アゴ
幽霊を見る? そうは言っても……
「俺には霊感とか無いですよ?」
「そのようだな。因みにワタシにも無い」
「え?」
ならば何故先生には幽霊が見えているのか。その疑問はもちろん先生に伝わっていた。
「そもそも生物の身体というのは『体・生命力・精神』の三つから成り立っているんだ。幽霊とか魂というのは体を失った下二つの事だ」
この話がどう繋がるのかはわからないが……一応黙って聞いてみる。
「生物の核は精神だ。それを守り動かすエネルギーが生命力、更にそれの器が体というわけだ。ここまではわかるか?」
「いや、ちょっと混乱しています」
「生卵で考えろ。核である精神は黄身、生命力は卵黄膜、体は殻だ」
少し頭の中で纏める。……まあ、ある程度は理解できたと思う。
「ともかくワタシは幽霊をみる能力があるのではなく、その生命力を見ているんだ」
「生命力を……ああ!」
エルフの目だ。先生はそれで幽霊が見えるのか。
「あれ?」
それには納得した。でも……
「そこからどう動けば俺にも幽霊が見える話に?」
「それはワタシの完全なる予測なんだがな……確証はない、可能性があるという話だ」
先生にしては珍しい。いつもは「ワタシがルールだ!」くらいに自信を持っているのに。
「その可能性って……」
「お前の才能だ」
「……え?」
「錬金術に関する特殊な才能だ。どんなものかは予測するしかないが、お前にはそれがあるはずだ」
先ほどとは違い自信のある顔だ。
「お前の才能は一定環境下にて発揮されている」
先生がいきなり錬金の準備を始めた。
「錬金石をかざせ。錬金する必要はない」
「え……と」
「才能は錬金している時に発揮されやすい。いつものようにやれ」
言われた通りにビーカーに錬金石をかざす。
いつものように錬金石が光りだす。
「人形の方を見てみろ」
「……え?」
人形の奥に人影が……人が見える。
「今お前の目の前にいるのが幽霊、みえちゃんだ」
「この人が……」
この人がみえちゃん……思ったよりも背が高くガタイが良く……
「おっさんじゃねぇか!」
なにがみえちゃんだ! ダンディなおっさんじゃねぇか!
「オレの声が聞こえるかい?」
「……聞こえますよ」
「美少女じゃなくて残念だったな」
「まったくです」
会話をしていると少し疲れを感じた。錬金石を光らせたままだった。
錬金をはじめなくともこれでは待避電力のように体力が逃げてしまう。
「先生、これ幽霊を見る為には俺の体力が無くなっていくんじゃ……」
「そうだな。その量だとすぐに体力が尽きるだろうな」
「ダメじゃないですか!」
「まあまあ、これを使え」
先生から小指程の大きさの容器を渡された。中にはいつもの液体が入っている。
「この量なら意識せずとも錬金石が勝手に反応する。錬金石の寿命が早まるから普段は許さんが……今回はこれを持っていろ」
ビーカーから手を離してソレを受け取る。錬金石の光は注視しないとわからないほど淡く小さくなった。
「聞こえるかい?」
幽霊の声が聞こえる。顔をあげると姿も見える。どうやら先生の予想は当たっていたようだ。
こうして俺にもみえちゃ……幽霊が見えるようになったのだった。




