パルフェ・メア
「おや、これはちょうど良い所に」
作戦室は町役場の一室らしい。そこに向かっている途中、棋王が誰かに声をかけた。
「あ、ジョバン棋王。どうかしました?」
そう言って首を傾げたのは一人の少女。どこかパティシエを思わせるデザインの服装に大きな団子のような髪飾りが特徴的だ。
「こちら医療班の代理となっていただく方々となります。先ほど到着したらしい班長と合わせようと思っていましてな」
そこまで言って棋王は俺たちの方を向く。
「彼女はグリム。少々幼くはあるがこの町の立派な町長である」
グリムと呼ばれた少女は得意げな表情だ。
「私一人でやっているわけでは無いけどね。今回の白狼討伐作戦では副隊長を任されているわ」
「グリムって……もしかしてグリム・カールさんですか?」
「うん、そうよ」
「やっぱり!」
なんだかコカナシの目が輝いている。
「なに? 有名人なの?」
「知らないんですか! クープ・デュ・モンド・パティスリー代表、独創的で繊細な……言葉では表せきれない作品を作る人なのですよ!」
いや、普通に知らん。あまりそういう番組は見ないからなぁ……
「グリム・カールと言ったら剣術じゃないのか?」
「剣術、ですか?」
同名の人がいるのかな?
「どちらも私よ」
「彼女は文武両道、あらゆる事に長けているからな。色々な所で名前は聞くだろうさ」
団長の言葉に棋王が頷く。
「彼女は王将の称号も持っている。将棋界でも有名なのだ」
とにかく凄い人らしい。何処の世界にもこんな人がいるものなのだなぁ……
「私の話はこれくらいにして、と。臨時の医療班長は奥の部屋にいるわよ。私はドーワの所に行くわ」
グリムさんはひらひらと手を振って入り口の方に歩いて行った。
「では、作戦室に入ろうか」
*
「げっ……」
作戦室にいる人を見た瞬間、先生が変な声をあげて回れ右をした。
「何かしらその挨拶? こっちへ来なさいキミア」
瞬時に先生の服を掴んだのはキリーさんだ。
「お久しぶりです。資格試験以来ですね」
「コカナシちゃんにタカヤ君じゃない。班に入る錬金薬学師というのはタカヤ君の事でいいの?」
「おう、知り合いだったなら尚更良し。知り合いなら紹介もいらんだろう。キオウ、打ち合わせの続きをするぞ」
「まあ、その方が効率的でしょうな」
団長と棋王が部屋を出て……
「キミア、ちょっと待ちなさい」
……先生が止められた。
*
「先生みたいに前線で治療するなら最適だも思うんですけど……俺みたいに後衛だと錬金薬学はあまり意味が無いんじゃないですか?」
打ち合わせを兼ねた食事の場で聞くとキリーさんはさも当然といった顔をしていた。
「まあ、基本的に活躍の場は無いわね。異常がなければ」
「じゃあ俺は何を……」
「貴重な男手だし、わかるわよね?」
「……なるほど」
荷物運び、なのだろうな。




