昼またぎの心理戦
翌日の昼前、既に混み合っている商店通りでコカナシと会うことになっていた。
「あれ? セルロースさんも?」
待ち合わせ場所にはコカナシとセルロースさんがいた。
「私を丸め込もうたってそうはいきません。寧ろこちらがタカを取り込むくらいの気持ちでいかなければ」
「和解という手は?」
「私は何もしていません。キミア様が謝るまで私は帰りませんよ」
この話は終わりとばかりにコカナシは顔を背けた。
「で、肝心のキミアは何してるの?」
「昨日酔い潰れた末に間違えて睡眠薬を飲んでぐっすりです」
「え! だいじょ……なんでもありません!」
途中で怒りを取り戻したコカナシに代わってセルロースさんが口を開く。
「それって大丈夫なの?」
「シャーリィさんに聞いて見ましたけど問題無いそうです」
朝先生の状態を確認してから一応聞いておいた。シャーリィさんによれば今日中には目を覚ますだろうとの事だ。
「タカくん昼食べた?」
「いえ、まだです」
「じゃあとりあえず昼飯にしよっか。コカナシちゃんもそれでいい?」
コカナシが頷いたのを見てセルロースさんが歩き出す。コカナシが何も言わずその後に着いて行った。
*
先生に対するコカナシは俺たちに対するコカナシとは結構違う。
先生と話すコカナシは何というか……子供っぽいのだ。ローラさんと話していた時は自分でそれを『違う自分を演じている』と表現していた。
今までコカナシの態度が変わるのは主に先生だけだと思っていたのだが、今回の件で気づいた事がある。
セルロースさんに対するコカナシもまた違うという事だ。
あまりに構ってくるから鬱陶しいと思っている。なるべく近づかない。そんな扱いだと思っていたがどうやら違う。
コカナシとセルロースさんは姉妹のようなのだ。
セルロースさんと話しているコカナシは先生の時と同じく少し幼く見える。でも先生の時とは違って自然な、演じていない印象を受けた。
いつも嫌がっているアレだってもしかしたら照れ隠しだったりするかもしれない。
ここまで考えて心の中でかぶりを振る。
まだ出会って一年も経っていないのにわかったようになってはいけない。
だって俺は……
「絶対私から歩み寄りません」
今コカナシを説得する事さえ出来ないのだから。
どうにも出来そうに無くてセルロースに視線を向ける。
「完全にコカナシちゃん寄りだから。今回はキミアが悪い」
頼みの綱に離された。これは分が悪すぎる。
俺は降参とばかりに手をあげる。
「どっちの話も聞いたけど……俺にはどっちも責められない」
「中立、ですか」
「まあそんな感じ。直接話しにくい事があったら伝言役として使ってくれ」
「敵じゃないならいいです」
少しだけ、ほんの少しだけ機嫌を直したらしいコカナシがフォークを置いて口を拭く。
「で、タカくんはどうする?」
「……なにがですか?」
「あたし達これから買い物に行くけど」
商店通りに用事は無いが……コカナシを外に出すのは心配だ。
セルロースさんにフワッと話して協力を得るのは……ダメだ、先生の肩を持った俺の策略だと思われたらややこしくなる。
現状俺に出来そうなのは着いて行く事くらいか。
「行きます。あまり見てないし」
「よし、荷物持ち確保ー!」
セルロースさんとコカナシがハイタッチ。
「…………」
はめられた!!




