
宮本さんの答えに、このダンジョンがいかに漁を中心に運営されてるのかがわかる。
場所柄や活動する冒険者たちに漁師が多いから、海産資源以外は他のダンジョンに任せているのだろう。
むしろようやく最近になって、漁以外にも人を割ける余裕が出てきたのかもしれない。
「ここのダンジョンにはあまり他のダンジョンから遠征に来る人は少ない。そしてここの冒険者の多くは漁師になる人が多い。前まではそれだけでよかったけど、それではダンジョンとしてはもったいないからね。最近では少しずつ通常の冒険者を増やすための活動もしてるんだ」
「俺も今はそのために漁と探索の両方をやって、他の冒険者達にアピールしてるんだ」
まあこう言っては何だが、冒険者は本来ダンジョン攻略をしてなんぼだ。
もちろん日々の糧のために採取・採掘をしたり、浅い階層にとどまって倒しやすい魔物のドロップで稼いだりもする。
しかし漁はリアルでも出来る事だ。せっかくのダンジョンなのにそれだけではあまりにもったいない。
宮本さんもそれに気付いて行動を始めたのだろう。
「しかしこのままではそんな努力も無駄になってしまう。あのクラ―ゲンだっけ? それを何とかしなければ・・」
「戦ってはみたものの俺たちの魔法はまるで通じないし、海上だから接近戦もできない。毎回船を港まで押し返されるだけなんだ」
「何がしたいんだろうなぁ?」
ダンジョンというよりも大精霊様だろうか。こんな事をする真意が見えない。
あるいは人間には考えても判らない事なのかもしれないが・・
「それで本城君はこの件に関して協力してくれるという事でいいのかな?」
「ええ、まあ俺というよりもこのちみっこ達がメインになると思いますがね」
「この子たちが?」
如月さんはちみっこ達がメインだという事に驚いている。
見た目では確かに何が出来るわけでもなさそうに見えるけどね。
「今回ここに来たのも、この子達が行ってみたほうがいいと言ったからなんです。自分たちなら何かわかるかもしれないと言うので」
「心強いよ。もはや私達はお手上げでしかなかったからね」
「無論、手が必要なら俺ら冒険者たちも協力は惜しまないから何でも言ってくれ」
「わかりました。とりあえず明日の朝から調査に入りましょう」
今日はもういい時間だ。どこかで夕食を食べてさっさと寝たい。
「宿はもう決めてあるのかね? まだならこちらで手配するが」
実はまだ宿泊先を決めてなかった。
本来はウィークリーかマンスリーマンションを借りる予定だったが空きがなかった。
最悪車中泊もできるので、こちらに来てから民宿でも探すかと思っていたんだ。
「まだ決まってないのでぜひお願いしたいです」
「わかった。ではちょっと待っててくれ」
宮本さんはそう言って自分のデスクに戻り、固定電話で電話をかけ始めた。
相手先の電話番号はスマホを見てるのがちょっと面白い。
「しかしこんな時間に見つかるものかな?」
「心配ないよ。ギルマスの顔は広いし、宮城どころか被災した東北ではギルマスに世話になった人たちが数えきれないくらいいるんだ。一声かければ、今泊まっている客を追い出してでも空きを作ろうとするさ」
「それは凄いが、マジでやめてください」
追い出された客に間違いなく恨まれてしまう・・
それなら車中泊で結構ですから。
「しかし、宮本さんはそんなに人気者なんだな」
「ああ。初めてここに来たときは、みんなよそ者のギルマスを全く受け入れはしなかったんだ」
そりゃ復興の目処がたってないのに、ギルドハウスを作ってダンジョン経営しますじゃ誰もついてこないだろう。
まさに神経を逆なでする行為に等しい。
「けどギルマスは誰よりも被災者たちのために涙と汗を流してくれた。ダンジョンの物資を東北のために使い、伝手を頼って救援物資を集めて、医者や自衛隊が必要な場所を調べては早急に派遣するように国に要請もした。おかげで国にはだいぶ腫れ物扱いされたそうだよ」
「明らかにギルマスの仕事を超えてますもんね」
俺の言葉に如月さんは頷き、この部屋を見渡した。
「知ってるかい? ギルマスが赴任して国がギルドハウスを建てようとしたとき、ギルマスは大反対してここにテントを立てて寝泊まりしながら業務をこなしてたんだ」
確かにこの建物はだいぶ新しい。キレイに使ってるだけではなく、実際に築年数が経ってなかったのか。
「俺はこのあたりの生まれでね。最初は他の人たち同様、ギルマスの事を白い目で見てたんだ。それでもギルマスは東北のために動き、被災者たちに寄り添って・・ついに倒れたんだ」
「何か病気に!?」
「幸いと言っていいのか疲労だった。それでも三日間も目を覚まさなかったんだ。その時はちょうど街や県の代表たちの会議で俺も参加してたが、会議が始まる前からギルマスの顔は土気色でひどい隈が出来てたのを今でも覚えてるよ」
何が宮本さんをそこまで突き動かしていたのだろうか?
献身にしてもいささか異常だ。
ある程度復興した今でもやはり隈があり、頬もこけるほどに動いている。
それこそ東北のために命さえかけているように見える・・




