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北方艦隊

……………………


 ──北方艦隊



 1727年3月10日。


 魔王海軍北方艦隊旗艦ルサルカにて、北方艦隊司令官テルクシエぺイア海軍大将とヒメロペ軍団司令官ヒメロペ海軍大将は最後の打ち合わせを行っていた。


「敵の海軍はまだ戦艦を含めた主力艦を温存している」


 テルクシエペイア大将はアイゼンベルグ湾に面するニザヴェッリル海軍のノルトハーフェン海軍基地を指さしてそう言う。


 テルクシエペイア大将はスキュラで、海軍の紺色の軍服を身に着けており、魔王海軍の艦内帽を被っている。髪は黒く、つややかで、瞳の色は透き通った青をしている。そんな美しい女スキュラだ。


「先の敵艦隊誘引を目指した囮作戦は失敗し、敵艦隊はノルトハーフェンの港湾に立て籠もった。同港湾には口径280ミリ沿岸砲を含めた要塞砲多数で、迂闊に接近すれば大打撃を受ける」


「しかし、敵艦隊がいるまま上陸作戦は行えない」


 テルクシエペイア大将の言葉にヒメロペ大将が指摘。


 ヒメロペ大将は上陸部隊の指揮官として、海軍歩兵の陸軍の軍服に似た黒い戦闘服を身に着けている。髪はとても短く切り揃えており、顔立ちが中性的なのも合間って男のように見えることもあるぐらいだ。


 魔王海軍は艦内での反乱防止や敵艦への移乗戦闘などを考慮して海軍歩兵という兵科を保有していた。規模はそこまで大きくなく、水陸両用作戦を想定した1個海軍歩兵師団と各地の基地警備の6個独立海軍歩兵大隊が存在するのみ。


 ヒメロペ軍団隷下部隊にはそのなけなしの1個海軍歩兵師団が参加している。そのため指揮権が陸軍ではなく、海軍のヒメロペ大将にあったのだ。


「そこで第3航空艦隊がノルトハーフェン海軍基地への爆撃を実行し、残存艦隊を無力化する。作戦にはウィッテリウスも参加するとのことだ」


「グレートドラゴンか……」


 第3航空艦隊に配属されている2体のグレートドラゴンのうちの1体ウィッテリウスが大洪水作戦における上陸作戦の援護に当たることになっていた。


「港湾施設の確保はノルトハーフェン海軍基地以外で行うのだから、グレートドラゴンが多少暴れても問題はないだろう」


「そうだな。では、残存艦隊撃破後に上陸地点に進出し、上陸開始だ」


 ヒメロペ軍団に配備されている部隊は以下のように分類されている。


 第1梯団として第1海軍歩兵師団と第99狙撃兵師団。


 第2梯団として第69狙撃兵師団、第80狙撃兵師団、第122狙撃兵師団、。


 以上の5個師団が作戦に当たる。


 これらはただ上陸するだけでなく、第1梯団は橋頭保の確保を行うために港湾などのインフラの占領を実施し、第2梯団はそれらインフラが敵の砲爆撃を受けないようにするため前線を押し上げる任務があった。


 これらヒメロペ軍団の上陸作戦が成功したのちに、魔王陸軍から後続の部隊が次々に上陸していくこととなる。


「上陸地点はアイゼンベルグ湾のこのアルベンハーフェンだ。ここには我が軍の輸送艦が着岸可能な港湾施設があり、上陸に適した浜辺がある。第1梯団はアルベンハーフェンの西部にある浜辺に揚陸し、東進して都市ごと港湾施設を制圧する」


 流石に港湾都市とは言え都市に直接上陸するのは無謀だ。敵は絶対に都市に守備隊を配置しているだろうし、それを撃破するために都市に艦砲射撃を行えばインフラが失われてしまう。


「今のところ敵は我々の動きに気づいていない。作戦は強襲上陸でなく、奇襲上陸になるだろう。とても望ましいことに、ね」


 上陸作戦は常に奇襲であることが望ましい。敵が布陣し、まして要塞まで存在する場所に上陸するのはよほど選択肢がない場合だ。


 もし、敵が待ち構える場所に上陸すれば、何の遮蔽物もない砂浜で、滅多撃ちにされてしまう。それは肉挽き器に部隊を突っ込ませるような大惨事となろう。


「それでは海軍は上陸援護を。頼むぞ、テルクシエペイア大将」


「ああ、ヒメロぺ大将。そちらの幸運を祈る」


 今回の作戦に参加している北方艦隊の艦艇は戦艦2隻、装甲巡洋艦2隻、防護巡洋艦4隻、駆逐艦6隻となっている。北方艦隊のほぼ全力出撃だ。


 彼らが闇夜に拠点であるセルキー海軍基地を出港し、密かにアイゼンベルグ湾に近づく中、魔王空軍第3航空艦隊も動いていた。


 無線封止が維持される中でグレートドラゴンたるウィッテリウスが直掩のレッサードラゴン4体とともにアイゼンベルグ前面の野戦飛行場を離陸し、大きく北に向かったのちにぐるりと回り込むようにアイゼンベルグ湾に入る。


 目指すはアイゼンベルグ湾におけるニザヴェッリル海軍の衛拠点であるノルトハーフェン海軍基地。その重要な海軍基地に向けてウィッテリウスを主力とする航空部隊が高高度飛行を続ける。


 現在、航空目標を捉えるのに一般的なのは、エルフィニア製の魔力探知機であり、ニザヴェッリル軍も少数を導入していた。ノルトハーフェンにも固定型のそれが設置されており、魔王軍の襲撃に備えていた。


 しかし、現在において配備されチエル魔力探知機の弱点として、遠方の目標は反応がばらけるというものがある。


 電波の反射を捉えるレーダーと違って魔力探知機は目標の魔力を捉えるのだが、受信機の精度は今はそう高くない。そのため遠方の反応は強さや距離などの数値があいまいになってしまうのだ。


 そうであるが故に魔王空軍のグレートドラゴンは高高度飛行していた。高高度に距離を取れば、それだけ相手が自分たちを正確に捉えるのが遅れるが故に。


『無線封止解除、無線封止解除』


 第3航空艦隊司令部から予定時刻に無線封止解除命令が発令された。


 ウィッテリウスは既にノルトハーフェンが見える位置にいて、降下を始めている。グレートドラゴンが緩やかに降下していくのに護衛にあたる4体のレッサードラゴンたちが合わせて降下した。


『敵艦隊視認。我これよりノルトハーフェンを爆撃する』


 ウィッテリウスからそう連絡があり、爆撃が開始された。


 ここになってようやくニザヴェッリル海軍は襲撃に気づき、警報を響かせたが、あまりにもそれは遅かった。


 ウィッテリウスの顎門が開かれ、魔法陣が展開すると、ノルトハーフェンに逃げ込んでいたニザヴェッリル海軍の残存艦隊に向けて熱線が照射される。


 まず撃破されたのは横一列に岸壁に停泊していた戦艦4隻で、艦体の中央を熱線で引き裂かれるように撃たれ、乗組員ごと蒸発した。熱線はそのまま岸壁を引き裂き、港湾施設内にあった弾薬庫を直撃。大きな爆発が生じる。


 ウィッテリウスは一度そのままノルトハーフェン上空を通過し、旋回しながら攻撃を継続。今度は旋回しながら放たれた熱線が防護巡洋艦や駆逐艦、水雷艇などを確実に狙って撃破していく。


 ノルトハーフェンからは散発的に対空射撃が行われるが、全ては届かないか、あるいはウィッテリウスの魔術障壁を前に阻まれてしまった。


 そうやって港湾の艦艇を念入りに潰したのちは、ノルトハーフェンを守る要塞砲などに目標を移して攻撃を継続し、蹂躙に次ぐ蹂躙を重ねた。


 しかし、市街地への爆撃は避けた。


 そこに暮らすドワーフたちには将来的に魔王軍の奴隷となってもらわなければならないのだ。この戦争は奴隷狩りの戦争なのだから。


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