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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
勝利の大味は大犬も喰わぬ
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おかしなネットワーク

 才能に名を授かってから数日が過ぎた。

 ボル様とケイタ様による指導でなんとか直接処方を習得できた……と、思う。

 今日はその最終試験である。

「今日はこの子に栄養剤を与えてやってほしい」

「この猫は……」

 ボル様が連れてきた子猫は毛並みもボサボサでかなり弱っているようだった。

「捨て子だ。少し先の街で発見され、昨日ネッコワークによって連れてこられた子だ」

「ネッコワークは猫のネットワークだ」

 ケイタ様の補足はもうどうでもいい。つまりこの猫は……

「本当の患者ってことですか」

「うむ、命に別状はないが栄養がないよ思わぬ病気にかかるやもしれん」

 今までの練習ではすでに力尽きた動物などが中心だった。いきなりこんな、他の人から見れば猫だがボル様からすれば……

「何を迷っておる。そんな覚悟でお前は救おうとしているのか」

「わかりました……コネクトはどうしますか?」

「すでに終えてある」

 コネクトというのは術者と患者を錬金術的に繋げる事である。基本的には錬金石を患者の身体に入れ、術者の錬金石を反応させる方法になる。

 身体に入れると言っても石を飲んだりする必要は無い。粉末状にしたモノを飲んだりするだけでよい。

 錬金石を飲むことで体調に変化がある事は基本的にない。そもそもいつも使っている溶解液にもその粉末が入っていて、それを錬金石に反応させているのだ。

 ともかくコネクトが終わっているのなら問題ない。いつも通りに、いつものように……

「錬金、はじめます」


 *


「赤子泣けども蓋取るな……」

 弱くなっていた五感が戻ってきた。子猫の息は安定している。

「うむ、及第点……合格としておこうか」

「ありがとうございます」

「体力を使っただろうから少し休むと良い。今宵は少しばかり豪華な夕食を用意するからまた迎えをよこそう」

 ボル様が猫の鳴き声を上げると数匹の猫が入って来て子猫を運んで行った。残った一匹が俺の方をじっと見てくる。

「ついて行けば部屋に案内してくれる」

 俺が立ち上がると猫が一鳴きして部屋を出た。

「なるほど……これが」

 これがキャットワークか!


 *


「キミア達の送り出し、そして悩まされていた犬の討伐を祝して祝杯をあげよう!」

「はい、かんぱーい」

 めんどくさそうなケイタ様の合図で宴は始まった。

「フィジーさん、犬の方は簡単でしたか?」

「おうともさ、害獣対策課を舐めないでもらおうか!」

「なんでこんな田舎町の穀物被害ぐらいで国直属のお前が来たんだ? 普通なら違う所を派遣しているだろう?」

 先生に聞かれたフィジーさんは大きな肉を飲み込んで骨を缶に投げ入れた。

「ま、他の仕事の調査も兼ねているからね。ほら、最近線路が破壊されてるじゃん?」

「あれが害獣のせいだっていうのか? そんな馬鹿な、粉々のされていると聞いたぞ」

「そんなバカな話があるのよ。ここに来た犬はその群れからはぐれた子分だと推測しているわ」

「なら線路を壊した親玉も犬なのですか」

「まあ犬。かな」

 なんだか歯切れが悪いな。

「犬と認めたくないくらいでかすぎるんだよね。皆は白狼って呼んでる」

「そんなにですか?」

「うん、団長が来るくらいには大変な事態らしいよ」

「へえ……来る? もう場所が決まっているのか」

「次に白狼がくるのは『ハンス・グレーテ』の近くって言われてる。これからあたしも行くんだ」

「確か甘味と戦いの国、ですね」

 ……戦い?

「コロッセオとか?」

「コロッセオが何かは分かりませんが戦いというのは様々です。将棋とか剣術とか……多目的の競技場があるのです。お菓子も絶品ですよ」

「行くか」

 唐突に先生が口を開いた。

「そいつがもし予想通りに動かなかったら遭遇するかもしれないし、ハンスにいれば問題ないだろう」

「そういえばお茶菓子の備蓄が切れそうでしたね。ここからなら取り寄せるより直接行った方が安く済みますし」

 話が嚙み合っていない……おそらくコカナシの方が真相だ。

「ま、ともかく帰りに寄り道だ」 


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