アガリ
「命を糧とする……か」
先生に錬金術と錬金薬学の違いを説明されたアカサギは呟いた後しばらく考え、また口を開いた。
「ここにいる大量のネズミの命を使うことはできないのか?」
「理論的には可能だが余計な物のない、純粋な生命力が必要だ」
錬金石の役割の一つはそれにある。錬金者の生命力や体力のみを取り出して錬金に込めてくれるのだ。
「純粋な生命力。それがあれば可能なんだな?」
「可能だが……今の錬金学では成功例がない」
遠まわしの不可能宣言にアカサギの顔つきが変わる。何かを決意したような……それでいてどこか諦めのある表情。
その諦めの決意がアカサギの口から発せられる。
「なら……俺を素材にすれば可能か?」
「……え」
思わず声が出る。先生は声を出すことなくしばらく考え、結論を出す。
「可能だ」
「なら、その方向で進めてもらうことはできるか?」
先生はまた少し考える。
「まあ、その方法ならギリギリ錬金薬学の範疇と捉える事も……できなくはない、か」
呟いた後先生はアカサギをまっすぐと見る。
「そんなことをしたらお前は完全に消えることになるぞ」
「問題ない。元々監獄に囚われた地縛霊、孤独に消滅を待つよりはいいだろうさ」
「そうか……」
先生はアカサギに背を向け、俺の肩を掴む。
「そういう事だ。やってやれ」
「…………」
先生の顔を見る。どうやら冗談ではなさそうだ。つまり……
「俺がその錬金を……?」
「もちろんだ。ワタシは抗体の錬金をしなければならないからな」
「いや、でもほぼ錬金術のモノはまだ俺には……」
「じゃあお前が三日三晩寝ずに錬金をするか?」
「それは……」
確実に不可能だ。
「ワタシが出来ない。ならお前しかいないだろう?」
「まあ、そうですけど……」
「今のお前なら問題ないはずだ……自信をもて」
先生にしては珍しい言葉に揺らいでいた決意が固まりはじめる。
「……やってもらえないか?」
今までどこか軽かったアカサギの言葉に重みを感じる。
どうあがいてもできるのは俺しかいない。ならば……無理やりにでも決意を固めるしかないのだろう。
「わかりました。やってみます」
*
幸いにも朽ちた研究室に必要な素材は揃っていた。コカナシとアデルが素材を吟味し、今ある中で最高の状態が整った。
「錬金の仕方は伝えた通りだ。いつもより引き込む力が強いだろうから入り込みすぎないように気をつけろ」
先生はそのあとに細かい指示をだし、素材を確認した後俺たちに背を向けた。
「……先生?」
「ワタシは明日に備えて寝る。サポートはコカナシに頼んだ」
「ちょ、キミア、それは……」
「いや、いい」
アデルの言葉を止めた俺を見て先生は部屋に入って行った。
「確かにキミアも大変だけどタカが遠慮する必要はないと思うよ」
「遠慮とかしてないから大丈夫」
「よかったですね、タカ」
アデルは疑問符を浮かべているが俺とコカナシには先生の行動の意味が分かっていた。
錬金開始を見ることなくこの場を離れた。
つまり先生は『見ていなくとも大丈夫』と言ってくれたのだ。
これは……やる気を出すしかないだろう。
俺はカバンから取り出した錬金衣装を羽織り、顔を叩いて自分を鼓舞する。
「いいんだな? アカサギ」
「さっさと完璧にやってくれ」
確認は終わった。
俺はいつもの、気持ちを切り替えるための言葉を口にする。
「錬金……はじめます!」




