ガサ
「……このやろう、素早いな」
何も考えずに飛び掛かる。そんなので捕まえれるわけがなかった。
「馬鹿かお前ら」
俺たちを見ていたアカサギはため息をついてネズミを指す。その手には小さなナイフ。
「食料は昔からこうやって取るんだよ!」
ダーツのように投げたナイフがネズミの足と地面を繋げた。
「…………」
ありえねぇ! どんな芸当だよ!
いやいや、じゃなくて
「俺たちは数匹生きたまま捕まえなきゃいけないんだけど?」
「それは知らん。オレは食料調達に来ただけだからな」
アカサギはネズミにとどめを刺して袋に入れる。死んでたら触れるようだ。
「なんて言っていたんだい?」
「頑張れってさ」
アデルに返してため息をつく。まったく……面倒だな。
*
「なんだお前ら、ボロボロだな」
「誰の要望のせいだと思ってるんですか」
「で? ネズミは?」
「捕まえましたよ」
あの後なんとかネズミを捕まえることができた……正攻法で、無理やり。
しかし……
「なんかこのネズミ変じゃないですか?」
「はあ?」
俺は先生にネズミを渡す。
「……ほう」
渡したネズミには毛が無い。なにか怪我をしている様子もないし……感染症の影響だろうか?
「この大きさなら生体だろうから……ヌードマウスだな」
「ヌードマウス?」
「野生で生きているから正式にはβヌードマウス。通称はヒトネズミで人間の細胞に近いモノを持っているネズミだな」
「それって治療に使えたり……?」
先生は頷く。
「まあ今回はこいつらの抗体が目的だけどな」
「感染症に対する抗体をネズミから得るってことですか?」
「この環境で生体まで生きれるのなら抗体を持っている可能性はある。それでマールブルグ熱を治療しようと踏んでいる」
どうやらこの感染症はマールブルグ熱というらしい。
「お前たち、今日はもう休んでおけ。ワタシはこのネズミを調べておく」
先生はいつの間にか自室にしたらしい奥の部屋に入って行った。あの部屋には監獄内からかき集めた医療器具が揃っている。
「キミアにしては珍しく親切だな」
「いや、違うぞアデル」
先生は今日は休めと言った。
『今日は』である……
*
「…………」
翌日の朝、ようやく先生が部屋から出てきた。
「……無かった」
「え」
ナディ以外の全員が食事の手を止めた。
「ネズミに抗体は無かった」
「じゃあこの感染症、ネズミはかからないのかい?」
「そういうわけでもないらしい。マールブルグ熱自体は検出された」
先生は一人呟きだした。
「感染源はネズミのはずなんだ。マールブルグ熱の空気感染は無い……」
先生は呟くのをやめ、水を一気に飲み干して俺たちに視線を向けた
「昨日言っていたネズミの巣に入ってみてくれ。アカサギは無理らしいから今日はコカナシと交代だ」
「えー! アネゴもオヤジもいっちゃうのー!」
一人明るいナディが雰囲気を良くした。
俺は行っても問題ないのか……




