ズィンク・ディフィシェンシー・ウルフ
「亜鉛……欠乏症?」
団長が首を傾げる。
「はい、名の通り単純に亜鉛が足りていない病気です」
人もなる可能性のある病気だが、犬の方が亜鉛を多く必要とする為になりやすい。亜鉛は細胞をつくるのに必要な栄養素で、恐らくは成長の時にも使われる。
ここまで異常な急成長をしたならば足りなくなるのは普通の事なのだ。
治療方法は簡単。亜鉛を摂取すればいい。
「亜鉛製剤はありますか?」
手分けして聞き回ると亜鉛欠乏症にかかっている人がいて、その人から分けてもらう事に成功した。
あとはこれを投与すれば……
「タカ、キミア様が呼んでいます」
「今忙しいって言っといてくれ」
「その忙しい事に関係してくるかと」
「……わかった」
コカナシに連れられて先生の元へ行く。
「何寝転がってるんですか」
「どれだけ錬金したと思ってるんだ、立つのも怠い」
「はあ……で、どうしました?」
「お前、白狼に何をしようとしている?」
「あいつは亜鉛欠乏症です。亜鉛製剤は見つかったので投与しようと思っています」
先生は寝転ぶ向きを変えて白狼を見て呟く。
「ああ、なるほど……しかしダメだな」
「え? 違う病気ですか?」
「いや、獣医じゃないから明確ではないがアレは亜鉛欠乏症だろう」
「じゃあ……」
どんな問題が? その言葉は言わずとも伝わった。
「投与しても間に合わない。亜鉛が吸収されるまでアイツは持たないだろう」
「……もし亜鉛が間に合ったらどうですか?」
「亜鉛不足による自己治癒能力の減少が無くなれば一命を取り留める可能性はあるだろうな。しかし間に合わない」
「直接処方なら出来ると思います」
先生の眉がピクリと動く
「ボル様か……しかし白狼との繋がり、コネクトが必要だろう? アレは多少だが体力を消費する。今の白狼はそれすらも致命傷だろう」
「コネクトはもう終わっています」
「ほう……」
先生は少し考えた後、ニヤリと笑う。
「なら、好きにやってみろ」
*
「準備完了です」
「ありがとうコカナシ」
直接処方の準備は整った。
「いつの間にコネクトしたのですか?」
「勝手にコネクトされていた、と言うのが正しいかな」
言いながらバングルを取り出す。
欠けた錬金石は白狼が齧っていったもの。ならばこの錬金石の欠片は今も白狼の体内に残っている。
今から反応させる石の一部が体内にあるのならコネクトとして使える。
バングルの錬金石に体力を込める。反応した錬金石が白狼のそれと呼応を始めた。これで直接処方が出来る。
今回は亜鉛を体内に吸収させるだけなので簡単だ。
後はいつものように……指輪の錬金石が光る。
「……錬金、はじめます!」
*
白狼とのコネクトに体力を流していく。これで裏の繋がりであるコネクトが表にあらわれ、感覚が共有されていく。
身体中が熱く痛い。傷が治らず炎症を起こしているのだろう。
伝わる感覚は僅かだから無視出来るが……
「こうなったら誰でも暴れるよな」
完全に繋がったところで分解した亜鉛製剤を投与していく。
少しずつ、少しずつ……
亜鉛が行き渡ったのを確認してからコネクトから体力を抜いていき、また裏の繋がりへと戻す。
普通は数日経てば体内に吸収した錬金石が排出されてコネクトは無くなるが……今回は相当大きな欠片だから年単位でコネクトが残るかもしれない。
まあ、特に意味はない。コネクトは裏の繋がりだから普通に生活していれば気づく事もない。
「よし……処方完了」
錬金石の反応を消し、息を吐くと同時に五感が錬金から引き戻された。
「成功……ですね」
「後はこいつが持つか、だな」
コカナシから水を貰って一気に飲み干すと一気に疲れが押し寄せてきた。
「お疲れ様です。休んでください」
「ああ……すまん」
俺は疲れからくる睡魔を受け入れ、ゆっくりと目を閉じた。




