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大洪水作戦

……………………


 ──大洪水作戦



 1727年2月。


「陸軍参謀本部はアイゼンベルグ攻略に向けての作戦立案を実施しました」


 魔王ソロモンに対してシュヴァルツ上級大将が報告を行う。


「述べよ」


「はっ! 説明いたします」


 シュヴァルツ上級大将は地図を広げて、ソロモンに説明を開始。


「我々はアイゼンベルグに向けてふたつの刃を準備しています。ひとつはアイゼンベルグ前面に展開しているロート軍であり、同軍司令官ロート大将指揮する15個師団に及ぶ戦力です」


 アイゼンベルグ周辺に15個師団──20万近い戦力が配置される。


「ロート軍はアイゼンベルグ正面から攻撃を仕掛け、ニザヴェッリル軍を拘束。人海戦術による波状攻撃を仕掛け、渡河を強行します」


「ふたつ目の牙は?」


「アイゼンベルグ湾への上陸作戦です。海軍北方艦隊と空軍第3航空艦隊の支援の下に、新たに編成したヒメロペ海軍大将が指揮するヒメロペ軍団が上陸を実施。同湾の港湾施設等を制圧したのちに、アイゼンベルグの背後に回り込みます」


 アイゼンベルグ北部には北方海に面するアイゼンベルグ湾が存在する。


 アイゼンベルグを流れるレーテ川の流れ着く先であり、北方海有数の不凍港が存在する場所でもあった。


 陸軍参謀本部はこのアイゼンベルグ湾上陸作戦を計画。陸海空軍が団結して、上陸作戦を決行することとなった。


「我が軍は上陸作戦のノウハウは少ないが、可能なのか?」


「昨年実行したヴィンターシュミートにおける上陸作戦を参考にしております。同作戦で起きた事故や戦闘を分析し、その結果の反映を。またロート軍がニザヴェッリルの予備戦力までの拘束に成功すれば、無血上陸も可能でしょう」


「分かった。そのようにせよ」


 上陸作戦はリスクの高い作戦だ。どんな軍隊でも水から上がる際には危険だという。水から上がるというのは渡河作戦や上陸作戦がそれに該当する。


 動きが制限され、重装備の運用も一時的に不可能なる瞬間は確かに危険だ。


「これらの作戦は高度に秘匿されなければならず、移動は夜間に限定し、無線は一切を封止するものとします。同時にドゥンケルブルクに対する攻撃を装う欺瞞作戦を実施し、敵を撹乱します」


「よいだろう。防諜面では内務省と国家保安省も協力する。占領地に敵の工作員が残留し、それらが我が軍の動きを報告する可能性もある。それらには警察軍も動員して対処に当たるとしよう」


「はい、陛下」


 魔王軍は今や広大な占領地を抱えている。


 そこにはニザヴェッリル軍が撤退の際に敢えて残していった工作員なども潜伏している。また、それらはレーテ川対岸のニザヴェッリル軍主力に魔王軍の後方での動きを知らせたり、破壊工作に従事したりしていた。


 魔王軍は内務省と国家保安省の警察軍部隊を投入し、それらのゲリラ狩りを実行しているところだ。


「では、作戦を許可する。作戦名は?」


「大洪水作戦です」


 1727年2月上旬より魔王軍はアイゼンベルグ攻略を目指す大洪水作戦の準備を開始。


 魔王海軍はこれに先立ち、残るニザヴェッリル海軍の撃破を目指して、2隻の装甲巡洋艦による囮作戦を実行した。しかし、ニザヴェッリル海軍はグレートドラゴンを恐れて出撃することはなかった。


 魔王空軍はドゥンケルブルク前面に航空基地を設置し、グレートドラゴンの1体ウェスパシアヌスをそこに配備した。ウェスパシアヌスはそれから高高度偵察飛行を何度も繰り返し、魔王軍があたかもドゥンケルブルクを狙っているかのように見せた。


 魔王陸軍も砲兵陣地を偽装することや鉄道路線の増強、渡河のための工兵資材の搬送などをするなどして、ドゥンケルブルクに大戦力が、レーテ川渡河を目的として集結しているかのように見せかけた。


 これらを受けてニザヴェッリル陸軍司令部は魔王軍の次の攻撃目標はドゥンケルブルクと誤認。戦力をアイゼンベルグから引き抜いて、ドゥンケルブルクへと機動させた。


 そのことを密かにアイゼンベルグ=ドゥンケルブルク線後方に回り込んでいたアルファ教導狙撃兵旅団などが察知し、北方軍集団司令部に通知。北方軍集団のブラウ上級大将は準備は整ったと判断する。


 1727年3月3日。


『大洪水作戦発動、繰り返す大洪水作戦』


 無線で命令が伝えられ、アイゼンベルグ前面に偽装して展開中であったロート軍が一斉に攻勢に出た。


「撃て!」


 高台に布陣した軍団砲兵の口径210ミリカノン砲が一斉に火を噴く。


 城塞都市であるアイゼンベルグに向けて放たれた大口径榴弾は、中世から変化していない城壁を一瞬で吹き飛ばし、崩壊させた。砲撃は続き、市街地内の軍施設などを容赦なく吹き飛ばしていた。


「我々も続け!」


 続いて旅団・師団砲兵が砲撃を開始。


 口径105ミリ、155ミリ榴弾砲を装備する彼らの狙いはアイゼンベルグの都市構造物ではなく、敵の戦力そのものだ。


 前線部隊及び後方の予備戦力に向けて放たれた火力が降り注ぎ、ドワーフたちを陣地に釘づけにしてしまう。これによって機動はおろか射撃も困難になり、ニザヴェッリル軍の抵抗は限定的となった。


「前進、前進!」


 そして、深夜に密かに運び込まれ、偽装されていたボートがレーテ川に下ろされ、最初はゴブリンたちを乗せたそれが対岸に送り込まれる。


「ゴブリンどもが川を覆っている! す、凄い数だ!」


「クソ。砲兵に支援を要請しろ!」


 ニザヴェッリル陸軍は後方に隠していた砲兵と前線に配備され始めていた汎人類帝国製の迫撃砲でゴブリンたちを攻撃。


 川という何の遮蔽物もない場所に展開していたゴブリンたちは砲兵の砲撃にあっけなく吹き飛ばされてゆくが、それでも次から次に渡河を試みてボートで押し寄せてくる。


 やがて活動を開始した魔王空軍が砲撃によって姿を見せたニザヴェッリル陸軍の砲兵に猛烈な空爆を開始。


「敵が対岸に渡った! 繰り返す、レーテ川を敵が渡河!」


 ニザヴェッリル側の砲兵による支援が急速に先細っていく中で、ついに最初のゴブリンたちが渡河に成功した。ゴブリンの工兵たちは先に命令されていた通りに、対岸にあるニザヴェッリル陸軍の陣地に爆薬を背負って飛び込み爆散。


 そうやってゴブリンの津波が数に任せて橋頭保を広げていく中、オークと人狼がそれに続いて渡河を開始する。


 次第に無秩序に放たれた津波が戦術的行動を開始し、レーテ川対岸に広がる。


 しかし、ニザヴェッリル陸軍は汎人類帝国から受けた物資援助によって、一部の装備が近代化しており、数では劣るものの局所的には互角となっていた。


「連中にここの通行料は高いと教えてやれ!」


 汎人類帝国製野砲の水平射撃によってゴブリンたちが薙ぎ払われ、同じく汎人類帝国製小銃の狙撃で人狼の将校が倒れる。


 魔族が倒れ、ドワーフが倒れ、あらゆるものが殺戮の嵐に巻き込まれていく。


 今やレーテ川は今や魔族とドワーフの血で真っ赤に染まっている。


「ブラウ上級大将閣下。空軍が先ほど行った航空偵察によれば敵後方にて予備戦力が機動中とのことです」


「ついに来たか」


 次に血に染まるのはアイゼンベルグ湾になるだろう。


……………………

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