シャバ
「……ん」
目を開ける。頭が痛い、体が怠い。体力が尽きるとこうなるのか……
立つのも怠くて寝返りをうつとナディが視界に入った。
「……あ」
その顔の上には白い毛布が……まさか……俺は……
「経過は順調ですよ。今回は投薬なので錬金術と言えどまだ数日はかかりますけど」
いつの間にかいたコカナシが俺を起こしながらナディの方を見る。
「でも……布が……」
顔に白い布、それが意味するのは……
「アカサギさんの匂いがするから落ち着くらしいですよ」
「ああ……そう……」
良かった……てかこの世界にはそういう習慣はないのだろうか。
何はともあれ成功したのなら良かった。
「俺はどれくらい寝ていたんだ?」
「四日くらいですかね」
「じゃあ先生の方は?」
「もちろん成功しました。今は奥で寝ています」
「そうか……痛っ!」
いきなり注射をされた。
「キミア様が作ったワクチン的なモノです。体力の回復を待ってからの方がよかったのですがいつまで持つかわかりませんので」
ん? もしかしてこの頭痛は体力とかの問題じゃなかったのかもしれない。
「はい、とりあえず寝といてください」
コカナシに押されてまた横になる。自分で起き上がるような気力は無いし……
「わかった、寝る」
俺はゆっくりと目を閉じた。
*
「さて、次はどう進みましょうか」
「まて、コカナシちゃんが先導を切るのは確実にダメだろう」
数日後、俺と先生がある程度回復したところで俺たちは監獄を出た。
「どこいくのー?」
もちろんナディも一緒である。ナディの身寄りについてはアデルがどうにかしてくれるらしい。
「理想は『カップ』に行くことだな。あそこなら交通の便がたつ」
「カップ……たぶんあっちだよー」
「……え?」
ナディは迷いなく一方向を指した。
「ナディちゃん、知っているの?」
「うん、かんしゅさんがそこから来たって前にきいた」
「なるほど……どうする、キミア?」
「特にアテもないしな、そうしよう」
先生がそう言ってナディの指した方向に歩き出す。
皆がそれについていく中、俺はふと後ろを見る。
先生によって壊された壁に守られた監獄。其処に囚われていた幽霊はもういない。
成仏だとか天国だとか、そういうものがあるのかは分からない。そもそもこの世界の作法はまったく知らない。
だから俺は俺が知っている方法で……
「どうか、安らかに眠りたまえ……」
「タカ? 行きますよー」
閉じていた目を開けて合掌をやめる。
「おう、今行く!」
俺も監獄に背を向けて皆についていく。
今祈るのは彼の安眠、そして……今度こそ迷わないこと、である。




