謎にもならぬミステリ
「さて、ヴァルクールさんも助かりましたし……解決編と行きましょうか」
咳ばらいをしたコカナシがショウさんを睨みつける。
「なんだね? 僕が毒を盛ったとでもいうのかね?」
「まあ、そう考えるのが普通ですよね。珈琲を入れたのはあなたですから」
ショウさんは首を横に振る。
「僕は一度ボトルに入れなおしてからカップに注いだ。君たちも見ていただろう」
確かにその通りだ。そしてそのカップは俺たちがランダムに取っていたはずだ。
「……はぁ」
コカナシとキリーさんが同時にわざとらしいため息をつく
「よく薬剤師がいる中でそのような事が言えましたね。こんなの短編ミステリの謎の一つにもなりません」
ショウさんに詰め寄っていたコカナシはそこまで言うと勢いよく振り返る。
「さあ、この駄作ミステリを解いてやってください!」
テンション高いなぁ、コカナシ
「準薬学師、タカ!」
「…………え?」
俺? なに、何も考えてなかったぞ。
「……タカ?」
「いや、知らんぞ」
「えっと……ホーテッド草は知っていると言っていましたよね?」
確か高温になると毒素を発生させるもので、その毒素は糖分によって分解……
「あ……」
糖分、そうだ糖分だ。あの珈琲に砂糖を加えなかったのはヴァルクールさんだけ。
「弁解は署で聞きましょうか?」
キリーさんがいつの間にか持っていた縄でショウさんをとらえた。
「……キリーさんは警官なのか?」
「元、らしいです」
「へえ……」
キリーさんに逆らうことなく、規則通りに俺は処分を受ける決意をした。
*
「さて、タカヤ君」
「わかっています」
キリーさんがカバンから取り出した紙を見て頷いた後、俺に笑顔を向ける。
「薬の調合、無事見届けました。薬剤師主任責任者はこのキリー・ツヴァイが請け負ったわ」
「……え?」
「なにとぼけた顔をしているのかしら?」
「え、だって……準薬剤師資格を持っていないからキリーさんがいようと調合は規律に反しているはずじゃ……
」
キリーさんは俺の目をまっすぐと見て口を開く。
「本日正午を持って、タカヤ・オナイは準薬剤師資格を取得したことを知らせていなかったわね」
「……あ」
そういえば発表は今日の正午。そしてさっき聞こえた時報は……正午を告げるものだったのだ。
だからコカナシは俺を信じるなんて言い回しをしていたのか。
「……教えてくれよぉ」
力が抜けて俺は座り込む。
「簡単な錬金ですけど、タカは気を抜くと失敗しますからね」
そう言ったコカナシが俺を無理やり立ち上がらせた。
「おめでとうございます。さあ、皆に報告しに帰りましょう」
*
「タカ、もう発車しますよ!」
「ちょ、荷物が、待ってくれ」
ローラさん達から貰った大量のお土産などを抱えて駆け込み乗車。駅員の白い目は気にしない。
「この乗り換えで最後だっけ?」
「後はバスだけですね」
「三十分くらいで到着なんだな」
「……ん?」
違和感を覚えて後ろを向くといつの間にかヨロズさんがいた。
「……なにしてんすか」
「いや、あの機械の調整をな。キミアにも呼ばれているしな」
「先生に、ですか?」
「お前さん達が出かけるからメンテナンスついでに留守番をたのまれてな。腰も痛むし丁度いいんだな」
コカナシと目を合わせる。
「なんか聞いてる?」
「いえ、出かけるなんて聞いていませんが」
「だよなぁ……」
凄まじく嫌な予感がする。
なんだかもう帰りたくなくなってきた俺の心に反して、電車はアルカロイドへと進んでいったのだった。




