第百九話 テンプレ冒険者
午後八時半。
何とか少しだけ巻き返して『水神社』のある石巻漁港に到着した。
俺は標識に従い、冒険者専用の駐車場に車を回す。
「うみのにおいなの! みずがあればみーちゃんはむてきなの!」
海のそばなこともあって、水の精霊のみーちゃんがとてもエキサイトしてる。
「海は風が強いから僕だって無敵だよ!」
ついでにふーちゃんもエキサイトしていた。
「・・山がそばにあるのはいいけど、ここでは私ははしゃげないわ」
ちーちゃんは普段通りだった。
今度また山やキャンプ場に連れて行ってあげよう。
駐車場入り口でギルドカードを提示して、場内に入っていく。
この時間なので駐車場にはだいぶ余裕がある。
俺はとりあえずギルドハウスに一番近いエリアに車を止めた。
「さて、ギルマスさんがまだ居るといいだが・・」
「こーむいんはじかんになったらかえるの」
・・うん、まあそうなんだけどね。
忘れがちだが、高倉さんや桜木亭で働いている職員さん達は公務員なんだよな。
みーちゃん、公務員なんてよく知ってるな。
「とりあえず中に入ってみよう。せっかくだしギルドハウスも見てみたい」
ここまで来たのに引き返しては意味がない。
それに桜木亭以外のギルドハウスは初めてなので興味津々だ。
駐車場を出て百メートルほどの場所にある白い建物。
その正面に回ると右側にレストランや売店の入り口があり、左側に冒険者用の出入り口があった。
その入り口の上、壁面には大きな看板がかかっていて『ギルドハウス 竜宮館』と書かれていた。
「たいやひらめがおどってそうなの」
「どっちかってーと食べたいんだがな」
建物の大きさは三階建てで桜木亭とそう大差はないと感じた。
真っ白な建物はよく目立つが、これは潮風対策でこうしてるのだろうか?
冒険者側の入り口の自動ドアを開けて中に入ると、あまり人気はなかった。
冒険者らしき人は十人ほどだろうか? あとはカウンター側にいる職員さん達くらいだ。
ちらっとレストランの席を覗くが、やはりお客はほとんどいない。
「・・何か桜木亭とは違った雰囲気ね」
「寂しい感じがするよ」
ちーちゃんとふーちゃんが率直な感想を言った。
ちみっこ達には余計にそう感じるのかもしれない。
するとこちらの話し声が聞こえたからか、四人組で話をしていたうちの一人がこちらに気づき、不愉快そうな顔をしてこちらに近づいてきた。
四十くらいの冒険者・・だよな? よく焼けた赤銅色の肌で、頭に手拭いを巻いた漁師にしか見えない男だ。
「兄さん、ここは冒険者専用のエリアだ。観光客は立ち入り禁止だぞ」
「いや冒険者だが?」
彼が言ったとおりだからこそここに居るわけだし。
「俺はここが出来た時から冒険者をやってるが、お前の顔なんか見たことねぇよ。さっさとガキども連れて帰らないと叩き出すぞ!」
なんだこいつ? こんな異世界テンプレな冒険者が竜宮館には居るのか?
そもそも今日来たばかりなんだからこいつが知らないのは当然だろうに。
何が気に食わないのかわからないが目の前の男が怒り始めたところで、四人組の別の男が慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「ヤス、やめろ! 関係ない人に八つ当たりするな!」
「ちっ!」
後から来た男にそう注意されると、ヤスと呼ばれた男は不機嫌さを隠さずにそっぽを向いた。
図体はデカいがちっちゃい男だ。
「つれが申し訳ない。今大きな問題が起きててこいつは機嫌が悪いんだ」
マジで八つ当たりじゃん・・
謝罪してきた男も四十くらいだろうか。
こちらもしっかりと日に焼けているが、手拭いを巻いたりはしてない。
「しかし彼が言ったようにここは冒険者しか入ってはいけないエリアだよ」
「だから冒険者だと言ってるだろうに」
ちみっこ三人連れてたら冒険者じゃないのかよ? ・・いや、見えないか。パッと見は観光客の方に見える事だろう。
仕方ないのでギルドカードを見せてやった。
「これは『ファースト』所属のカード!? じゃあ本当に・・」
「こんな奴が!? 嘘だろ」
ヤスがそう声を上げるがカードの偽造は犯罪だ。嘘なわけない。
この二人の反応が気になったのか、四人組の残りの二人もこちらにやってきた。
やはりよく焼けた漁師風の男達だ。
と、そのうちの一人がちみっこ達を見て何かに気づく。
「あれ、その子たちってあのPVの子じゃないか?」
・・うん。俺で気付くんじゃなくてちみっこ達で気付くのね・・
そう言われて男どもはちみっこ達を見て・・から俺を見た。
「そうだ! こいつPVに出てた奴だ!」
ヤスよ。こいつ呼ばわりとかいい加減にしろよ。
どうせお前が犯人なんだろヤス?
「じゃああなたがソロ攻略をしている『ファースト』のギルド会長・・」
「ああ。本城 豊だ」
ギルドカードを渡した男は俺とカードを見比べてそう呟いた。
てか、俺の情報はそこまで出回ってるのか・・
とりあえずカードを返してもらうと、男の方も自己紹介を始めた。
しかしこれには俺の方が驚く事になる。
「重ね重ね済まない。俺はここ『水神社』のギルド会長をやっている如月 慎一だ。よろしく頼む」




