運命の錬金術
翌日の昼。早めの昼食後に昼寝をするという個人的最高コンディションでボル様の前に立つ。
「錬金をしてみろ」
「……はい?」
いきなり目の前に幾つかの素材が出される。
「作るのは簡単な鎮痛剤。使う素材は自分で選べ」
「え、いや。いつも素材はコカナシが」
「いいから、やってみい」
コカナシの方を見たが知らんぷりされた。どうもやるしかなさそうだ。俺はいつものように簡易錬金セットを取り出す。
*
「うむ、こんなところか」
ボル様の指示に従い数回錬金を重ねた。どれも初歩的な錬金で問題は無かった筈だ。
「タカヤ、お前はなぜ傷薬の時あのマンドレイクを選んだ?」
「え、いや……なんとなく、です」
コカナシならそのマンドレイクの特徴から錬金術的効能が答えられたのだろうが……俺には無理だ。
「ならホーリーバジルは?」
「それも……なんとなく」
「他も全てそうか?」
「……はい」
ボル様はしばらく考えこんだ後、ヒゲを撫でてケイタ様の方を見る。
「聞いていたとおり、お前の才能はキミアの目に似ているな」
「先生の……エルフの目ですか?」
「うむ、お前はその錬金に必要な素材を的確に選んでいる。無意識なのが問題だが……才能が身体に馴染めば意識的に、それこそエルフの目のように使えるだろう」
エルフの目は生命力や体力を見ることが出来る。実際目には見えてはいないが才能はそれを見ていて必要なものを選定しているのだろう。
無意識なら才能が発揮されない時があってもわからない。それは薬学師として問題だろう。
「才能を身体に馴染ませるにはどうすればいいですか?」
「お前の才能なら錬金をしていれば少しづつ馴染むだろう。今まで通りにしておけ」
「少しづつ、ですか」
できればトモノの治療までに会得しておきたいのだが……
「特別に少し後押ししてやるか。準備をするぞ、ケイタ」
そう言ったボル様はふわりと浮いて棚の方に向かう。
「後押し……?」
「お二人が神と呼ばれる理由となった才能、運命の錬金術です」
運命を錬金? なんだかとてつもない才能の気がする。
……まて、今おかしかったぞ。
ボル様……浮いてなかったか?
*
「ああ、儂とケイタは死んだ後この世界に来たからな。生命力はとうに失っているが才能でカバーしている」
「生命力がないなら錬金もできないんじゃ……」
「うむ、故にできるのは運命の錬金術だけとなる」
「で、その運命の錬金術っていうのは……?」
「その名の通り、ですよ」
隣にいたコカナシが説明を買って出た。
「錬金術の過程『分解』『強化』『合成』のうち強化過程で普通では考えられない程の強化を付与できる錬金術。人に使えばその人の運命を変えられるほどの力を持ちます」
「それってほぼ万能じゃないか」
「ただ運命を変えるほどになるとお二方もただでは済まないはずです」
「だから力を抑えて少しの強化、名前を付けることで方向性を決めた強化にする。それを今からするのだ」
先に準備を終わらせたらしいケイタ様がコカナシの話を引き継いだ。直接処方の説明の時は片言で子供らしかったが普通に話すときは威厳があるらしい。
身体は子供、頭脳は大人みたいなかんじだろうか?
「よし、準備は整った」
ボル様も準備が終わったらしい。先生とコカナシが後ろに下がって俺が前に出される。
ケイタ様が座ってその膝の上にボル様が乗る。
「では運命の錬金術『略式・命名』を開始する」
ケイタ様の錬金石に反応して部屋全体が光を放つ。
「御内隆也がもつその才能に名前を授けよう!」




