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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第11部 内陸侵攻
99/110

その6 遮断

通遠堡鎮

 鳳城市中心部から約40キロ北に通遠堡鎮という集落がある。その郊外に広がる田畑に轟音が轟いた。

 挺身第5連隊を乗せたヘリコプター群が次々と飛来しては将兵を下ろしていった。将兵は集落を占領し、北と南へと繋がる街道に陣を敷いた。

 中国軍は鳳城市で抵抗を続け死守している限りは、通遠堡鎮は後方地帯であると考えていた。それ故に補給の為の少数の兵力しか置いておらず、大隊規模の挺身連隊に対抗する術は無かったのだ。

 集落を占領すると日本陸軍はすぐに陣地を固める為に動いた。増援の挺身第6連隊の輸送を開始すると共に、各種支援部隊や重火器を送り込んだのだ。

 その中でも最大のものが空挺旅団の砲兵隊である山砲大隊に配備されている三六式105ミリ榴弾砲である。三六式は軽量でUH-60ヘリコプターでも輸送可能なことから『空挺砲』の異名で知られている。それが2個中隊12門、持ち込まれて陣地を築いていた。

 一方、歩兵達は集落を取り囲む森の中に塹壕を掘った。穴を掘り、切り倒した木々で補強した。簡単な塹壕であったが、強力な重装備を持たない相手には十分に威力を発揮する筈である。そして降下開始から2時間後には中国軍を迎え撃つ最低限の準備を整えた。




鳳城市 市街を見下ろす丘 中国軍司令部

 第31集団軍司令官の趙建国は司令部の中で撤退する配下の部隊の再編を指示している最中に、日本軍のヘリボーン部隊が通遠堡鎮を占領したという報告を受けた。

「なんということだ」

 その報告は彼らの退路が断たれたことを意味していた。後退しつつ足止めの攻撃を繰り返し日本軍を消耗させる遅滞戦術がこれでは使えない。

「となると、ルー・タオランの師団のように遊撃戦に勝機を見出すか、それとも退路を遮断している日本軍部隊を撃退して、退路を確保し、遅滞作戦を続行するかですね」

 参謀が指摘すると趙は頷いた。

「少し時間をくれ」

 趙は一言、参謀に向けて言うと、この後にどう行動すべきか思案に入った。まず彼は日本軍のヘリボーン戦術を過小評価していたことを素直に認めた。立体的な攻撃に対して地べたを這いずり回っての作戦はかなり行動を制限される。しかし、ルー・タオランと違って遊撃戦を戦う準備は出来ていない。ここは攻撃に勝機を見出すしかない。

「師団長に命令を出す。通遠堡に攻撃を行う。2個連隊を以って鳳城市の最終陣地を死守。残る1個連隊を以って通遠堡を攻撃する」

 命令を聞いた参謀はすぐにそれを伝達すべく走っていった。それを見送ると、趙は別の参謀に尋ねた。

「韓国軍の方はどうなっている?」

 通化市方面で韓国軍に対して遅滞作戦を実行している第92歩兵旅団と装甲旅団について尋ねているのだ。

「なんとか持ちこたえています。夜になるのを待って、韓国軍に総攻撃を行い、その後に第2次防衛線に移動するとのことです」

 向こうは順調に進んでいるようだと趙は思った。これで司令官が直接指揮する部隊が敗れることになれば、まさに面目が立たない。そんなことを考えながら趙は苦笑した。こんな時になにを考えているんだ。私の面目がどうしたと言うんだ。

 趙は気分転換の為に地下陣地の外へ出ることにした。いまだに日本軍は激しい砲撃を浴びせてきているが、幸いにも司令部周辺への着弾は散発的であった。

 市街地を覗くと日本軍は市街を次々と制圧していって占領地を広げていた。中国側の守備隊が最終陣地、鳳城市市街のある盆地の北の出口に築かれた陣地に後退しつつあるので、市街での抵抗は軽微だ。それでも複雑で見通しの悪い市街地の制圧には手間取っている様子だった。それは好都合であった。

 一方で別の日本軍の部隊が市街の北へと向かっている。そして、鳳城市街における最後の防衛線を突破する準備をしているようだ。ここを守りきれるかどうかが趙の部隊の命運を握っている。

 通遠堡鎮への攻撃は明日の明け方になる。部隊の移動は夜の間に行わなくてはならない。昼間の明るいうちから移動しては、日本空軍に爆撃演習の的を提供するようなものだ。暗い夜道の闇に紛れて動かなくてはならないのだ。

 もし攻撃部隊が通遠堡鎮に到達する前に、そして奪取する前に鳳城市の最終陣地を突破されたのであれば、奪還に向かった部隊は背後から日本軍の強襲を受けることになる。

 空を見上げると、太陽は西に傾きつつあるが、日の入りまではまだ長い。中国軍の勝機は日没、そして明日の日の出までここを死守できるかにかかっているのだ。




鳳城市市街北 中国軍最終陣地前

 鳳城市から北へ抜ける街道の通る隘路、それが中国軍が選んだ鳳城市における最終陣地であった。道路を挟む山の背後に中国軍は反斜面陣地を築いているようだった。立地的には鳳城市の盆地入り口に築かれた陣地よりも頑強そうであった。最大の問題は中国軍が鬱蒼とした森、連なる山々を背後にして陣地を築いていることだ。背後が平地では無い以上、機甲部隊を送り込んで火力で押し切るというわけにもいかない。制圧には歩兵同士の近接戦が必要になる。

 第78旅団は一気に北上し、中国の最後の陣地を目視できる位置まで来て次の攻撃の足掛かりとなる地点を占領すると、一度停止した。それから次の攻撃に備えて燃料弾薬の補給を行い、損害が大きい先遣中隊は再編成をした。

 その間、師団砲兵は中国軍の陣地があると思われる山中に向けて、満遍なく砲撃を加えた。よく補強されているであろう陣地に対して大きな成果は望めないが、盆地の入り口付近の陣地から撤退した部隊が集結するのを防ぐことはできた。

 進撃の準備を進めていた第78旅団であったが、師団司令部の師団長、姶良中将は攻撃の先鋒を最後尾の第80旅団と交代することを決めた。その決定に第78旅団の将兵達は憤慨したが、それは当然の決定であった。

 突破に歩兵同士の近接戦が必要であるということは、歩兵の数が重要であるということだ。しかし第78旅団の現在の編成は2個戦車連隊に1個歩兵大隊。それなら歩兵大隊2個と戦車連隊1個から編成される第80旅団に突破は任せ、第78旅団には突破の後に敗走する中国軍の追撃と味方挺身連隊の陣地までの進撃を任せるのが理にかなっていた。

 そして第78旅団に捜索第20連隊が合流した。鳳城市まで第78旅団を先導してきた捜索第20連隊であるが、偵察部隊である彼らは陣地攻略戦ということで一度後ろへと下がっていた。そして、鳳城市最後の陣地を突破した後、彼らは通遠堡鎮までの進撃において第78旅団の前を進み再び先頭に立つことになる。

 しかし、それを実現するにはまず第80旅団の到着を待ち、彼らに陣地を突破してもらわなくてはならないのだ。

「突破するなら、昼間のうちにして欲しいもんだ」

 攻撃の為に陣形を整えている第78旅団の車輌を前にして停車する四八式重装甲車の横に立った捜索第20連隊の山口中隊長がぼやいていた。隣には中隊の先任下士官である樋口軍曹が立っている。

「まったくですよ。夜間に手探りで進撃するなんてごめんです」

 いくら日本軍は暗視装置が発達しているとはいえ、できれば夜間戦闘は避けたいのが心情だった。しかし第80旅団の部隊はなかなか集結しない。鳳城市の市街では、いまだに散発的な抵抗を続ける中国軍残存部隊と第79旅団各部隊との戦いが続いており、その間に第80旅団の部隊を通すのに難儀しているようだ。

 すると山口が第78旅団の方からこっちに向かってくる上司の姿を見つけた。

「おっ!連隊長が戻ってきた。ちょっと行ってくる」

 捜索第20連隊長の日向大佐は第78旅団の指揮官と打ち合わせをしてきた帰りであった。中隊長達が早速、その結果を聞くべく連隊長のもとへと集まった。その様子を見ながら樋口は漏らした。

「さて、どうなることやら」



 午後4時、ようやく第80旅団の部隊が集結し、攻撃の準備が整った。山口中隊長の懸念通り、突破後の追撃を担う第78旅団と捜索第20連隊はうまくいっても夜間の進撃になりそうだった。

 第80旅団は師団に2個しかない四八式歩兵戦闘車を配備する機械化歩兵大隊のもう片方が配備されていた。そこで戦車連隊と四八式装備の歩兵大隊を先頭にたてて突破を図るのが旅団の計画となった。

 また師団砲兵と軍砲兵による激しい砲撃が山々に叩き込まれて、その間に第80旅団の部隊が中国軍陣地までの距離を詰める。そして四四式戦車と四八式歩兵戦闘車がそれぞれの搭載火器を乱射しながら突撃した。

 中国軍の陣地は白煙に包まれ、日本の機甲部隊がその中に消えてゆく。後ろで待機する山口らはその向こうの状況がよく分からなかった。しばらく銃声が響く。

「どうなってるんでしょうか?」

 四八式歩兵戦闘車の砲塔の中で待機している山口大尉は隣に座る砲手に尋ねられた。山口は首を横に振るしかなかった。

「分からない」

 味方の通信を傍受しているが、いまだに状況の変化を示す兆候は見られない。だから山口は砲塔から上半身を出し、時折閃光が見える白煙の向こうについて想像を巡らせながら、戦友の武運を祈るほかにできることはなかった。

 すると、しばらくしてから事態が動いた。

『街道周辺を制圧完了!』

 戦車連隊と四八式歩兵戦闘車装備の歩兵大隊は街道の周辺を占領したようだ。しかし、散発的な砲撃や戦闘はまだまだ続いているようで、山口のもとにも爆音が聞こえてくる。街道を確保し、通遠堡まで進撃するには、さらに山中へと占領地を広げて、中国軍の陣地を完全に無力化する必要がある。その役目を担うのは、第80旅団の後続の2個歩兵大隊である。

 第80旅団の残る歩兵大隊を乗せた二六式装甲兵車改が次々と前進していく。白煙を抜けて中国軍の陣地が設けられた山に挟まれた隘路に入った大隊の将兵達は、戦車や歩兵戦闘車が一定間隔で停車して、街道の左右に対して砲撃を行っている様子を目撃した。そして、中隊ごとにそれぞれ割り当てられた区画に順番に停車していく。

 停車した二六式装甲兵車改から次々と降りていった将兵達は道を挟む左右の山の中へと進んでいった。今は街道の周辺のみを占領しているのだが、それをさらに横に広げるのが最後の大隊の役目であった。それはひどく骨が折れそうな任務であった。

 前回更新時に指摘のあった誤字部分を訂正しました。

 第100部まで後、2話!

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