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ある少女のプロローグ
『冷たい』
動き出した思考が発したその言葉は肺の中から出る事を許されなかった。幾ら思考しても身体は言うことを聞かない。
陽の光を直接見ることは叶わず、瞼を突き抜けた僅かな光だけが辛うじて私の目に届く。
呼吸をしても鼻から入るのは冷気ばかり。どういうわけか匂いは全く感じない。
数人の知らない声が小さく耳に届く。
「……かなんだよ!」
はっきりと聞こえたその声に心の中で頬を赤らめる。そんな状況でもわたしは冷たさしか感じられなかった。
*
自分の意思では動かない身体が一人でに痙攣する。その痙攣が止まって少しすると弱くなっていた五感が一気に帰ってきた。
『暖かい』
あいも変わらずその言葉は肺の中だ。それでも暖かい。
そんな暖かさの中に懐かしい……とても好きな何かを感じながらわたしは彼に身を任せた__




