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世紀末の帝國  作者: 独楽犬
第10部 大連の戦い
84/110

プロローグ

揚陸母艦<大隈>

 満載排水量は大和級戦艦に匹敵する大型運送船<紀淡>の損失は海軍陸戦隊にとって重大であった。

 運送船<紀淡><土渕>の2隻で旅団規模の特別陸戦隊が一週間作戦行動するのに必要な物資を運ぶことが出来る。その半分を失ったのだ。上陸に成功しても、その後の作戦へ大きな影響が出ることは確実であった。

 それ故に上陸作戦を仕切る第一水陸両用戦部隊の旗艦である<大隈>の指揮所の空気は酷く沈んでいて、艦隊総旗艦の<翔雀>とはえらい違いである。

「それで?どう対処すべきかな?」

 石見中将のその問いから始まった会議は紛糾していた。

「こうなった以上、北進の遅れはやむをえない。どうせ数日程度の遅れです。物資の補充を優先すべきです」

「湾岸戦争はその数日で終わっちまったんだぞ!いくらかの物資の不足は誤魔化せるし、相手に防備を整える暇を与えなければ、揚陸艦に載せている手持ちの物資だけでも打撃を与えられる。ここは上陸後にただちに進撃すべきだ」

「それじゃあ危険すぎる。部隊に大きな被害が出ることになるぞ!」

「陸戦隊は少数精鋭の機動力を武器とする戦闘部隊なんだぞ!時間をかけては敵に防備を整える時間を与えた方が、却って大きな被害を出すことになりかねない!」

「弾薬は手持ちで頑張るとして、燃料や食料はどうするんだ?」

「大連は大都市だぞ?それくらいの物資の備蓄はある」

 どちらの意見も正論であり甲乙をつけるのは難しい。戦場では戦闘に万全の態勢で臨めることなど稀であり、必ず決断を迫られる。だからこそ指揮官が必要なのだ。

 参謀達の意見を聴取して石見は決断を下した。

「作戦変更には陸軍との協議が必要だが、それまでの方針として我々は物資の集結を優先する。我らがここに居ることだけでも、幾らかの中国軍を拘束できる筈だ。それだけでも意義はある」

 石見の決断に参謀達は頷いて賛意を示した。すると1人の参謀が手を挙げた。

「上陸作戦後の方針も結構ですが、目下の課題は主力部隊の揚陸と大連の上陸部隊を守ることではないでしょうか?」

「その通りだ」

 石見は素直に同意した。




大連市街 沙河口駅前

 神楽小隊はビルの陰や1階に連なるテナントの中に陣を敷いていた。神楽小隊こと第二小隊と第三小隊の2個小隊は駅前のロータリーを南北から挟み込むように配置されていて、お互いを援護できるようにしていた。

 神楽の小隊本部はコンビニの中にあり、ブロックや棚などで防壁を築いた。そこから小銃や機関銃を突き出し、炎上する戦車を盾に戦う中国軍と撃ち合いを続けていた。最初に突撃した戦車を撃破してから中国軍は戦車の投入を躊躇しているようで、戦闘は歩兵同士の射撃合戦に落ち着いているが、膠着状態に陥った今、いつ戦車を再び投入してくるかわからない。そうなれば海軍陸戦隊は圧倒的に不利な立場になる。

 肝心の味方の戦車を含む友軍主力の到着は未定。空母航空隊の航空支援も艦砲射撃の支援もまだ来ない。補給も心もとない。海軍陸戦隊はフルオートを使わず単射や三点(バースト)で弾薬を節約しながら射撃している。機関銃さえも引き金を一瞬しか引かずに弾を撃ちすぎないようにしている。

 対する中国軍は弾薬の消費などを気にせず撃ちまくってくるので、撃ち合いは一方的な状況である。それでも中国軍の攻撃を防いでいるのは、海軍陸戦隊の高度な訓練に裏打ちされた兵士一人ひとりの射撃の高い技量の賜物だった。

 しかし、いずれ限界が来る。

「衛生兵!」

 神楽は声のした方へと振り向いた。叫んだのは第一分隊の対戦車手である台湾人一等水平の李献堂だった。その横で同じく第一分隊の機関銃手である上等水兵、小田信弘が足を押さえてうずくまっている。今まで負傷者を出さなかった神楽小隊だったが、ついに戦傷者が発生したのだ。

 中隊に大隊本部付の衛生班から配属された衛生兵が駆け寄ってきた。すぐにズボンを引き千切って傷口を確認してから消毒薬を振りかけ、その上から包帯を巻いてくる。衛生兵が作業するたびに小田が苦痛で顔を歪める。だが、神楽には彼の心配をしている暇はない。彼は機関銃手であり分隊、攻撃班の火力の根幹なのだ。

「兵長!」

 神楽は小田の傍らに寄り添う男に声をかけた。

「雛沢兵長!」

 小田と同じ分隊、攻撃班に属する小銃手だ。

「機関銃を引き継げ」

 声をかけられた雛沢はすぐに床に置かれたままの小田のミニミ軽機関銃に手を伸ばして掴み、それを構えた。

 まだまだ戦闘は続きそうであった。

 新章開始に伴い登場人物紹介を更新

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