マンジュウ
「先生! 起きてください!」
アカサギの大声でも目覚めなかった先生を揺らす。
「…………」
無言で起き上がった先生は時計を見た後、俺に視線を向ける。
「……殺すぞ」
「す、すみません……です」
小さく言うと先生は横になった。
「…………」
怖。何今の顔。怖い。
「じゃなくて! 本当に大変なんです!」
「……言ってみろ」
「ナディちゃんが……とりあえず診てください!」
俺の言葉から数秒だけ間を置いて先生はまた起き上がって上着を羽織った。
「なんとも無かったら吹っ飛ばす」
*
「どう……ですか?」
「…………」
先生は言葉を発することなく再度触診をする。
「頭痛、関節痛、筋肉の衰えに震え……発音障害もあるな」
ナディから離れた先生はアカサギの方を見る。
「お前、食わせたな」
「……なんの事だか」
「キミア様?」
問うような呼び掛けに先生がこっちを向く。
「診断結果は……クールー病だ」
先生の言葉にコカナシの顔が青ざめて口をおさえる。
「コカナシちゃん? キミア、どういう事だい?」
「クールー病はカニバリズムによって発症すると言われているモノだ」
「なっ……」
アデルが固まる。アカサギはさっきから誰とも目を合わせようとしない。
「あの、カニバって……?」
「今回は緊急的なで一時的だからカニバリズムというのは正確な表現ではないが……」
先生はナディの方を少しだけ見て小さく口を開く。
「食人。これは人の肉を食べることで起きた症状だ」
ようやく俺にも皆が固まっていた、あの反応の理由が分かった。
「食人って……」
思わず出てしまった言葉にアカサギが口を開く。
「オレの判断だ。ナディは何も知らない」
アカサギの言葉に先生が反応する。
「ワタシたちに食べさせたのは……」
「ネズミだけだ。アレは緊急用、ナディは大きいから豪華なモノとでも思っているようだけどな」
ナディが最初に言っていた大きい肉というのはソレの事だったのだろう。
「ソレに関しては後にしてほしい。ナディは治るのか?」
その言葉に先生は苦虫を噛み潰したような顔をする。
俺はこの顔を見たことがある。
「ワタシは医者だから嘘は言えん……治る可能性がある処置は可能だ」
「ならば……」
「可能性はある。しかしワタシは処方できない」
先生が出した結論は分かっている。俺の時と、智乃の時と同じ。現代の医学では治療不可。しかしある学問なら……
先生はゆっくりと口を開き、予想通りの言葉を発した。
「これは……錬金術でのみ治せる可能性があるモノだ」




