念願の時
「で、あの錬金はどうなったんだい?」
客の少ない時間で暇らしいアデルと雑談を交わしていると話は智野の事になった。
「数日後かな、最良の状態でやるために仕事も減らして貰って今は調整中」
「来たる本番にはこのアデル・セルピエンテも立ち会おう! 素材の面では完璧にサポートさせて貰おう!」
いつもの謎ポーズで立ち上がったアデルの足に蹴りが入る。
「おやじうるさい」
「ああナディ、起こしてしまったね」
アデルとナディの関係は良好らしい。アデルがここまで家庭的だったというのは相当意外だった。
「あ、出たなタカアニキ!」
「え?」
俺を見つけたナディが蹴ってくる。
前言撤回。ちゃんと躾しろよこのやろう。
まあ、それはいいとして……
「この服男物じゃないか?」
センスがアデル的なのはともかく古そうだしダボダボだ。流石に監獄の時よりはマシだけども。
そんなナディを見たアデルは苦笑いを浮かべる。
「何着か買ってはいたんだけどね……昨日の雨で全滅さ」
「それは少ないんじゃないか?」
「うん、全くその通りなんだよ。でも僕はこういう年頃の子の服というのがわからなくてね」
なるほど、わからなくもない。
「で、タカに頼みが……」
「俺もわからんぞ」
アデルが少しムッとする。
「わかってるよ。頼みたいのはコカナシちゃんの方」
ああ、なるほど……
白米という大きな借りもある。仕方ない、俺はため息をつく。
「……わかった。頼んでみる」
*
「コカナシ、頼みがあるんだけど」
「なんですか、一応聞きますけど……」
うわ、嫌そうな顔。
「玄米を保管したいから倉庫を少し開けて欲しい……です」
「…………」
「…………」
「……いや、ちょっと待って! 代わりに良い話がある!」
だから背を向けないでくれ! そんな思いはなんとか伝わった。
「なんですか?」
「ナディちゃんの服を選ぶというイベントなんだけど……」
少しの沈黙。ダメか……
「……へえ? そんな事があるんですか」
いつもと違う声色だ。恐る恐る表情を伺う。
「まあ? どうしてもと言うのなら? やってあげても良いですけど?」
嬉しそうだ! 嬉しさが隠しきれてない!
「じゃあ頼むな」
「いいですよ。特別に!」
これで交渉は成立。白飯が食えるぞ!
*
翌日。先生に呼ばれて自室を出る。
「どうしたんですか?」
「少し座れ」
椅子に座らされて見つめられる。
「あの、先生?」
「黙ってろ」
そのまま固まる事数分。先生がようやく俺から目を離す。
「問題なさそうだな」
「何が……」
「おまえの体調を見ていただけだ。生命力も淀みなく体力も十分だな」
先生はまた俺に視線を向ける。
「明後日の昼、錬金術を行う。内容は言わなくてもわかるな」
短くも重いその言葉を受け止め、噛み締めて俺は口を開く。
「わかりました。必ず成功させてみせます」




