27.まだまだ問題児
転移21日目。
発電機の燃料タンクの強化も無事後半に入り、私も再び外へ探索に出ていた。もちろん単独で。色々不自然だからな。まぁ今更かもしれないけど。
どうやら道を片付ければ片付ける程探索は捗るらしく、リーダーのお兄さん()にはお礼を言われた。ついでに、その調子でもっと頼むとも言われたけど。どうやらあの道を埋めている瓦礫というかスクラップというか、相当邪魔だったらしい。
それと、どうやら王子様が大人しくなったようだ。大人しくなったというか、普通にコミュニケーションをとるようになったというか。いやまぁ、「[リットと呼ぶことを許す]」って相変わらずド上から目線だったんだが。
「で、今度は何です?」
「[宝石を出せと言っただけだ]」
「……それで今生きてるか分からない、大事な旦那さんとの結婚指輪を強奪しようとしたんですか?」
「[有効活用する方法を教えてやろうというのに何故理解できん]」
そして本当に相変わらず傲慢強欲王子様だったんだが。そういうとこだぞ。
「まず他人の持ってる物を許可なく使おうとするのを止めましょうか」
「[何故俺様が許可を得ねばならんのだ。むしろ泣いて喜んで差し出すべきだろう]」
「こういう言い方したくないんですけど、自分で自分の身ぐらい守れるようになってから言ってくれます?」
「[その為に宝石が必要だと言っているのだ!]」
「宝石なんてそうそうある訳がないでしょうが。というか、他人の持ち物に手を出すの、強盗とか泥棒とか言うんですけど? もしかして法律をご存じない?」
「[今は緊急時だろう]」
「緊急時ですけど、だからといってあなたに差し出す義務も無ければ、あなたに差し出させる権利も無いんですよ。自力で探索に出てゾンビや動物を仕留めて貢献してから交渉して、それでもダメだった人は素直に諦めて下さい」
ここまで言えば、ぐむ、と納得もしくは理解する姿勢を見せるだけ、まだマシではあるが……マシだと言えるのは、ゲーム時代のどうしようもなかった王子様を知っている私だけだからな。なので無事王子様の評価は底辺を這っている。
ちなみに宝石自体は実は地下倉庫から出て来ていたりする。金属コンテナの中から金庫が出てきた時はまさかと思ったし、自分の部屋に持ち込んだら勝手に鍵が開いて、中から宝石がごろごろ出てきた時はちょっと固まったけど。
いやまぁ確かに宝石って言うのも資源の1つで、ファンタジーな異世界の魔法を使おうと思ったら必須だし、大規模な魔法的防衛装置の中には宝石を消費する大技がある奴もあったけども。
「……認識していないようなので一応伝えておきますけど、今のあなたに対する評価は、仕事が出来ないのにやたら偉そうで盗みを働いても全く悪びれないし会話をして弱みを握って脅してくる、関わってはいけない人間、ですからね?」
「[な……っ!?]」
「はっきり言って、あなたを追い出さずにとどめ置いているというだけで、私への不信感まで出てるんですよ。その態度と行動はあなたにとっての普通かもしれませんが、少なくとも私にとっては犯罪者以外の何者でもありませんからね」
「[ぐ……っ!]」
意訳、これ以上かばいきれねーぞ、一般市民の態度を学び直せ、である。
その辺の能力は間違いなく高い王子様なので、流石にもう自分が崖っぷちどころか崖から落ちていて、私が辛うじて手を掴んでいるから落ちていないだけ。かつ、このままだと私も落ちるからそろそろ手を放すぞ、というのは読み取れたようだ。
むしろなんで今までは気付かなかったかというと、この王子様が傲慢強欲だからだな。というか多分、一般市民の事を舐めてかかっている。自分に従うのが当然、導いてやるのだから全てを捧げて喜んでついてこい、という価値観は、今この状況だと傲慢強欲でしかない。
……って言う事すら指摘しないと分からないって辺り、たぶん王子様の方も冷静ではないんだろうけどな。どこかが。
「せっかく言葉が通じるんですから、まず提案、確認、対話、認識と条件のすり合わせをお願いします。周囲の状況を見る限り国という形が残っているかも既に怪しいですが、だからこそ全員の良識と良心で最低限の治安を維持しましょうという話です。分かっていただけます?」
「[……そうか、法を守らせる力も裁く権利を持つものもいないのか]」
「ですからどうしようもない相手は外に放り出すしかないのもご理解下さいね」
「[そ、そうだな。留意する]」
「考えるもしくは頭に置いて下さい」
「[……善処する]」
「確約をお願いします」
だからお前もう崖っぷちから落ちてるんだぞ(意訳)と再度告げて自覚を促す。全く、手のかかる王子様だな。




