それは時の境目に
「でも今は緊急事態ですよ!」
「確かにそうです。だからあなたを無理やり止めようとはしない」
キリーさんは少しの間目を閉じた後言葉を続ける。
「今回の場合資格のはく奪、それに受験資格も永久に失われることになるわね」
「永久に……」
つまりここで錬金を行えば俺は薬剤師になれないということだ。
「タカ、これがありました!」
素材を持ってきたコカナシが小さな小瓶を机の上に置いた。
「なんだそれ」
「神経毒系の基本解毒薬です」
「それって……作る必要は無いって事か?」
「えっと……まあ、死ぬことはありません」
「ハッキリ言ってくれ、時間もない」
言いよどむコカナシに代わってキリーさんが口を開く。
「別の解毒薬だから副作用……拒否反応まで出ると下半身不随の事例もあるわ」
「それは……」
辛い。治ったとは言えないじゃないか。
「で、どうするのかしら?」
命の保証はされた。絶対に錬金をしなければならないわけでは無いのだ。
「タカ? 何を迷って……あっ」
俺とキリーさんの顔を見てコカナシはある程度察してくれたようだ。
錬金をすれば薬剤師にはなれない。でも、俺の目的はそこにない……ならば
「コカナシ、錬金の用意を進めて」
「できません」
「コカナシ!」
険しい顔のコカナシと向き合う。
「薬剤師になれない、それがどういうことかわかっているのですか」
「俺の最終目標はそれじゃない。智乃を助けるのにそれは必須じゃない」
「経験の差は相当な時間の差を生みます。智乃さんをいつ助けられるかわからなくなります!」
「そんな……」
「こんな選択私もしたくありません、でも今までのタカを見ているから……タカが優先すべきは智乃さんの……」
「そうだ、俺が最優先にしているのは智乃の事だ」
「なら……」
確かにコカナシの言う通り、それが最短の道なのだろう。でも、でも俺は……!
「目の前の人を助けられないようなモノに智乃の命を預けることはできない!」
時計が大きな時報を鳴り響かせた。コカナシはソレを聞いて何か気づいた顔をした後、一歩後ろに下がった。
「わかりました。タカを信じます」
「……ごめん」
コカナシの言葉に少し違和感を覚えたが、そんな暇はない。
教えてもらった手順通りに薬を調合する。今回は最初から錬金する必要はない、まず通常の調合をして最後の結合部分に錬金を使用するのだ。
本来錬金術はあるものと別の物を繋げて変質させる術だ。錬金薬学の主体は効能の活性化にあるが錬金術の結合も利用している。今回はその結合の部分を使うというわけだ。
「はじめます……」
少量の錬金液を薬に混ぜる。今回は分解の必要がないからかき混ぜ棒は普通のモノだ
良く混ざったところで錬金石をかざすと錬金液が反応して薬が光を放つ。
ある程度結合しているから今回の錬金は簡単だ。
「……ここだ」
小さくご飯の歌を呟きながら仕上げに入る。
「赤子泣いても蓋とるな……!」
光の粒が宙を舞い、錬金が完了した。
「……問題ないわ。コカナシちゃん投薬の準備を」
「わかりました」
確認を終えた薬の瓶をコカナシが持っていく。今のままだとペースト状だから液体に加工するのだ。
「……うん、完璧ね」
投薬の後、診断をしたキリーさんの言葉を聞いて、ローラさんが涙をこぼした。




