半分の火花が散って
「あ、コカナシちょうどよぶふっ!」
「キミア様のばかー!!」
ちょうど宿から出てきたコカナシに紙を渡そうとしたら思いっきり押し退けられた。
壁に叩きつけられた俺は咄嗟に顔を触る。
目、ある。鼻、ある。口、ある。
よし、大丈夫そうだ……じゃなくて
「コカナシ……」
いねぇ!? 力だけじゃなくて脚力まで高いのかあいつは! しかもちゃっかり紙は受けとられているときた。なんだあいつ。
コカナシに追いつくのは無理そうだ。どの方面に行ったかすらわからない。
仕方なく俺は宿に入る。中に居るのはもちろん先生。
「おう、タカか」
うわぁ、すっごい不機嫌。
「いまコカナシが逃げるように出て行きましたけど?」
「……珈琲を用意しろ」
「わかりましたー」
*
「なるほど……」
珈琲を飲みながら先生から話を聞いた。
不機嫌な先生による寄り道しまくりの部分を取り除いて纏めると……
先生が宿の飯を食べてふと「外の料理もいいもんだな」的な事を言ったのがきっかけらしい。
たまたま虫の居所が悪かったコカナシがそれを聞いて「私の料理では満足してませんでしたか」と反応。
そこで軽く宥めてやれば収まっただろうに先生はその言葉が気に入らず……口論になった。
ふむ……なるほど……
「痴話喧嘩じゃねぇか!」
「いきなり大声を出すな」
「なんすかそのしょうもない理由! しかも旅行先で!」
その後散々ツッコミを入れてようやく俺は落ち着いた。
「で、追いかけないんですか?」
「あいつの方が足が速いからな、追いつけん」
「いや、それでもこういう時は探しにいった方が」
「知らん」
「あー……ほら、アルカロイドならまだしもここじゃあコカナシも行き場が無くて寂しがってますって」
「セルロースがいるだろう」
まあ、確かにいるが……
「コカナシ自らセルロースさんの所に行くとは思えませんが」
「どういう事だ?」
「だってセルロースさんの事苦手そうじゃないですか」
「は?」
数秒の沈黙の後、先生が口を開く。
「あいつとセルロースは仲いいぞ?」
「……え? そうなんですか?」
「そもそもあいつの心を開いたのはセルロースだ。嫌いなはずがあるか」
嫌よ嫌よも好きのうちって事か。知らなかった。
「だからあいつはセルロースの所に行っている。だから心配ないだろう?」
そう言い放った先生は俺に背を向ける形でソファに寝転がった。俗にいうふて寝である。
「まったく……」
ため息をついて椅子に座る。本人が動かないというのなら俺も動くまい。
それに……これに首をツッコむのは少々面倒だと感じてしまったのだ。




