第百三話 兄妹の結末
竜胆さんの言葉に彼の件が頭をよぎった。
いや、早合点はよくない。
そもそも竜胆さんは慌ててる様子もない。近藤さんも普通だ。
俺は先ほどの言葉の真意を確かめるべく質問をした。
「お兄さんは冒険者で、全く連絡が取れない状態なの?」
「そうですね。最後に会ったのはひと月ほど前でしょうか。留守電やメールを送っても返事はなく、兄の住むアパートに行ってもいつも留守なんです。ただ郵便物は溜まっていないので定期的には帰っているみたいですが・・」
その言葉を聞いてひとまずは安心した。単純に連絡が取れていないだけらしい。
何か連絡の取れない理由でもあるんだろうか?
「そもそも兄は冒険者なんて向いてないんです。弱っちいくせに憧れだけで冒険者になんてなって、こうやって家族に心配までかけて・・」
ちょっと思うところのある言葉だがここは黙っておこう。
子供の言ったことだし、単純にお兄さんを心配しての言葉だろう。
「定期的に家に戻っているけど連絡をしない理由か」
「実はもう冒険者はやめて他の仕事を始めたとか?」
ジュースを飲んでいた近藤さんがそんなことを言ってきた。
確かにあり得る話だ。転職したはいいが、家族には言い出せないままだとか。
「それならそれでいいのですが、結局連絡が取れなければ同じ事なんですよね」
「まあなぁ。ただ転職してた場合はそれこそ俺の出番はなくなるからな」
お兄さんが冒険者でないのなら俺に出来る事なんて何もない。
まずはそこから調べないといけないな。
「あまり使いたくなかった手だが、高倉さんに手伝ってもらってダンジョンへの出入りの履歴を見てもらうか」
忙しい高倉さんに迷惑をかけたくなかったが少しでも情報は欲しい。
はっきり言ってこのままでは話が進まない。
だがゲートのログを見れれば今でも冒険者をやっているのか、いつダンジョンに入ったのかなど色々とわかることがある。
「今回は緊急性のある話じゃないから調べるのには家族の同意が必要になると思う。竜胆さんは俺と一緒に来てくれ」
「わかりました」
「私はみーちゃん達と待ってますね」
近藤さんが子守りを買って出てくれたので、三人を任せて竜胆さんと共に受付に向かった。
高倉さんに連絡を取ってもらい、許可が出たので二階の部屋に向かった。
何度もお邪魔して申し訳なくなる・・
「本城です」
「はい、どうぞ」
ノックをして名乗るとすぐに返事が返ってきた。
俺たちは二人そろって部屋に入る。
「一日に何度もすいません。ちょっとお願いがありまして・・」
「気にしなくていいよ。必要と判断したからここに来たのだろう?」
うちのギルマスは理解のある人で良かった。
「初めまして、竜胆と申します。この度はお時間をいただきありがとうございます」
「ギルドマスターの高倉です。竜胆さん、そんなに畏まらなくてもいいよ。私はただの中間管理職のおじさんだから」
そう言って朗らかに笑う高倉さん。
竜胆さんはさすがに緊張してたのか、その顔を見て少し肩の力を抜いたようだ。
「もしかしてさっきの件かな?」
「ええ、実は・・」
竜胆さんを見て察してくれたようで、俺はさっきまでの事を高倉さんに話した。
「なるほど、それは心配になるね。我々としてもこの前の件があるしね・・」
「ですよね。なので少しでも情報が欲しくて」
「わかった。竜胆さん学生証はあるかな? 一応身分証明は必要だから」
「はい、持ってます」
竜胆さんはカバンから学生証を取り出し高倉さんに渡した。
受け取った高倉さんは部屋に設置されているコピー機で写しをとると、すぐに竜胆さんに学生証を返却した。
「君たちは食堂で話してるんだよね。結果が出たらそっちに持っていくよ」
「いや、呼んでくれればこっちに来ますよ」
「なに、ちょうど夕飯にしようと思ってね。気にしなくていいよ」
高倉さんがそう言うので、俺たちは一旦食堂に戻ってきた。
しかし結果が出るまでは話が進まないので、俺たちは時間つぶしに雑談をしている。
「お待たせ。これがお兄さんのログだよ」
ほどなくして高倉さんが俺たちの席に来てくれた。
俺は椅子をもう一つ持って来て、高倉さんに座ってもらった。
「これは・・最近もダンジョンに出入りしてますね」
お兄さんのログをプリントアウトした紙を渡された竜胆さんがそうつぶやいた。
「本城さんも見てもらえますか?」
「わかった見せてもらうね」
個人情報の紙になるが、竜胆さんがオッケーであれば問題ないだろう。
内容を見てみると、ここ二か月ほどの入退場の日付と時間の一覧になっていた。
「確かに今もファーストにいるみたいだね。大体三日のスパンで潜ってるようだ」
「私もこれを見て、とりあえずホッとしたよ」
やはり万が一を考えてしまっている俺も高倉さんも、これを見て肩の力が抜くことができた。
「しかしこの活動期間を見るかぎり、今日あたりファーストから出てくるんじゃないか?」
この表どおりのサイクルなら今日、しかも退場時間は大体19時となっている。
このまま待っていれば会える可能性は高い。
俺がそう指摘すると、みんな食堂に隣接するギルドエリアのほうを見た。
「――兄さん!」
そう叫んで席を立ち、走り出す竜胆さん。
ってか、本当にいたの!?
慌てて後を追う俺、近藤さん、高倉さん。
ちみっこたちは興味が無いようで、そのままおかわりのジュースを飲んでいる。
「秋穂!? 何でここに!」
竜胆さんが向かった先にいたのは・・子供?
身長は140㎝くらいだろうか。明らかに竜胆さんよりも小さい。
そしてなにより美少年と言っていいほどの顔立ち。ジャ〇ーズに所属していてもおかしくないほどだ。
「兄さんが全然連絡を返してくれないから、本城さんに相談してたのよ!」
「はぁ!? お前なんて迷惑を!」
彼の周りにいるのはパーティーメンバーだろうか? 事情が分からず茫然としている。
何だかこのままだとケンカになりそうなので、ひとまず割って入るか・・
「君が竜胆さんのお兄さんで間違いないのかな?」
「はい、何だかご迷惑をおかけしたようで申し訳ないです」
彼は小柄な体を曲げて謝罪をしてきた。
しかしやはり急な話で戸惑っているようだった。
とりあえずは事の顛末を説明してあげた。
「つまり兄さんがちゃんと返信していればこんな事にはならなかったのよ」
竜胆さんがそう非難したが、お兄さんは大きくため息をついた。
「僕はちゃんと母さんと連絡を取っていたぞ」
「んんん?」
予想外の言葉に俺は首をひねった。
「お母さんじゃなく私に連絡をしてよ! ダンジョンの外にいるときは朝昼晩と電話をして、30分に一回はメールを送る約束だったじゃない! 休みの日は私と一日デートするのも!」
「それはお前が勝手に決めた約束だろ! いい加減兄離れしろよ」
いや、これって・・
「竜胆さんてもしかして・・」
「うん、重度のブラコンなんです・・」
俺の問いに答えてくれた近藤さんだが、彼女もうんざりしているようだ。
高倉さんに至っては目が点になっている。
「まさかここまで拗らせてるなんて・・確かにあのお兄さんならブラコン発症しそうではあるけど」
「つまり彼女はお母さんに連絡が来てるのを知らなかったから、近藤さんや俺に相談してきたのか・・」
これは竜胆さんを責めるべきか、一本くらい連絡をしてやるべきとお兄さんを責めるべきか・・
そう思った瞬間、
しゅるるるるるっ!
「うわっ、何だ!?」
竜胆さんがどこからか取り出したロープでお兄さんをぐるぐる巻きにした。
驚いた俺は彼女の顔を見ると・・目がイってしまっている。
「兄さんにはもっと妹を大事にすることを教えないといけないようですね。これから兄さんの部屋で三日三晩しっかりと教育してあげます。心配しないでください。ちゃんと食事もお風呂もトイレも私が面倒を見てあげますから」
怖いです。
ちみっこ達がこの場にいなくてよかった・・
「皆さん、今回は大変ご迷惑をおかけしました。兄にはこれからしっかりとわからせますので、どうかご容赦ください」
「あ、ああ。まあお兄さんが無事でよかったよ」
「ありがとうございます。では私たちはこの辺で」
事態についていけない高倉さんに代わって、彼女に挨拶をしておいた。
竜胆さんはお兄さんのパーティーメンバーにも挨拶をすると、そのままお兄さんを引きずって桜木亭から出て行った。
「秋穂! ロープを解け!」
「兄さん、あまり騒がしいと口も塞ぎますよ。具体的には私の口で」
「・・・・」
外から聞こえてきた恐ろしい会話は聞かなかったことにしよう。
ひどく不毛な人探しは終わった。
とりあえず高倉さんを正気に戻して、俺たちも帰ろう。
帰ってちみっこ達に癒されたい・・




