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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
勝利の大味は大犬も喰わぬ
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ラーザ・ザン・ドッグ

 銃を構えたままポシェットからストックボックスを二つ取り出す。

 一つは錬金溶液、もう一つにはアデルがいつも使っている炎が入っている。

「開け__」

 炎を錬金溶液に入れる時に違和感を覚えた。

 周りの全てが遅く見える。俺の思考速度が速くなったのか、それとも……今はそれどころじゃない。

「始めなきゃ」

 失敗が許される時間はない。間違えないように口に出しながら手を動かす。

「炎を分解。熱を抽出、銃の空気に合成」

 空気銃式のモノだからこれで発射速度と距離が上昇するはずだ。

「バングルの金属を分解、発射口を補強。体力で麻酔薬を強化……!」

 ストックボックスを閉じ、錬金を止めると時間が戻る。

「__届けぇ!!」

 発射された麻酔薬はグリムさんを追い越し真っ直ぐ白狼に向かっていく。それを見届けた麻酔銃は最後に悲鳴を上げて大破した。


 *


 体力を込めた麻酔薬によって白狼が怯む。その数秒を使ってグリムさんが白狼の前に立つ。

 持っていた剣を捨て、折りたたみ式の槍を展開する。

「もう止まって!」

 槍を突き刺された白狼が吠えると同時にグリムさんが下がる。

 近くにいた数人が白狼に反撃の隙を与えないように追撃する。

「助太刀はさせねぇ!」

「王手だ!」

 白狼を助太刀にきたパブロフを切り捨てながら棋王と団長が戦い加わる。

 このままさっきのように跳ばれなければ勝利は確実だ。

「グリム!」

 後ろの方からドーワさんが大鎚を投擲した。

 それを見たグリムさんが俺を踏み台にして跳躍する。その先にはさっきの大鎚。

 大鎚に引っ張られて宙を舞い、大鎚の着地点を白狼に向けて補正していき……

「これで……終わりよ!」


 *


 地鳴りが響き、白狼の頭が地面に叩きつけられる。

「総員、かかれ!」

 団長の一声により数分のうちに白狼はガリヴァーの如く地面に拘束された状態となった。

 その光景を目の当たりにしたパブロフは一目散に逃げていき、残ったパブロフもすぐに討伐された。

「白狼は戦闘不能状態に追い込んだ。これこの時を持って、白狼討伐戦の終了を宣言する!」

 棋王の宣言に皆が歓喜する。喜びの声が上がる中、ふと横を見るとグリムさんが青白い顔をして口を押さえていた。

「グリムさん?」

「……っ」

 突然座り込む。呼吸が少し荒い。

 外傷は浅いものばかり、見た感じ感染症の類は無さそうだ。

「あの、吐き気とか症状は」

「大丈夫……最悪なのを味わっただけ」

 グリムさんはそう言って白狼の方を見る。

 団長が大剣を上げ、白狼と向き合っている。

「白狼よ、すまないがここで絶えてくれ」

 それが振り下ろされようとした時、横から叫び声が響く。

「待って!」

 大剣を上げたまま団長はこちらを見る。

「グリム……どうした」

「私が勝敗を味わえる事はご存知ですよね。もし……もしそれを虚言だと思わないならその剣を振り下ろすのを待って欲しい!」

「……ワケがあるのなら聞こう」

 振り下ろされた剣は未だ鞘に収まらない。

 グリムさんが立ち上がる。この状態の彼女を一人で歩かせたら先生に叱られてしまう。


「……どんな味を感じた」

「最悪の大味。大味を通り越して失敗作、最高の素材を台無しにしているわ」

「それはどういう意味を持つんだ?」

「互角の相手にハンデを貰った感じ」

 ハンデ? この白狼がハンデを背負っていたのか?

「そもそもこの犬種はこんなに大きくならないし基本的に温厚な筈なの」

「大きくなったのは突然変異によるモノだ、事前に毛などから解析してある。凶暴性もそれによるモノじゃないのか?」

 団長は水を飲んでから続ける。

「原因があったとしても害獣は害獣だ。この突然変異には研究価値が大いにあるが、人に危害を加えるのならば対処しなければいけない」

「危害を加えなければ問題無いって事ですか?」

 その言葉は自然と口から出ていた。もちろん声が聞こえたわけじゃないが白狼が助けを求めているように思えてしまったのだ。それは恐らく俺と白狼が繋がって……

「とりあえず白狼をもう一度観察させて欲しいの」

 思考はグリムさんの言葉で切られる。団長は少し考えた後、道を開けた。

「ありがとうございます」

「俺も行きます」

 グリムさんと共に白狼の前に立つ。


 触ると怪我をしそうなくらいバサバサな白まじりの毛、ルビーのような深紅の目が覗いている箇所は毛が少ないようだ。岩のように固く赤い何かを一部に纏い、肉球もまた同じくらいに硬い。

「まさに白狼……」

 いや、見直すならここからだ。

「……こいつの犬種は元々白まじりなんですか?」

 パブロフには白い毛は混じっていなかった筈だ。

「彼らのボス、パブロフ・ヘッフェは群で一番大きいパブロフだから他と同じ筈よ」

「こいつも元はパブロフなのか……」

 白狼を見つめる。こいつは白狼ではなく大きな犬……

「……そうか」

 スケールが大きすぎて今まで気づかなかった。 この大犬の状態を適切に表すには今までのでは言葉が違いすぎた。


 バサバサな毛は所々色素が抜けている。鋭い目は白いところがない程に充血しており、周りの毛が少ないようだ。治りきらなかった怪我が赤くて硬いかさぶたとなり、肉球も同じくらいに……異様に硬い。


 そんな症状が現れる病気を俺は知っていた。この大きさが突然変異で異常な成長ならば尚更だ。

 この大犬は、こいつの病名は……


「亜鉛欠乏症だ」

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