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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
勝利の大味は大犬も喰わぬ
73/200

略式・命名

 光が弱くなり目が慣れてきた。しかし見えるのはボル様とケイタ様、そして周りに置かれた素材だけだ。

「これが……錬金術」

 幽霊監獄での疑似錬金では五感が弱くなっていただけだったが今回は違う。まるでここだけ世界から切り離されたような感じだ。

 そんな光の中ボル様が口を開く

「それは錬金の中で授けられし汝の才能

 それは成功に導く錬金の才能

 それは生命の根源を除く妖精の才能」

 続けて口を開くのはケイタ様。

「それは正しく使うべきもの

 それは意識的に使うべきもの

 無限なる行き先、我らがその一つを指し示そう」

 錬金石が見えないほど発光し、その光が俺の身体を包み込む。

「汝の才能、その名は『妖精的鑑定眼』である」


 *


「あたしが名付けるなら『命ある限りその目に映る』かな……あ、終わったみたい」

 切り離されていた世界と繋がってからの第一声はフィジーさんのモノだった。

「黒猫さん、仕事の報告をしたいのだけれど」

「うむ。ここでするが良い」

 二人が仕事の話をし始めたのを見ているとコカナシが顔を覗き込んできた。

「なにか変化はありましたか?」

「いや……特には」

「そんなものだ。お守りくらいだと思っておけ、本当に目覚めさせるのはお前自身だ」

 コカナシと違い先生はある程度分かっているらしい。

「先生も受けた事が?」

「ああ、洗礼名を授かった」

 そういえば先生の名前には「G」のアルファベットが挟まっていた。

「ここの人、洗礼名を授かった人と血が繋がっている……例えば子供は生まれた時に同じ洗礼名を受け取る、でしたよね?」

「まあ他にもあるが、そんなところだ。洗礼名があるならイスカンデレイア出身者と思って問題はないだろう」

 ならばアルスにも洗礼名があるのだろう。そこらへんは口に出さない方がよさそうではあるが。

「ボル様、他にはありますか?」

「いや、ない。一応様子を見るからタカは明日も来るが良い」

「わかりました」

 帰路につきながら何気なく錬金石の指輪を見つめる。

 ほんの少しだがまた前に進めた気がする。恐らく明日から帰るまでの数日、直接処方の稽古が始まるのだろう。

 この世界にきて中々の時間が過ぎたが……なんとなくこの手の先に、小さく目標が見えた気がする。

「……頑張らなければ、な」

 俺は小さく呟いて錬金石を撫でた。



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